第24話 無駄骨でした
中間試験はマジで余裕の突破だった。
そんなことより、俺は転移魔法が完成せずに実用化されていないことの方が気になって仕方ないんだ。なんであったら滅茶苦茶便利そうなのに、そのまま放置されているんだろうって。いや、放置はされていないんだろうけども、もうちょっとこう……情熱を感じさせて欲しいと言うか。
中間試験の翌日には、1日授業サボって学園の古書館で色々と転移魔法について調べたが、どの本にも「結論、無理」って書いてあってクッソイラついてる。
「……あの」
「あ?」
「ひっ!?」
おぉ……エリクシラか。今日は朝からこの古書館に引き籠ってたから、誰かに話しかけられるなんて思ってもなかった。
「そ、それ……転移魔法に関する論文、ですか?」
「そうなんだよ。昨日の中間試験で、偽装の為に使われた転移魔法結界があっただろ? それがただ騙すだけのものだったってのが納得いかなくてさ。なんとか実用化する方法とかないのかなーって思ったら、どいつもこいつも無理って書きやがって……だったら本にするな!」
紙の無駄だろうが!
まぁ……製紙の魔法とかいう何の為に作ったんだよって魔法がこの世界にはあるから、本自体は滅茶苦茶作られまくってるんだけど。だからってこんな中身のない論文をまとめた本なんか作ってんじゃねーよ。
「て、転移魔法なら……もしかしたら実現できるかもって話を聞いたことありますけど」
「どこで!? 俺に教えてくれ!」
もう気になって仕方がないんだ! 授業サボって古書館に引き籠るぐらい、俺にとっては滅茶苦茶大事なことなんだから!
俺に詰め寄られたエリクシラは、なんとなくビビりながら古書館の端っこを指差した。そこには埃を被って明らかに誰にも触れられていないことが一目で理解できる本が積まれていた。同時に、俺はそれがなんなのかも理解した。あれは……マジモンの古書だ。
「なるほどね……古代魔法なら、確かに転移魔法ぐらいあるかもしれないな」
古代……遥か数千年前に人類や魔族が使用していた魔法は、現在の魔法とは全く系統が違ったと言う。どれくらいに違ったのかは、そもそも古代魔法の殆どが失われてしまっているのでわかっていないが、解明されている範囲で言えることは……二度と再現されないであろうということだけらしい。
古代魔法の研究自体が消極的にしか行われていないので、誰もその原理を気にしたりしないのが一番の問題だと思う。まぁ、俺も古代魔法そのものに興味はあるんだが……解明しようとは思わない。その最大の理由が、この本が埃を被っている理由でもある。
「……やっぱり、古語で書かれてる」
開いた大きな魔導書のような本の中に書かれている文字は、全く読むこともできない古語で書かれている。現在の人間が使っている言語とは文法そのものから違っているのではないかと推測されるほど、規則性もなく並んだ文字列の文章。これが古代魔法の解明がされていない最大の原因。
全く読める気がしない文章を見て、誰が解明しようと思うのか。
「それこそロゼッタストーンみたいなもんでもあれば、全然楽なんだろうけどなぁ」
「ろ、ろぜった?」
「なんでもない」
転移魔法は誰も考えず、手掛かりがありそうな古代魔法の魔導書も全く読むことはできない。そうなると……完全に手詰まりだ。後はひたすらに試行回数を重ねて偶然完成することにかけるぐらいしかできない。
「……やーめた。こんな解読できない本を読むぐらいなら、普通に他の魔法を研究した方が早いわ」
「そ、それはそうだと思いますよ?」
「あ、そう言えば」
エリクシラの控えめな同意で思い出したんだが……中間試験の結果を聞いてなかった。
「俺、今日は授業受けてな……体調悪かったから授業出てないんだけど、中間試験の結果とか発表されてた?」
「ずる休みですよね?」
うるせぇ。
「結果は廊下に張り出されてましたよ。私も、序列上がってましたから」
おぉ……ドヤ顔。それにしても、普段からちょっと俯きがちで猫背なせいで分かり難いけど、マジでデカいな。なにがとは言わないけど。
「で、派閥の長として大きな顔できるぐらいの序列になったのか?」
「…………651位でした」
「そんなに変わらないな」
「300ですよ300! もの凄い進歩ですよ!」
はいはい、凄い凄い。
「俺は?」
「自分で確認してくださいよ……」
「面倒。どうせ知ってんだろ? そういうの細かく気になって見てくるタイプじゃん」
「な、何故わかるのかは置いておいて……確かに貴方の結果も見てきましたよ。派閥の長にもされてましたし」
ね?
「結論から言いますと、貴方の序列は250位から241位まで上がってました」
「それほぼ上がってないだろ。なんでそんな細かいことまで覚えてんの?」
「教えろって言ったの貴方じゃないですか」
まぁ、別に上がり過ぎてもなんとなく嫌だからいいけどさ。
「実力を考えたらまだ全然なんじゃないですか?」
「別にそこはどうでもいいんだよ。俺も最近はちょっと魔法騎士になってもいいかなって思い始めて来たから」
「え? どんな心境の変化ですか」
なんだその態度は。俺だって考え方が変わることもあるだろうが……ちょっと興味が出ただけだから、絶対になりたいとは思ってないけど。
「そうだな、私としてはもっと上がると思ってたんだが」
「……ニーナ、かっこつけなのか知らないけど、窓から入ってこない方がいいぞ」
ここ、2階なんだが?
「そうか? 正面から入ったら変な女に絡まれそうだったから避けてきたんだが」
「変な女?」
「あぁ……噂の猪突猛進の暴走姫だよ」
「誰が、猪突猛進ですって?」
どうしてこう、面倒な連中が集まってくるのか。エリクシラはニーナの登場で既に縮こまっていたのに、エリッサ姫がやってきたことで存在感が消失していったぞ。
「テオドール、貴方また授業を休んだそうね?」
「なんで知ってんだよ。俺のこと気にするとか、お前はエレミヤか?」
「情報源はそのエレミヤよ!」
マジなのかよ。あの男、まさか俺のストーカーか?
「真面目に授業を受けなさいと言ったはずよね? 私、以前に言ったわよね?」
「おぉ……そう言えばニーナとエリッサ姫は序列どうだったんだ?」
「ん? 私は11位に上がって姫様はそのままだったな」
「マジ? ニーナに抜かれてんじゃん、ウケる」
あ、完全に怒ったな、これは。
その後、俺は数分間ひたすらに怒られ続けたが、面倒だったのでそのままニーナと共に窓から飛び出して説教から逃げ出した。
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