第23話 イケメンが怖い
「それにしても、現実主義の貴方が夢の世界を操る魔法なんて……面白いですね」
「私の考える現実は、私が実際に目にして体験したもののことだ。私にとって夢と言うのは、現実に私が体感した経験だ」
なるほど……そう考えると確かに夢を操る魔法があってもいいのか。
「やぁ……やっぱり君は凄いね」
「イケメン野郎……」
「なんて?」
「間違えた。エレミヤ」
既に起き上がっていたのであろうエレミヤが、朗らかに話しかけてきた。後光が見えるようなイケメンのご尊顔に、ちょっと気圧されてしまったけど、なんとか体勢を立て直してその顔を直視した。
「どうやって抜け出したんだい?」
「こっちの方が聞きたいわ。なんでこんな速いんだよ」
「あはは……家の教育で、トラップ系の魔法には慣れててね」
公爵家のエリートだから色々なことを想定しているってことね。まぁ……夢の世界に閉じ込める魔法なんて物凄いレアな話だが、それ以外にも意識を飛ばすトラップ系の魔法が合ったりする訳で。そんな魔法を使われてから暗殺されたらたまったものではないってことね。貴族は暗殺を警戒しなきゃいけないとか大変だね……そういう所は平民生まれでよかったと思うわ。
「なにも知らない無知な平民に教えて欲しいんだけどさ」
「なんだい、そのよくわからない皮肉のようなな何かは」
「中間試験ってこれで終わりなの? もっと大々的にばーって生徒同士が戦ったりとかは?」
「しないよ。そもそもただの中間試験なんだから」
そう、なのか……学生時代の中間テストって滅茶苦茶苦労した覚えがあるけど、クロノス魔法騎士学園の中間試験は簡単なんだな。
「君が言っているのは後期にある学年末試験のことだろう?」
「学年末にはみんなで戦うのがあるの?」
「別に総当たりをするようなものじゃないけどね。けど、生徒同士の戦いは序列を決めるには一番簡単な方法だから」
「……なるほど」
つまり、学園自体が脳筋みたいな発想をしていると。やっぱりこんな脳筋蛮族思考の学園から輩出される魔法騎士とか、全員がエリート蛮族のとんでもない組織なのでは? 一応は国防の為に存在する組織だよな?
「それにしても、こんなに早く君が起き上がってきたら……序列はまた一気に変わりそうだね」
「そうでもないだろ。その為にあの女と一緒に行動してたんだから」
普通に考えて、序列250位の人間と序列5位の人間が一緒に動き、2人が同時に相手の罠から抜け出したら……250位の人間はたまたま5位のおこぼれを貰ったんだと認識するだろ。最初からそれを狙ってた訳じゃないけど、随分と上手い展開になってくれたなと俺は思ってたぞ。
「250位って順位が気に入ってるんだ。過度に期待もされず、それでいてなんとなく見下されもしない。転科を進められる訳でもなく、魔法騎士の称号が与えられるかもと注目されるほどでもない。人間、ほどほどが一番いいんだよ」
「そうかな? でも……僕は今すぐにでも君と戦ってみたいと思ってるけどね」
「絶対に嫌だ」
こいつ、授業の度にこれ言ってくるからな。この男が俺のことを評価してくれているのは理解したけど、こんな目立つ奴と戦ったらたとえ決闘じゃなくても話題になっちゃうだろうが。それに、エレミヤは絶対に俺と戦ったことを周囲に言いまわるだろう。そういう手段を選ばない冷たさも、こいつは持ち合わせていると思う。逆に言うと、そういうことを周囲に言わないお人好しのエリッサ姫とかは、別に受けてもいいと思うけど。
「まぁ、卒業までに必ず君とは戦う気がするよ。運命って言ってもいいかな?」
「絶対にやめろ」
なんでちょっとそっち系に話を持って行こうとするのかな? 俺は別にエレミヤのことをライバルとか思ってないし、そもそも競い合う関係だって思ってもないからな。俺にとってエレミヤは、序列1位で性格もいいイケメン君ってだけだから。
「いいな。私もお前とは戦ってみたいと思っているぞ、エレミヤ・フリスベルグ」
「君は……」
「ニーナ? いつの間に」
魔法を扱うがの苦手なニーナにとって、これほど難しい試験はないと密かに思っていたんだが……周囲を見てもまだ10人も起き上がっていない段階で、魔法を破って出てくるとは。
「どうやってって顔をしているがな、魔法は魔力で相殺することができる。そして魔法が苦手な人間でも、魔力の放出は充分に行える場合は多い」
「そっか」
魔力を放出することと、それを変質させて魔法として扱うのでは訳が違うもんな。魔法が苦手でも、魔力を放出することさえできれば今回の試験はなんとでもなるってことだ。
「それにしても、随分と趣味の悪い試験だと思わないか? 生徒をふるいにかけると言っても、少し強引すぎるぐらいだ」
「いや、俺はそう思わないけどな」
流石に、先生だって魔法を全力では使っていないだろうから、ある程度以上の魔力が放出できれば脱出することだって難しくないはずだ。それさえできないって言うのなら、それこそ魔法騎士なんて最初から目指すべきじゃないし、そんな連中はそもそもこの魔法騎士科にいないはずだ。
「私たちの派閥の長はぐっすりだがな」
「まぁ、エリクシラはそういう奴だよ。でも、すぐに起き上がってくるさ。あの女が絶望的に魔法騎士に向いていないことは、一緒にいたニーナも良く知っているだろうけど……魔法に関してだけはマジで天才だと思うからな」
「へぇ……今の984位、だよね?」
「そうだ。魔法だけで限定するなら、もしかしたらエレミヤよりも上かもな」
知らんけど。
「そうか。君がそう言うなら本当のことだろうから、ちょっと注目しておくよ」
「いや、人の言葉をもう少し疑おうとかないのか? もっとこう……なんかあるだろ」
「失礼な。僕だって無条件に人の話を聞いて頷いたりなんてしないよ。君の言葉だから、こうして受け止めているんだ」
「……おいテオ、お前こいつに何したんだ? まるで命の恩人みたいに信頼されているように見えるんだが」
「俺に言うな!」
こっちが知りたいわ! こいつが馴れ馴れしい恐らく生まれついての性分で、単純に友達が多いイケメン特有のコミュニケーション能力だと思うが、ここまで俺が信頼されている理由は俺にはわからん!
別に過去に命を助けた貴族がいるとか、そんなことはないからな!
「ふふ……僕はただ、1人の魔法騎士候補生として君のことを注目しているだけさ。目下、最大のライバルは君だ、とね」
馬鹿野郎こんな所で変なこと言うな。向こうにいた序列2位さんがこっちを睨みつけるような視線を向けて来ただろうが!
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