第11話 生徒会

 入学してから、一ヶ月の時間が経った。俺の予想と違い、未だに魔法騎士科から転科しようとする動きは見られない……というか、まだ学園内であんまり決闘が行われていないような気がする。クロノス魔法騎士学園はもっとバチバチした場所だって聞いてたんだけど、もしかしてただの噂話だったのかな。


「ちょっと」

「…………」

「露骨に面倒くさそうな顔しないでちょうだい」


 いや、無理でしょ。

 学園内を歩いていた俺に話しかけてきた相手は、魔法騎士科内でもとんでもない天才であると噂されている……エリッサ・クーリア様。不幸な行き違いで俺が入学数日で叩きのめした天才でもある。


「貴方、何故誰にも決闘を挑まないの?」

「……は?」

「貴方ほどの実力があれば幾らでも序列を上げることだって──」

「だから、俺は序列になんて興味ないって言っただろ? 流石に上げないのもどうかと思うけど、姫様みたいに上位目指して頑張ってる訳じゃないんだって」


 そりゃあ、エリッサ姫みたいに純粋に魔法騎士目指しているなら俺だって、ガンガン序列上げるための決闘を挑んでたかもしれないけど……そもそも俺はまともに上げるつもりなんてないんだから。


「貴様、エリッサ様に対してなんという無礼な口を!」

「え? いや、クロノス魔法騎士学園では貴族と平民の立場に違いはないって」

「だからと言って、この国の王女であらせられるエリッサ様に対して、礼儀というものがないのか!」

「えー、面倒くさ」


 よく見たら、エリッサ姫の周囲に男女10人ぐらいの塊が存在してた。もしかして……これ、派閥?


「俺ってもしかして間接的に学内の派閥に勧誘されてた?」

「なっ!? 私は派閥なんて形成してないわよ! カールも面倒な絡み方はやめなさい」

「しかし!」

「彼とはクーリア家に関係なく、私が個人的に交友を持っているだけよ。それに、彼の言う通りクロノス魔法騎士学園の同級生に上下関係はないわ」


 今の話の流れで俺を睨むなよ。拒否したのはエリッサ姫だろうが……なんで俺はこんな変なことに巻き込まれているんですかね。


「ごめんなさい、私が話しかけたばかりに」

「え、あぁ……別にエリッサ姫が謝ることじゃないし……それに、言ってることはわかるつもりだし」


 確かに、クロノス魔法騎士学園内での身分の差はないなんて言われているけど、この国を統治している偉大なる王家の人間に対して、最低限の礼儀も持たずに適当な返事をした俺が悪い。まぁ、反省はしているつもりだ……次からはもうちょっと堅苦しい言葉を使おうかな。


「気にしなくていいわ。身分の差なんて、実力でひっくり返せるのがこのクロノス魔法騎士学園なんだから」


 うん……いいことのようにみんな語るけど、結構言ってることは一番強い奴が長をやるぞって言ってる蛮族みたいだよね。


「それより、早く私のいる場所まで上がって来なさい。私は貴方のことをライバルとして認めているんですから」

「それ、本気で言ってますか?」

「大真面目よ」

「勘弁してください……」


 なんで入学早々に姫様と決闘したと思ったら、いきなりライバル認定されなくちゃいけないんだ。


「ライバルならエレミヤでも見ておいた方が」

「あら、彼と親交があるのかしら?」

「……まぁ、一応授業で何回か」

「そう……彼も確かにライバルよ。私は自分の上にいる10人を全員ライバルだと思っているもの」


 俺、そこから980ぐらい下にいるけどな。


「ところで、そろそろ中間試験が近づいて来るけれど……貴方はそこで序列がどれだけ上がるのかしら。貴方の実力が知れ渡れば、必然的に序列は簡単に上がって行くわよ」

「え? 中間試験ってただの筆記試験じゃないの!?」

「……貴方、一度帰って学園の詳しい情報を調べた方がいいわよ」


 初耳なんですけど!?

 流石に勉学で落第になるのは駄目だよなーとか思いながら筆記の勉強はしてたけど、実技の方は全く手を付けてないぞ!?


「心配するほどじゃないわ。実技の試験と言っても、数日間王都郊外に出て魔獣と実際に戦うってだけだもの」

「おぉ……なら大丈夫か」

「そうね。私を打ち倒した貴方なら、大丈夫よ」


 なんか含みのある言い方だな。


「じゃあ、私はこれで……今度は休まずにしっかりと試験を受けるのよ!」

「母ちゃんか」


 学園の行事とか全く調べてなかったな……そこら辺もちょっと知っておかないとな。入学してから一ヶ月もの間、授業が終わったらひたすら自由時間で古書館に籠ってたから、周囲の生徒が何してるかも知らないんだよな。

 まず情報を仕入れることを最優先にして……必要な情報は、クロノス魔法騎士学園の年間予定表と、現在の序列だな。後者は資料として存在しているか微妙なラインだが、教師に聞けばわかるだろ。教師からは既に問題児扱いされている俺だが、流石に生徒から質問されて邪険にすることはない……と思いたい。



「学園の年間予定表? 勿論あるぞ……ただ、序列の方は生徒会が管理してるからなぁ」

「あ、そうなんですね」

「うちの学園は生徒会がかなりの実権を握ってるから、そういう生徒に関する資料とかは生徒会室に行ってくれ」


 生徒が実権握ってるってなんだよと思ったけど……そうだよな。だってこの学園の生徒会は、3年生内での序列1位が生徒会長になり、その生徒会長が他の生徒会役員の任命権を持っているんだから。なにより、そこまで生徒会の権力が強い理由は……そもそも優秀な生徒は基本的に貴族出身の人間だから。

 クロノス魔法騎士学園内には身分の差はないが……それは生徒間の話。教師はどんなことがあっても貴族のお子さんの機嫌を損ねたくないんだろう。教師って辛い仕事だな。


「失礼しまーす」

「おや? 君は……ようこそ、生徒会へ」


 先生に言われるまま生徒会室に向かった俺は、普通にノックしてから扉を開いたら、夕陽が照らす室内で腕を組み、にこやかな笑みを浮かべている人が最初に目に入った。


「アルス先輩、でしたよね?」

「覚えてくれていたのかい? 確かに、僕がクロノス魔法騎士学園の生徒会長アルス・クーゲルだ」


 なんとなく爽やかさの中に腹黒さを感じさせるにこやかな笑みを覚えていたから、ぱっと名前が出てきた。そっか……侯爵家の次期当主だってのは知ってたけど、まさか生徒会長だったとは。


「ところで、ここに来たと言うことは……」

「あ、はい。1年生の序列を──」

「──生徒会に立候補してくれってことだよね?」

「全然違います」


 なんでだよ。

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