第13話 今後の活動指針

「凄い今更な話なんだけど……そもそも派閥なんて作ってなんの意味になるの? 魔法騎士になれるのは派閥とか関係なくそもそも優秀な生徒だけなんだから、派閥なんて作っても無駄に敵を増やすだけでは?」

「逆に敵を増やさない為ですよ」

「わからん」


 派閥の人間増えればライバルは増えていくのでは? そうでなくても派閥に所属していない優秀な生徒が飛び出してくれば、有象無象なんて意味を成さなくなる。はっきり言って俺にはメリットなんて欠片も見えてこないんだが。


「そもそも全員が貴方のように空気が読めない人じゃないんです。クロノス魔法騎士学園内では身分の差はないなんて言われたって、家が懇意にしている相手に対して無礼な態度なんてできる訳ないじゃないですか。それに、派閥に所属するということはその後ろ盾を得ることなんです」

「騎士の実力に後ろ盾なんていらないでしょ。魔法騎士団は完全に実力が全てなんだから」

「それはあくまで騎士団の話で、学園では別なんです。無派閥ってだけでひたすらに決闘を挑まれ続ける場合だってあるんですよ?」


 うーむ……結局それは傷の舐め合いをしているだけでは? しかも、肝心の派閥トップである公爵家嫡男、辺境伯令嬢、第2王女が全く派閥に興味を持っていないのだから、派閥の長に蹴散らされる可能性だってある訳だろ?


「とにかく、派閥の生徒には無暗に手を出さない方がいいです。自分から決闘を挑んで勝とうものなら……貴方が無所属だと気づかれた瞬間に毎日のように決闘の嵐ですよ!」

「それはそれで楽しそうだけど、序列が上がり続けるのは良くないよなぁ」

「勝てる気満々ですか!?」


 そりゃあ、傷の舐め合いをしている連中に負けるつもりなんて毛頭ない。剣よりも口の方が回る相手なんて考えるだけ無駄だ。ただ、それぞれの派閥のトップはやはり強いだろうな。俺が一度勝利しているエリッサ姫だって、俺とまたやるって話になったら今度は最初から本気で来るだろうし、エレミヤのあの流麗な剣は……ただ美しいだけではないだろう。

 負けるつもりはないが、苦戦しないとも言っていない。実際に戦ってみないとどうなるかなんてわからないが、少なくとも超楽勝で危ない場面なんてなかったぜ、なんてことにはならないだろう。


「なんでもいいけど、取り敢えず1年生の終わりぐらいには250位前後までは上げておきたいよな。エリクシラもそれくらい上がっておけば問題ないでしょ?」

「まぁ……でも、できますか?」

「俺はできるよ。お前は知らん」


 魔法騎士なら自分でなんとかしろ。


「ところで、このニーナ・ヴァイオレットという方、関わるなら気を付けてくださいね」

「なんで?」


 序列表に赤線でメモしてあるから、俺が目をつけていることに気が付いたんだろうけど……エリクシラはちょっとビビったような様子でニーナ・ヴァイオレットの名前に指を差した。


「入学早々に絡んできた貴族の男子生徒をボコボコにしたとか、常に血に飢えているから学生でありながら冒険者として滅茶苦茶活躍しているとか……果てには人を斬り殺したなんて言われてもいるんですよ!?」

「魔法騎士なんだから人ぐらい斬り殺すだろ? 冒険者だってそれぐらいやるよ」

「しませんよ!? 冒険者にはそういう依頼は回ってこないようになってるんですから! そもそも魔法騎士が仕事で悪人と戦うことがあっても、基本的には殺生は駄目なんですから」


 へー……魔法騎士は王都内部の治安維持部隊でもあるから、結構犯罪者をその場で斬り殺したりするって聞いたけど、冒険者はそういうことやらないんだ。ファンタジー系の小説とかだとお決まりなんだけどな。じゃあ冒険者ってなにするんだろう。


「いいから、あんまり関わらない方がいいと思います」

「へー、ちょっと喋ってみよ」

「人の話聞いてました!?」


 聞いてたよ。聞いてたうえで、くだらなさすぎてどうでもいいって思っただけのことで。どちらかと言えば、俺は派閥を作っているような人間の方が関わりたくないけどな。

 平民で冒険者をやっていて無派閥の人間とか、俺が関わらない訳がない。貴族でどこかの派閥に所属しているような人間の方が俺は苦手なので。


「そんなに言うなら、会ってみればいいじゃん。会ってみて、実際にどういう人柄なのか知ってみれば怖くないでしょ。そもそもエリクシラの序列じゃ派閥になんて誘われ……ごめんね」

「そこまで言ってから謝らないでください!」


 辛い現実かなーって。でも、無理矢理な気遣いの方が傷つくってのは本当だから、俺も謝っておくわ。


「会ってみて剣を向けられたらどうするんですか? その人と戦うんですか?」

「いや、地面に頭擦りつけながら謝る」

「うわ……」


 なんだよ。剣を突き付けられる理由が、相手を怒らせた場合とかだったらこれが一番の解決策だろうが。変なプライドで俺は悪くないって開き直りながら、喧嘩腰で応対する方がどうせ悪化するんだから。最初から下げられる頭が下げておくに限る。


「当面の目標はできたな。まず、ニーナ・ヴァイオレットって人に会ってみる。いい人そうなら友達になりたいし、なんか性格的に合わなさそうな人なら普通に関わらないでいい。それから、人に恨まれない程度に序列を地道に上げて行って、最終的に1年生終了時点で250位に到達。最後に、金を稼ぐ」


 終わり!


「最後のいりますか?」

「一番大事だろ。学生生活に金はかかせないぞ。祭りで遊びに行くには交通費だってかかるし、そこでなにかを食べようと思ったら更に金がかかるんだぞ?」

「ま、祭りですか? 建国祭なら開催場所は毎年クロノス魔法騎士学園なので交通費はかかりませんけど」

「……そっか」


 そういえば、クーリア王国の祭りと言えば建国祭になる訳だが、開催場所は毎年クロノス魔法騎士学園でやってたな。流石に俺も少年時代には来たことがあるので、単純に忘れていただけだ。


「……そうだ! 恋愛だよ!」

「れ、恋愛、ですか……あんまり縁がないですね」

「なに言ってんだ、普通にして黙ってれば可愛いのに」

「えっ!? そ、そんなことを急に……黙ってれば!?」


 だって口を開くと結構小言出てくるじゃん。見た目はやっぱり貴族なだけあって普通に美人だと思うし、制服のサイズがダボダボしてるからかなりわかりにくいけど、身体のラインも結構立派だと思う。男は簡単に寄ってくるだろ……983位じゃなければ。

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