第17話 脳筋女
「……冒険者ってみんなこうなの?」
「なにが?」
「そうやって口からゲロゲロと魔法を吐くの」
まさか口から魔法を吐き出すとは思わなかった。はっきり言って、俺の想像を遥かに超えているよくわからない魔法の使い方なんだが、咄嗟の対応だけでなんとか避けることができた。吐き出されたのがただの魔力だったのも幸いしたかな。
「ゲロゲロとか言うな。私以外に口から魔法を吐いている奴は見たことないな……私は両手が塞がった状態からでも使えるから便利だと思うが」
「ちょっと絵面がね……」
褐色肌の美少女が口から魔法吐いたら怖いでしょうが。しかも両手が塞がった状態でもとか言ってるけど、双剣使いなんだから常に塞がってるだろ。
ニーナ・ヴァイオレット……想像以上の実力者だ。魔法は苦手なようだけど、圧倒的な身体能力から繰り出される双剣の攻撃は、事前に仕入れてきた情報よりも遥かに強い。今はまだ普通に剣で弾いているが、真正面からまともに受けたら踏ん張れるかどうか。
「っ?」
野生の勘とでも言うべき危機察知能力は桁外れだ。俺がまだ略式魔法を発動させようと思っただけで、なにも動かしていないのにニーナはこちらの思考を読んだかのように距離を取る。
どうやって攻めるかと考えていたら、爆発音と共にニーナの姿が消えた。
「ちっ!」
「あっぶな」
上に飛ぶと、下をニーナの双剣が通り抜けていく。俺が爆発音と思ったのは、踏み込みによって地面が弾ける音だったようだ。どうやったら人間の踏み込みだけで地面が爆発するように弾けるんだと思うけど、元々の身体能力が高くて更に魔力によって身体能力が強化されているからなんだろうな。とは言え、俺だって身体能力には自信がある。ギリギリでニーナの攻撃も見えたし、あれが全速力だと言うのならばまず目で追えないってことはないだろう。
「……これ、よくよく考えたらお互いに剣だけだと手詰まりじゃないか?」
「そうでもない。お前が私の攻撃を避けられ無くなれば手詰まりじゃない」
「それを手詰まりって言うんだよ。頭まで筋肉詰まってんのか?」
確かにニーナの動きは滅茶苦茶早いけど、それがわかってるなら余計に俺は経過して動く訳だからもう当たらない……とまでは言わないけど、直撃することはないだろう。
「互いに手詰まりなら、もうグリモアを使うしかないな」
「……グリモアなんて使えないぞ」
「え」
嘘でしょ。こんな実力者なのにグリモア使えないの? もしかして魔法のセンス無いから?
いや、グリモアは魂の発露によるものだとされているから……別に魔法のセンスとか関係なく我の強い人間なら間違いなく使えるようになってもおかしくないんだけど……おかしいな。
「逆にお前はグリモアが使えるのか」
「いや、学園の上位勢はみんな使えるものだと勝手に……エレミヤとか多分使えるとおもうけど」
「そうか……なら使い方を私に教えろ」
「えぇ……」
使い方を教えろって言われてそのまんま使える訳ないだろ。しかも俺は他人にグリモアを見せるのが嫌なのに。
「このまま続けるか……グリモア使いたくないし」
「ならもっと本気で来いっ!」
一気に加速して近づいて来たので、略式魔法で防御結界を目の前に展開したのだが……一撃目を防いだ後、間髪入れずに放たれた二撃目で大きなヒビが入り、三撃目で粉々に砕かれた。ただ魔力を纏わせた武器なのに、とんだ脳筋である。
まぁ、略式魔法の速度には自信がある。ニーナが防御結界を叩き割る三撃の間に、魔力を固めて鎖を作り出して腕を縛り付ける。突然虚空から現れた鎖に目を見開いたニーナに対して、無防備な身体に剣を振るったら超反応で鎖を巻き上げられて剣を止められた。しかも、その勢いのまま腕力だけで鎖を引き千切って俺から大きく距離を取った。
「凄いな。素直に感心したぞ……よくもそこまでポンポンと連続して魔法が使えるものだ」
「魔法は好きなんで……剣はちょっと我流だけど、ね!」
今度はこっちから攻める。ニーナの圧倒的な直感と身体能力に対して受けに回っていると、有効打なんて与えられる気がしない。それこそ、グリモアでも使わないと駄目だ。
多分、普通の生徒が見たら剣がぶつかり合う音と火花が散っているのが見えるだけぐらいの速度で動いているんだが……ニーナの裏をかける気がしない。速度に関してはほぼ同じと思っていい。そうなると、地味にこっちが不利だ。だってニーナは単純に剣を二本持っていて、手数は俺の二倍なんだから。
「流石に、キツイかっ!?」
「この程度じゃないはずだ!」
ニーナの中の俺はとんでもない強さの化け物になっているらしい。
そもそも俺としては、これだけの実力がある人間が序列17位にいることがおかしいと思う。失礼かもしれないけど、明らかにエリッサ姫よりも強い。まぁ……入学してすぐに序列決め試験は魔法の出来とかも考慮されるのかもしれないけど、単純に戦ったら絶対にエリッサ姫よりもニーナの方が強い。
ただ闇雲に剣を振っているだけでは勝てそうにないので、超高速の戦闘の最中に幾つか仕掛けていくか。決着は一瞬だ。
「この程度なら、もう終わりだっ!」
「言ってろ!」
剣をぶつけた瞬間に魔法を発動させる。それを見ても、ニーナは一切動きを変えない。恐らくだが、このスピードで戦っていれば魔法が発動する前に決着がつけられると思っているんだろうけど考えが甘い。高速戦闘ができる人間が、その戦いに適応できるだけの魔法を作っていないと思う方がおかしいのだ。
「ぐっ!?」
俺の刺突を両方の剣を使って弾いた瞬間に勝負は決した。隙を見せた俺の身体に攻撃しようとしてきたニーナは、見えないなにかに激突されたかのように身体を歪ませながら吹き飛んでいった。
態勢を立て直すこともできずに地面に激突したようだが、恐らくこれぐらいじゃ戦闘不能になっていないと思うので、立ち上がる前に近寄って首に剣を突き付ける。
「……今のはなんだ?」
「ちょっと魔力を壁として押し出しただけ。本当は剣のように尖らせて相手を刺し貫く魔法なんだけど……流石にただの手合わせで身体を刺し貫くのはね」
「そうか……なら最初からお前の勝ちだったな」
「なんで?」
「私は最初からお前を殺す気でやっていた」
マジで? ちょっと頭が弱肉強食に侵され過ぎでは?
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