第20話 怪しい女
「自己紹介からしましょうか。私はアイビー・メラルダス……と言っても、貴方は私のことをご存じの様ですが」
「逆に序列5位を知らない人なんてあんまりいないと思うけどな……」
自分で言うのもなんだけど、多分魔法騎士科で序列に一番興味ないのは俺だ。そんな俺でも知っているぐらいの有名人なんだから、多分誰でも知ってると思うぞ。まぁ……ニーナに教えて貰うまでは全く知りもしなかったんだけど。
それより、俺が知りたいのは200位前後の連中しかいないはずの幻惑の森に、序列が5位の人間がいる理由なんだが……もしかして、順番にポンポンと幻惑の森に向かって飛ばしているのだろうか。つまり、序列が上の方の生徒が先に飛ばされていたとか……考えられるか。
「念のために確認したいんだが……魔法陣で何も聞かされずにポンっと飛ばされたらここにいたって感じなのか?」
「そうですね……はい。王都郊外に集められたと思ったら、急に魔法陣で飛ばされてこの場所に。これこそが試験なんだとみなさんすぐにいなくなってしまったので……私だけゆっくりと森を探索しているんです」
ふむ……こっちは変に纏めたがる奴が現れて色々やってたけど、どうやら序列の最上位連中はさっさと個人で動いているらしい。正直……連携なんて普段から練習している訳でもないのに、誰かがリーダーになって動くってのも変な話だ。それに、これは試験なのだから成績で順位をつける訳で、余計に協力するなんて変な話だよな。
「で、貴方は?」
「え? あぁ……名乗ってなかったな」
勝手に頭の中で話を進めてたけど、そう言えば名乗ってなかった。
「俺はテオドール・アンセム。序列は250位で……さっき飛ばされてきたばっかりだ」
「まぁ……250位、ですか。そうですか……ふふ」
なんか……一々言動が胡散臭いというか。今の微笑みも、まるでこちらの序列を聞いて低いと嘲笑っているようにも見えるし、逆にこちらの実力を把握したうえでまだ上に行けるでしょうと言わんばかりの微笑みにも見える。目が細いってこんなに怪しく見えるんだな。
「幻惑の森から飛び出すことさえできれば、ステラ大河を見つけて元の場所へと戻ることができます。それまで、協力しませんか?」
「何のために?」
何度も言うが、序列に影響する試験である以上は協力する意味などない。むしろ相手に塩を送るようなもので、デメリットしか存在しないと言ってもいい。それくらいに協力することは俺にとって受け入れられない話だ。
「何のためにって……安心のために、ですよ」
「安心のため? 序列5位のお前が?」
「序列は関係ありません……人間は安心の為ならばなんだってするべきだと、私は思っていますよ。安心できるから、人は日常の営みを送ることができるんです」
なんだこいつ。なんか……貴族みたいなこと言ってるぞ。一応、平民出身で唯一序列が一桁であるとは聞いたけど……全く平民らしくないと言うか。普通に、貴族の出身であることを隠してるだけなんじゃないのか?
ただひたすらに怪しいんだけど……このまま話していても埒が明かないな。本心を見せそうな人間ではなさそうだし、なによりこの女に関しては色々な噂が流れていて、実力もあんまり見えてこない。ただ……漠然と強いだろうと言うことだけだ。
「まぁ……貴方が安心できないと言うのなら、私も飲み込みますが……幻惑の森を抜けるには、2人で協力した方が効率は良いと思いますよ? 序列に関係する試験だとしても、私1人と協力して他の複数人を出し抜くか、私のことを嫌って他の人と同じ条件で戦うかは、貴方に任せます」
「……」
俺が断ろうとしている理由もお見通しってか。しかもご丁寧にお前の考え方には意味ないんてないぞと言わんばかりの理由付けまでしてくれやがって。ただ……この女の言っていることも理解でいない訳ではない。1人と協力して複数人を出し抜く……それは確かに、いいことだと思う。
「わかった。信用できないが、幻惑の森を抜けるために協力しよう」
「まぁ。嬉しいです」
よく言う。どうせこうやって言えば俺が頷くことも計算に入れてたんだろうよ。全く人の思い通りに動くことになるのは腹が立つ。とは言え、それはただの不快だって気持ちだけなので、無理矢理飲み込んでこの女の提案を受け入れる。直接殴り合うようなことがあったら絶対に容赦しない。糸目を薄っすらと開いて、不敵に笑うアイビー・メラルダスの顔を見て、そう誓った。
俺の前方を走るアイビーは、しきりに魔力を周囲に放ちながらなにかを確認している。
「幻惑の森で幻を見るのは、幻惑草による魔力が原因であるとされていますが、それ以外にも周囲に生えている樹々が魔力を乱反射しているからでもあると言われています」
「幻惑草には単体で幻を作り出す効果なんてないのに、幻惑の森では幻が現れる理由はそれが原因だと……まだ、仮説段階だったと思うけどな」
「あり得る話だと思います。だからこうして、魔力を四方八方に放っている訳ですから」
幻惑草が放つ特殊な魔力に対して、それと相反するような性質の魔力をアイビーは周囲にまき散らしているのだろう。普通はそんな風に意図して魔力の性質を変換することなんてできないんだが、アイビーはいとも容易く行っている。そんな実力が垣間見える行動をしているのを見ていると……やっぱり俺に協力を申し込んだ理由がわからない。
考えられるのは、984位から一気に250位まで上がった俺の実力を確認する為か。だが、俺がカールと大々的に決闘したのは知っているはずだから、実力を確認する必要はないと思うが。
「それにしても、通常の片手直剣を見ると些か驚いてしまいますね」
「……なんで?」
「序列が上の方の人は、結構変な武器を使っている人が多いですから」
まぁ……それは事実か? 多分、序列が上の方で片手直剣を使っているのはエリッサ姫ぐらいか? ニーナは双剣だし、1位のエレミヤは正確に言えばレイピアで、2位の辺境伯家令嬢は槍。俺の目の前を走っている5位のアイビーは身の丈ほどの両手大剣だ。
「俺としては女性が両手大剣を使っている方が驚きだがな」
「そうですか? 第5師団で有名な
「知らん」
魔法騎士の二つ名とか言われても知らんわ。
そもそも鏖殺騎士って……本当に国を守護する魔法騎士かよそいつは。
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