第12話 もう派閥があるらしい
「ごめんごめん、僕はてっきり君が生徒会に立候補してくれたのかと思ってしまってね」
「いや、違いますよ。そもそも俺は1年生の序列最下位ですよ? 普通に考えて生徒会なんてエリートの集団に属する訳ないじゃないですか」
「君のそれは試験を受けていないからだろう? 君が真面目に試験を受けていれば間違いなく1位だったし、僕も胸を張って君を生徒会に推薦できるんだけどね」
おいおい……序列最下位に対してなんてことを言うんだ。お陰で書類作業をしていた生徒会役員のうちの何人かが手を止めて、俺の方に視線を向けて来たじゃないか。
「今年の1年生は粒ぞろいだと僕は思っていてね、序列1位のエレミヤ君、序列11位のエリッサ姫、序列17位のニーナさん、そして序列984位のテオドール君だ」
「はぁ……まぁ、どうでもいいですけど。取り敢えず、1年生の序列表貰ってもいいですか?」
「いいとも。僕としては速く一番上に君の名前が載って欲しいんだけど」
「嫌です」
この人、なに考えてんだ?
ひたすら俺に対して実力があるよねって話をしてくるし、果てには俺に生徒会に入れと遠回しに言ってくる。周囲の生徒会役員たちは既に書類を片付ける動きも見せず、全員が俺のことを観察してるじゃないか。
「僕の特技だと思ってもらって構わないんだけど……見ただけで、相手がどらくらい強いかわかってしまうんだ。直感、とでも言えばいいのかな。とにかく……君を見た時の衝撃は今でも覚えているよ」
「そりゃあ、たった一ヵ月前ですから」
「いいや。僕は新入生の984人全員と顔を合わせたけど、君を超えるような人間はいなかった。いや、それどころか……君は現時点で僕よりも強い!」
おいやめろ。さっきまで観察するぐらいで済んでた周りの目に、一気に殺意が乗っかったぞ。生徒会長よりも強いって言ったら、それはこの学園に在籍している全ての生徒より強いって意味と一緒なんだから、もうちょっとなんとか言い方を変えてくれ。
「これは確信だよ。君は間違いなく、僕よりも強い……わかるんだよ」
序列表を笑顔で手渡してきながらそう言う生徒会長を見て、俺は一つの確信を抱いた。
俺、この人嫌いだわ。
なんとか1年生の序列表を貰ったので、上から順番に名前を確認していく。
序列の1番上に君臨しているのは、エレミヤ・フリスベルグ。フリスベルグ公爵家の長男にして、魔法騎士としての実力も持っている完璧超人。後、イケメンで性格がそれなりにいい。
序列の2番目にいるのは、ヒラルダ・ミエシス。ミエシス辺境伯家の1人娘で、魔法騎士にしては珍しく身長を超えるような長槍をメイン武器にしている武人。直接の面識はないが、なんでもクッソ不愛想で無口なんだとか。
それ以下の連中は正直言って話にならないと思う。ただ……生徒会長であるアルス先輩が言うには、11位と17位も才能があるとか。
11位はエリッサ姫。17位は……ニーナ・ヴァイオレット。
「……お、貴族じゃないのか」
ニーナ・ヴァイオレットの名前から貴族一覧の本を眺めていたが……どうやらヴァイオレット姓の貴族はリエスター王国には存在しないらしい。となると……彼女は俺と同じ平民ということになるのだが、それで初期の序列が17位とは凄いな。
庶民と貴族の違いは、生まれ持った才能とか血筋とかではなく、単純に幼少期からどれだけ魔法に触れることができるかという部分である。
平民はどうしたって魔法に触れる機会が少なく、貴族は逆に生まれた時から魔法というものに触れる時間が長い。そうするとそもそもの理解度に圧倒的な差がつき、そこから指数関数的に差は広がっていくものだ。その差を平民が埋めるには、持ち前の才能だけで魔法騎士になるしかない。
魔法騎士になるには魔法に対する知識や経験が必要なのに、それを得るための手っ取り早い方法が魔法騎士になることとは……随分なお話じゃあないか。
逆に言えば、平民でありながら魔法騎士になるような人間は、生まれ持った才能が違い過ぎて貴族にも追い付けない怪物である、ということだ。稀にエレミヤみたいな貴族で怪物な奴が生まれるのがタチ悪いけど。
「あ、今日は遅かった、ですね」
「ん?」
貴族の辞典を広げながら表を見ていたら、急に背後からエリクシラが話しかけてきた。多分彼女はいつも通り授業を終わってからすぐにこの古書館に来ていたんだろうが……暇なのかな。武器も扱えない983位なのに。
「それ、序列ですか?」
「あぁ……誰を狙うのがいいかなと思って」
「狙うって……できるんですか?」
「まぁ」
目をつけたいのは250位ぐらいで燻っていそうな奴だ。俺に負けた瞬間に諦めてすぐに魔法騎士科から他の学科に転科しそうな奴を探している。転科してしまえば魔法騎士科の連中と関わる機会は薄くなり、俺の噂が出回ることも少ないだろうから、そうやってやる気がない奴を探しているんだけど……出てくるのはエリッサ姫の取り巻きみたいな連中ばかり。250位ぴったしのこいつなんて、俺にガンつけてきた奴じゃねーか。
「エリッサ姫の派閥に所属している人ですね」
「……まだ一ヶ月だよね?」
「はい……それがどうかしましたか?」
「なんでもう派閥できてんの?」
「き、貴族は好きですから……派閥」
やっぱり俺には貴族は無理だな。
「まぁいいや。既に存在している派閥と、それに属していると思う連中を教えてくれ」
「えー……今の派閥はクーリア王家派閥、フリスベルグ公爵家派閥、それからミエシス辺境伯家派閥ですね」
「辺境伯……辺境伯って左遷じゃないの?」
「なんてこと言うんですか……確かに左遷によって辺境伯になる貴族家もありますけど、ミエシス辺境伯家は100年以上の歴史がある伝統的な貴族ですよ?」
ふむ……やっぱり左遷で辺境伯になった家も存在するのか。流石にそこまで開けっぴろげに書けないからか、辺境伯は全員栄転みたいな形で書いてあるからな、この本。
「ミエシス辺境伯家は」
「今から78年前に終戦した隣国クロスター王国との国境に位置する有力貴族。現在はクロスター王国と和解、国交が生まれているが、元々は国防の最前線で王国を守ったリエスター王家からの信頼篤い貴族……って書いてあるな」
「知ってるじゃないですか!?」
「書いてあったんだって」
国防の最前線に領地を任せられる辺境伯家か……多分、歴史的に武力を重視している家なんだろうな。だから序列2位に位置する怪物が1人娘で生まれていると。
王家、公爵家、辺境伯家……これが今のクロノス魔法騎士学園1年生に存在する派閥か。どれにちょっかい出しても厄介そうだなぁ……面倒くさい。
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