第33話 雑談中
なんだかんだと授業やらグリモアの研究とかしてたら、いつの間にか野外訓練がすぐそこまで来ていた。人間は年齢を重ねると体感時間がどんどんと加速していくとか前世の研究で言われていたのを思い出した。その研究によると、19歳で人生の体感時間の半分を通り過ぎているのだとか……怖くね? まぁ、前世から頭が滅茶苦茶よかった訳ではないから、深く考えてもわかる訳ないんだが。
前世と言えば、俺はまともな女性関係を築いたことがない。別に女の友達がいなかったとかそんなことはないんだが、俺は女性に対して全くと言っていいほど無力だ。
「ほら、言った通りだろ? あの教授は頭でっかちで実技の腕はからっきしだ」
「普通に失礼ですからやめてくださいニーナさん」
「なんだ……アイビーは頭が固いな」
「貴女が他人に対して失礼なだけです」
何度も言うが女性に対して、俺は無力なんだ。だから、俺を挟んで2人で会話するのをやめてくれ。
助けを求めるような視線をアッシュに向けても、真面目にメモをしていてこちらに気が付かないし、エリクシラはこっそり持ち込んだ古書を読んで授業サボってるし。と言うか、アイビーはなんでニーナと喋りながらまた議事録みたいなメモとってるの? もしかして脳が複数あるの?
「なぁ? テオ」
「え? あ、あぁ……知らん」
「曖昧に一度同意してから適当に否定するのはテオドールさんが話を聞いていない時の特徴ですよ」
こわ。
「なにぃ? 私の話を聞いてないのか?」
「いや、ほぼ中身ない会話だったじゃん。俺を巻き込むな」
男子高校生が適当に時間を潰す時の会話よりも中身なかったぞ。
「そんなことより、野外訓練はどれくらい派手にやるんですか?」
「それは派閥の頭であるエリクシラに聞けよ」
「うぇ!? 私ですか!?」
「講義中は静かにしろ」
デカい声だすとすぐにアッシュに怒られるんだからやめろよな。
そもそも机の下に本を隠して講義を聞くふりして読むとか……お前はやる気のない大学生かよ。出席だけして講義中ずっと携帯を触ってるとか、大講堂で授業やってる時の大学生あるあるだろ。
「ところで、どれくらい派手にやるってのはどういう意味だ?」
「それは勿論、他の生徒を全て出し抜いて標的となる魔獣の首を狩りまくるのか、ここは他の生徒の実力を確かめるために最低限の魔獣だけ狩って見に徹するのかですよ」
「訓練は全力でやってこそ意味がある。見に徹するなんて選択肢がそもそもありえない」
「私はアッシュに賛成だな。手加減とか上手くできる気がしないし」
「いや、アッシュは真面目に訓練したいだけで、ニーナはただ暴れたいだけだろ」
この暴力女がよ。
「わ、私は……その、真面目にやったほうがいいんじゃないかなーって」
「では蹂躙しましょう」
「え? 蹂躙?」
「まぁ、いいか」
「え!?」
エリクシラがそう言って、アイビーが同意したなら俺もそれに反対する意味はない。そもそも、ニーナではないが俺も手加減をするのは苦手だ。やるならガンガンやった方が気持ちもいいし、どちらにせよ訓練で結果を出すことは大切だからな。
「エリクシラさん」
「は、はい」
「序列を200前後まで上げてくださいね。1年生の後期授業は序列順位によって授業内容が変わりますので、派閥内の人間は同じぐらいにいた方が効率好いですから」
「それ、俺も?」
「勿論です」
だよなー……どうすっかな。
序列最下位で始まった学園生活を今から巻き返すことは、正直言って難しいことではないと思う。なんなら、元々は最下位だったのに今では序列が上位! っていうインパクトでアピールするのもありなんだけど……俺の序列最下位はサボりによるものだからなー。
「いいじゃないか。テオとエリクシラはこれから序列が上の連中に喧嘩を売りまくればいい訳だろ? 簡単な話だ」
「野蛮すぎるけど、序列を上げるならそれが最適解か」
魔法騎士が完全なる実力主義ってのはいいことなのかもしれないけどさ……流石に学園の制度が完全に野蛮だよね。まるで一番強い奴が族長だって言ってる狩猟民族みたいな。
「すっごい今更なんだけどさ……派閥ってやっぱり魔法騎士団内でもあったりするの?」
「ありますよ」
うへぇ……流石にちょっと辟易とするぞ。
「まぁ、魔法騎士団の派閥は学園とはまた別です。現在の魔法騎士団にある主な派閥は、第1王子と第2王子の派閥ですから」
「あ、そっちね」
そりゃあいつの時代もあるわ。次期国王の支援者ともなれば、当然次の王様が決まった時に莫大な恩恵があるからな。
「そんなことより、まずは目の前の野外訓練だろ」
「いや、ニーナは魔法騎士団に興味ないからどうでもいいだけだろ。俺は最近ちょっと魔法騎士に興味出て来たんだから話ぐらい聞かせてくれよ」
「え、テオドールさんが魔法騎士に!?」
「……本当か?」
「嘘だろ、テオ。将来は私と一緒に冒険者をやるんじゃないのか?」
「お前らが俺のことをどう思っているのかはよーくわかったぞ」
エリクシラすらも驚いてるし、アッシュもメモする手を止めて俺を見つてきた。
俺だって興味の対象が移り変わったりぐらいするわ。そしてニーナとそんな約束をした覚えは俺にはない。
「俺のことはいいの。今は野外訓練の話だろ?」
「そ、そうですね」
あのいつも胡散臭い笑みを浮かべていたアイビーが、物凄い動揺していたのでちょっと傷ついた。俺、そんなに不真面目に見えるかな?
色々と派閥内で相談しながら授業を聞いていたら、不意に知らない生徒と目が合った。しかも滅茶苦茶睨まれてる……と思ったけど、あの睨む強さでこちらを見た生徒を思い出した。
特徴的な青髪に吸い込まれるような海のような青い目。間違いなく……序列2位に君臨している辺境伯爵家の令嬢ヒラルダ・ミエシスだ。中間試験の時に、エレミヤが俺に話しかけてきた時、ものすごい目で睨んできたから覚えてる。
「なんか変なのに目付けられた感じがなぁ……」
でも、変なのはアイビーもニーナも似たような者だから別に大丈夫か! それに、あの辺境伯令嬢は、エレミヤと同じ様に派閥が作られながらも全く気にしていないらしいから、集団で襲われるってことはないと思う。エレミヤと違って、温和な人じゃなくて滅茶苦茶鋭い視線をした一匹狼みたいな人だけど……多分大丈夫だよね?
「聞いてますか? テオドールさん」
「ん? あぁ……どうでもいい」
「だからそれ、貴方が人の話を聞いてない時の癖ですよ」
急に話しかけられて意識が浮上したから、適当に返答したらまた一瞬でバレた。
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