第18話 派閥を結成しよう
「わからないな……テオドール・アンセム、何故試験を受けなかった。これだけの力があればお前は数年もすれば魔法騎士団の師団長……いや、騎士団総長にすらなれるかもしれないと言うのに」
「総長? 団長じゃなくて?」
「……本当に魔法騎士に興味が無いんだな。魔法騎士団が創設された時は確かに一番上が団長だったが、規模が大きくなるにつれて師団ができ、頭を総長にしたんだ」
「へー」
知らなかったわ。魔法騎士団は騎士団長が仕切ってて、それの下に師団長が存在しているのかと思ってたけど、そうでもないらしい。
「試験を受けなかったのは、そもそも序列なんてものが存在していることすらまともに知らなかったのと、魔法騎士そのものにそこまで興味が無かったから、かな。まぁ、序列が低いと色々と不便があるって聞いたから250位ぐらいを目指してたんだけど」
「それで見事に250位になったと」
そこはまぁ……運がよかったのかなって。まさか向こうから絡んでくるとは思わないじゃん。でも、俺から喧嘩を売ればもっと大きな話になったかもしれないけど、あくまで今回は向こうが勝手に挑んできて、そのまま負けた馬鹿って話になるから大丈夫……なはず。少なくとも、派閥のトップであるエリッサ姫がなにかをする人じゃないから大丈夫なんだと思うけど……流石にちょっと不安。
「……面白いな。一つ相談なんだが」
「なに? もう嫌な予感しかしないんだけど」
「テオ、お前をリーダーとして派閥を結成しないか? 別に派閥に所属する人間の中で、必ずリーダーが序列が上じゃないといけないなんて縛りはないからな」
「作ってどうするんだよそんなもん」
「貴族連中と戦いまくるんだよ」
やっぱり弱肉強食が頭の中に浸透している女は禄でもないな。だが……これから俺は色んな学生に狙われるようになるって考えると、確かに派閥に所属するのはありなのかもしれない。全部蹴散らせばいいかもしれないけど、それは流石に脳筋が過ぎるからな。
「……神輿なら、いいのがいる」
「ほぉ?」
「なにせ、クーリア王国魔法騎士団、その初代団長の血筋の人間だ」
ちょっと体のいい隠れ蓑に使わせてもらおう。後で謝ればまぁ……許してくれるだろ、エリクシラなら。
「絶対に許しませんからね」
駄目だった。
俺が序列250位になったことで、そのまま流されて名実ともに最下位の984位となったエリクシラを頭に据えようって話に、ニーナは頷いてくれた。神輿には平民の人間よりも貴族の人間の方がいいってことは流石に理解していたらしい。多分だけど、ニーナは初代団長の血を持つ生徒に興味を持っただけなんじゃないかな。
「嫌なら断ればいいのに」
「断れると思いますか!? ただでさえ実家からビフランス家に泥を塗るなと言われているのに、序列が250位になった怪物さんと、吸血姫に囲まれて!」
「その吸血姫って呼び名はやめろ。恥ずかしくて名乗れん二つ名をつけるな」
あ、流石に厨二チックなネーミングセンスを嫌うぐらいの恥はあったんだな。てっきり、冒険者は自分からそうやって名乗ってるものとばかり……そうすると、魔法騎士についている二つ名とかも、国とか民衆が勝手に付けてるのかな。
「よし、今日から俺たちはエリクシラ派閥だ! 派閥のエンブレムは開いた本にしよう」
前世の日本で言う図書館の地図記号とも言う。
「派閥のエンブレムなんてあるのか?」
「あ、ありますよ……基本的には、派閥のリーダーになる人の家紋を使っているみたいですけど」
「派閥のメンバーは俺とニーナだけだからな」
「少ないですね!? そんなんでよく派閥作ろうとか言えましたね!?」
ここから増やせばいいんだよ。取り敢えず、男の派閥メンバーが欲しい。男が1人ってのは流石に面倒部分が多そうなので、男のメンバーを探そうと思っている。
「そう悪いことばかりではないぞ? 来月には集団演習があるだろう? 魔獣の森まで行って複数人で行動することが義務付けられるんだから、その時にわざわざメンバーを決める必要がなくなる」
「へー、そうなんだ。俺とニーナは人に避けられてるし、エリクシラは984位で人に避けられてるんだから丁度いいね」
「そ、そこだけは否定できないっ!?」
ぼっちはぼっち同士で仲良くしましょうよってことだな。
「ふむ……見たところ、エリクシラからは確かに強者特有の匂いなんて全くしないが、弱者特有の匂いもしないな。むしろ……なにかを隠しているように感じるぞ」
「そ、そんな大げさになにか隠すようなものはないですけど……」
「グリモアのこと言ってんじゃないの?」
よくよく考えてみると、ニーナみたいな実力者がグリモアを使えなくて、エリクシラみたいな剣が振れない人間がグリモアを使えるって面白い話だよな。逆に言えば、実力なんて関係なく発現する奴は勝手にするし、発現しない奴は一生しないってことなのかな。
魔法騎士としては武器を触れないゴミもいい所だけど、多分なんでもありの戦闘ってなると多分エリクシラは強い。少なくとも、俺に手も足も出なかったカールよりは強いと思う。
「序列が上の奴がリーダーである必要はないが、派閥の頭が序列最下位では話にならないから、少なくとも来週の前期中間試験で500位ぐらいまでは上がってくれよ」
「……500位!?」
「え、来週なの?」
近くない?
「なんでテオは試験の日程を知らないんだ」
「この人は、こういう人ですよ?」
「うるせぇ」
どうせ配られた紙とか全く見ない人間ですよ。
それにしても……2人が並ぶとなんか面白いな。身長が低いけど胸が……直球で言うとデカい病的なまでに色白なエリクシラと、褐色肌で身長が俺と同じぐらいで、戦闘に適したまな板ボディだ。正反対とも思える組み合わせだな。ちなみに、直接言っても多分ニーナは薄い胸のことを「便利な身体だろ」ぐらいに言う人だ。少なくとも、数日関わってきた中でそんなことを言う奴だって信頼はできた。
「よーし、まずは中間試験の為に色々とするぞ」
「色々とは?」
「まずはエリクシラが剣を振れるようにする」
「無理です!」
諦めんのが早い。一週間もあれば剣に振られる状態からなんとかするぐらい簡単だから。別に流派の型を覚えろとか言ってる訳じゃないんだからさ……せめて魔法騎士見習いを名乗れるようにはなってくれよ。
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