第19話 いざ中間試験
クロノス魔法騎士学園に入学してから既に2ヶ月と少し。学園内では少しずつ一年生同士による決闘が行われ始め、序列が入れ替わったりしているようだが……俺は最初に250位になってからまだ一度も決闘をしていない。挑んでも無ければ挑まれてもない状態なんだが……俺としてはかなり嬉しい状況でもあるとも言える。
ノリと勢いだけで派閥を結成した俺たちだが、トップであるエリクシラが中間試験までに剣を振れるようにとひたすらに修行していた。新規メンバーは今のところ増えていないが、ニーナが言うには中間試験で結果を示せば自ずとついて来ようと思う人間は現れるとのことだ。ただの筆記試験なら、適当にやっていれば普通に良い点数出せると思うんだが……実技試験は相手をする魔獣の種類によるだろうな。
そんなこんなで、中間試験の為に王都郊外へと移動してきたのだが……明らかに周囲にいる生徒は984人には見えない。もしかして、序列の順位によって試験会場が違うとかあるのかな。まぁ、王都郊外にみんなで集まったら流石に人が多すぎるもんな……その説が濃厚か。
「では、序列299位から200位までの諸君……この中間試験では君たちの咄嗟の対応力を試すものであることを言っておく。各々がその場で最適解を求め、それを導きながら帰還すること。では、健闘を祈る」
教官役の魔法騎士の人がそれだけ言ったら、集められていた俺たちの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「な、なんだっ!?」
「どうなってるの!?」
「きょ、教官!?」
あぁ……この魔法陣、見たことあるな。確か複数人の魔法騎士が集まって発動させることが可能になると言われている巨大魔法陣……転移結界魔法だ。
視界が真っ白に染まったと思ったら、いつの間にか全員が鬱蒼とした森の中へと飛ばされていた。
「転移魔法結界……まさか実用化してるとは思わなったな。俺が読んだ本だと未だに任意の場所に飛ばすのが難しいって話だったけど、これは指向性を持たせることには成功したって感じなのかな?」
もう生徒たちはパニックになっているけど、俺は単純に転移魔法結界がしっかり機能していること自体に驚いてしまっているし、ワクワクしてしまった。既に転移魔法結界の構造は俺の頭の中にあるし、この試験会場であろう場所に飛ばされる前に見た魔法陣の構成要素から、どこで位置を指定して飛ばしているのかもおおよそ検討がついている。とは言え、それですぐさま帰るってのはちょっと無理そうだけど。
ところで、だ。転移魔法結界の質は確かに凄まじかったけど……飛ばされた先になんの説明もないってのは気になる。今は多くの生徒が身を寄せ合って色々と話し合っているみたいだけど……中間試験は咄嗟の対応力を試すって言ってたから、多分ここからなにかをしろってことだと思うんだが。
「みんな! まずは落ち着こう。ここで焦っても仕方ないから」
手を叩きながら大きな声で取りまとめようとしている男がいる……悪いが俺は先に行かせてもらう。これがエリッサ姫の言う通り、序列にすら影響する試験なのだとすると早い者勝ちが基本中の基本。この森でなにかしらの行為をすることが試験の内容であることは間違いない。
団体行動がただ苦手だってのもあるけど、早い者勝ちの試験で慣れ合ってなどいられない。
まず、この中間試験のゴールはあの教官がいた場所まで戻ることだろう。最適解を求めてこの場に帰還すること、と言っていたのに帰って来ることが試験じゃないなんてことはないはずだ。
「得意な感じの試験だな」
他の生徒には悪いが、少し出し抜かせてもらおう。
俺はこの森に飛ばされる直前に転移魔法結界の構成要素を読み解いている。書物に描かれていたなんの手も加えられていない状態の転移魔法結界の要素と照らし合わせて、この森に生徒を飛ばした転移魔法結界の特異性を見抜き、その結果から逆算して元々いた位置を探る。
「どっちが北かわからないが、取り敢えずあの場所からこの森は南西方向にあることがわかるから……北東方向に進めば元の場所に戻れるはず! どっちが北か知らんけど」
くそ……北がどっちかわかれば即座に帰ることができるんだが……全くわからん。太陽の位置からなんとなくの方角を判断しようかとも思ったが、この森はなにか変で太陽が複数あるように見える。
王都から南西方向に存在し、太陽が複数あるように見える森。
「王都から南西……確か、ステラ大河の向こう側に「幻惑の森」とかいうふざけた森林地帯があったな」
特殊な魔力を空気中にまき散らす幻惑草がやたらめったらに生えている森林地帯で、現実を歪ませて幻を見せるとかいうゴミみたいな森だ。一度入ると抜け出すのは中々難しく、内部に生息している魔獣も強さはそこまででもないが、特殊な魔法を持っていることが多い……らしい。書物の知識のみだから本当かどうかは知らないけど。
「1年生の中間試験で幻惑の森に突然飛ばしてそこからなんの説明もなく自力で帰って来いって……無理だろ」
北がわからないとか思ってたけど、ここが幻惑の森ならまずは森そのものから脱出するのが一番重要だな。その後の方角なんて適当でなんとかなる。ただ……そもそもこの森から出ないことには始まらない訳だ。
クロノス魔法騎士学園、来る者は拒まずって方針は理解するけど、魔法騎士としての基礎も学びきれていない1年生を放り出すのはどうかと思うぞ。昔みたいに戦争で魔法騎士が不足してるとかでもない癖に。
伝統的に厳しいとは聞いていたし、それが強い魔法騎士を多く抱える理由だとは理解しているつもりだが……これは流石にやり過ぎだろ。こんなの序列1位でもパパっと攻略できる訳でもないのに。
「…………お前、幻か?」
「そういう貴方こそ、人間ですか?」
しばらくあてもなく森を歩いていた俺の前に、黒髪黒目の乙女が現れた。エリクシラ級のバストを持ちながら、俺と同じぐらいの身長の美女。その麗しい見た目からは不釣り合いなほどに巨大な……両刃大剣。
あまり序列に興味が無い俺でも、その姿を見ただけで彼女が誰なのかを即座に理解した。
「それにしても困りましたね……まさか幻惑の森に飛ばされるとは」
「実は大して困ってないだろ。序列5位さん」
「おや、バレてしまいましたか」
ニーナが興味を示していた平民出身で最も序列が上の生徒……アイビー・メラルダスは、その胡散臭そうな糸目を薄っすらと開きながら笑っていた。
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