第25話 勧誘中

 考え方を変えることにした。

 以前は俺も目立ちたくないとか、魔法騎士になりたくないとか考えてたんだが……エリクシラの派閥に所属しているのならちゃんと目立つ方がいいんじゃないかって思ってきた訳だ。とは言え、学園内で目立つ方法って考えて真っ先に思い浮かんだのが、決闘を挑みまくることなんだけど……それやったら目立つって言うか、蛮族扱いされそうだからやめておこうと思う。


「で、俺もそろそろ本格的に色々と考えようかなと思った訳だ」

「そうですか……それで、何故私の所へ?」


 中庭で陽の光を浴びながら優雅に本を読んでいたアイビーを見つけたので、俺は彼女の隣に座って現在考えていることを喋った。

 普段から胡散臭そうな顔をしているアイビーも、突然やってきてベラベラと喋った俺には困惑しているらしい。俺もこんなこと急にされたら多分困惑するだろうから、気持ちはわかる。


「アイビーって平民なんだろ?」

「そうですね」

「……本当かどうか知らないけど」

「本当ですよ?」


 いや、それを信じさせる要素がないじゃん。さっきまで本を読んでいた所作も、滅茶苦茶綺麗だったし、平民とは思えないぐらいに魔法が上手いって話も聞いた。不正しているんじゃないかって話も出てるけど、中間試験で一緒に行動したのでそれがただの噂であることも確認した。


「今、エリクシラの派閥には俺とニーナしかいないんだよ」

「……どちらも平民ですと、言いたいんですか?」

「そうなんだよ! だから平民同士仲良くしないか?」


 俺がアイビーを派閥に引き入れようと思ったのは、アイビーが平民だからだ。本当に平民かどうかはわからないが、少なくとも学園内では平民として通っているんだから大丈夫だろう。

 そして、なにより彼女は1人で行動することを好んでいるような所があるからだ。序列5位という立場を持ちながら、他人と関わらず、孤高のままに振る舞う姿は美しい。


「俺たちの派閥は、基本的に自由にやってるからさ。所属するだけしてくれないかなって」

「序列5位が派閥に加われば、今以上に学園内で強権を振るえる」

「そういうことがしたい訳じゃないけど……まぁ、色々とな」


 俺だってあんまり他人と関わるのが得意な人間ではないが、この学園では群れていた方が得になることが多いと、この二ヶ月で思ったんだ。だからこうしてニーナ以外の人間を派閥に引き入れようとしている。本当は男子生徒が良かったんだけど……序列上位の男は貴族の嫡男とかばっかりで、話しかけるのも面倒な奴ばっかりだったから。いや、序列上位の女も貴族ばっかりだけども。


「ふむ……もう少し、考えさせてくれませんか?」

「全然いいよ。考えたいこともあると思うし」

「そうですね。具体的に言うと……派閥の長であるエリクシラのこと、詳しく知らないので」


 あー……そっち? 実は俺もエリクシラがどんな感じで戦うのか、全く知らないんだけどね。ただ、グリモアが使えるぐらいのセンスはあるから問題ないだろうと思ってたんだけど……世間的に見ると序列最下位だった女だからな。


「それよりも、私は貴方のことが気になってしかないんですけど」

「俺?」

「はい。序列が984位から250位まで一気に上がり、中間試験での動きを見ている限り……私の持つ5位の序列を持っていてもおかしくないと思いました。それに、夢の魔法を破る時に見せたあの魔力も、並みの人間では生涯到達できないものだと思いますが?」


 ふむ……さっきのエリクシラのことをよく知らないからってのはただの建前で、本音では俺のことを滅茶苦茶に警戒しているってことか?

 並みの人間では生涯到達することができないって表現はイマイチわからないが、彼女が俺の実力を警戒しているのはわかった。そもそもなんで実力を警戒する必要があるのかわからないけど。序列を抜かれると、不都合でもあるのだろうか。


「勘違いして欲しくないのですが、私は貴方のことが気に入らないとかではないんですよ? ただ、貴方が持っているその力が……気になってしまうだけで」

「胡散臭そうな笑顔のまま言われても全く説得力が無いけど」

「う、胡散臭そうですか? そんなつもりはないんですけど……」


 黒髪美女が目を細めて微笑んでたら、怪しいと思って当然では? 愛想のいい感じならまだしも、普段から1人で怪しく微笑んでいるんだから当たり前だろと思うんだけど。


「とにかく、貴方の実力をこの目で確かめさせて欲しいのです」

「どうやって?」

「そうですね……冒険者として、魔獣討伐なんていかがですか? ついでに、エリクシラさんも連れて行けば私の不安も解消されるでしょう」


 されるかなぁ?



「ってことがあったから、明後日は昼から魔獣討伐に出掛けるぞ」

「どういうことですか!? 全く説明が足りないんですけど!?」


 全ての授業が終わった後で、古書館にやってきたエリクシラに説明した。一緒にやってきていたニーナも、そのことを聞いてなんとなくソワソワしているけど、既に冒険者として活躍している女は連れて行かないからな。


「アイビーを味方に引き込めるならこれほどいいこともない。そこは理解できるだろ」

「そ、それはわかりますけど! なんで私の実力を見るってことになるんですか!?」

「そりゃあ、派閥の長なんだからある程度は強くないと困るってことなんじゃないの? 俺はそんなこと気にしないから全くわからないけど」

「気にしない人もどうかと思いますけどね!?」


 ごちゃごちゃうるさいな……どれだけ実力があったって、貴族と平民じゃ天と地ほども差があるんだから仕方ないだろ。平民が魔法騎士になったって、貴族との格差が完全に埋まる訳じゃないんだから。

 このクーリア王国は、王家が昔から穏健派だから貴族と平民の間にそれほどの軋轢はないけど、余所の国では平民に人権が皆無なことが普通なんだからな。貴族が遊びで平民を殺してもなんの罪にも問われない場所だってあるらしいからな。

 そんな事情があるから、ただ強いだけの平民よりも貴族の人間が派閥の長になった方が遥かにマシって訳。それだけで絡んでくる奴は減るからな……特にエリクシラは本人がクソ雑魚でもビフランス家が凄い家だから、落ちこぼれであろうとも手は出しにくいだろ。


「魔獣をちょっと討伐して実力を見せるだけだからなんにも起こらないって」

「大体そういうことを言ってる人がいる時はなにか起こるんですよ!」


 そんなフラグ回収するじゃんみたいな言い方やめろって。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る