第21話 ちょっと思う所あり
「ふっ」
幻惑の森に出てくる魔獣は幻を作り出すような魔法を使って来るが……それは魔法を発動できる場合に限った話だ。俺の前を走っているアイビーは、魔獣を見つけると相手が反応するよりも先に動いてその首を素手で刎ねる。
「手刀で首を刎ねるとか本当に魔法騎士かよ」
「さっきからそればかり言われるんですけど……普通にみなさんやってますよね?」
そんなこと俺はしないぞ。だって普通に剣を使った方が楽だろう。手刀でやろうと思えばできるだろうけど……いや、そもそも両手大剣なんて背負ってるから素手で攻撃することになるんだろ。普通に片手直剣でも使えばわざわざそんなことしないで済むだろうに。
両手大剣を振るうことが自分の身体に合っているというのなら、サブでもいいから短剣を持っておくとかしておけばいいのに……手刀って、完全に蛮族の選択じゃん。嵩張らないから手刀の方がいいとか考えるなら最初からそんなデカい剣を持つなって話だろ?
「魔法騎士として人と戦った時、手刀が使えると不意打ちにもなりますし」
「いや、さっき普通にみんなやってるって言ってたから、不意打ちにも使えないだろ」
不意打ちなら投擲用のナイフでも持った方がいいんじゃないか? 少なくとも俺はかなり小さいのだけど2本は隠し持ってるぞ。
そもそも手刀が不意打ちで使える場面ってどこだよ。不意打ちってのは一撃で仕留めて初めて効果が発揮するものなんだから、手刀とかわざわざ使うぐらいだったら相手の首をへし折った方がいいと思うの。まぁ……魔獣相手だと首をへし折るのは難しいと思うけど。
「ん?」
色々と考え込みながら走っていたら、俺の背後から超絶巨大なネズミのような魔獣が走ってきていた。歩幅の問題ですぐに追いつかれてしまいそうだが……そもそもこんな巨大な魔獣が近寄ってきていることに気が付かない訳がないので、普通に幻だろうな。
「幻を見ましたか? 魔力を周囲に放って魔力を攪乱するといいですよ。そうすることで簡単に幻惑の魔力を弾き飛ばすことができますから」
「へぇ……幻惑草の対応もお手の物ってか。やっぱり1人で脱出なんて簡単にできたんじゃないのか?」
「いいえ、そうでもないですよ。私は少しでも安心できる確率を上げたいんです……その為には、貴方のような力を持っている人が仲間でいてくれると非常に助かるんですよ」
「胡散臭いな。なにもかも」
「……よく言われます」
いや、よく言われるのはいいことじゃないと思うけどな。
こうして一緒に行動していればわかるが……確かにこの女は強い。まだ剣すら使っていないが、数匹の魔獣を簡単に仕留めた実力から考えても、序列5位ってのは伊達じゃないことは理解できる。そして……恐らくだが、この女は持っている側だ。
まだ正確な情報が揃っている訳ではないが……感覚的にはニーナよりも、強そうだ。ちょっと戦ってみたい気持ちもあるし、こんな実力者のグリモアも見てみたいが……それは試験が終わってからでもいいか。
「ん……それにしても、ここが幻惑の森だってどうやって理解したんだ?」
「幻惑草がどんな植生で、どのような気候を好んで生えているのかは把握していましたから。そして、この森が幻惑草が最も好む気候に合致していることから、導き出しました。王都郊外からそれほど離れていることもないだろうって推理もありましたけど……貴方は?」
「俺? 俺は……転移魔法結界を読み解いて飛ばされた方角を計算して……試験会場にできそうな森を頭の中で考えた」
「……転移魔法結界を、読み解いた?」
「魔法はどんなに略式にしても魔法陣が存在するだろ? そこから魔法を読んだだけだ……今回の転移魔法結界は大掛かりで多分完成している訳でもないだろうから、普通に読めたけどな」
俺にとって、略式の魔法陣を読み解くことは暗号解読と同じだ。完全に趣味でしかないが、実際にパッと目の前に出されても普段からやっていることをそのまま行うだけなので、普通に読み解ける。
「瞬時に魔法陣の構成要素を見つけ出し、頭の中にある魔法陣を検索して当てはまりそうな魔法を考えるんだ」
「……この世に魔法がどれだけの種類、存在していると思っているんですか?」
「そんなのは知らない。俺だって本に描かれているような魔法陣しか知らないしな」
とは言え、どんなに頑張ったって現代の魔法は、定型化した要素を組み合わせて作り出すパズルようなものだ。いくら初見の魔法だろうとも、全くもって意味が理解できないような魔法なんて存在しない。現代の魔法なら、な。
「そう、ですか……貴方は魔法騎士と言うより、魔法師の方が向いていそうですが」
「俺もそう思う。魔法騎士科から転科しようかなって思ってるんだけど」
「250位が転科なんてしたら大騒ぎだと思いますけどね」
「それもそうだな」
984位が転科しても当然だろって思われるけど、流石に250位がなんの理由もなく転科したら騒ぎになるよな……でも、俺はそっちの方が楽しく学べると思うよ。
「そうすると、貴方は将来的に南の島国へと向かうのが夢だったり」
「南の……あぁ、魔法大国って噂されている例の」
「あんまり興味なさそうですね」
「うん」
クーリア王国があるこの大陸から南の海を向かうと、水平線の彼方に魔法が発達した島国がある……なんてクーリア王国では数百年前から言われている。何処から出た話なのかもわからないことだが、実際に南の海域を進むと急に濃い霧が立ち込めて進めなくなる海域があるらしい。それが魔法の結界で、その中心には魔法大国が……なんて言われている。
魔法師ならば誰もが目指したがると言われる魔法の楽園だが……俺はそんなに興味が無い。と言うのも、俺はあるかどうかもわからないものを追いかけるぐらいなら、自分の手で新しいものを作り出したいと考えるタイプだ。
「最近じゃあ、魔法騎士ってのもそれなりに楽しそうなのかなって思い始めてるんだよな」
「そうなんですか? 興味が無さそうですが」
「まぁ……ちょっとニーナとかエリッサ姫と関わってたらね」
ニーナは魔法騎士になれば安定した収入が得られるから、エリッサ姫は魔法騎士の称号そのものが、エリクシラは受け継いできた血の宿命を、それぞれ魔法騎士科に入った理由は違っても、誰もがその称号の為だけに努力している。最初は興味なんてないって言ってたけど……そうやって自分だけのことを考えていては駄目なんじゃないかと、思い始めて来たんだ。
まだ、思い始めただけだから、なにかあったらすぐに元に戻るけど。
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