第8話 居残り中
「テオドール以外は王国流片手魔法剣術の型を復習してろ」
「俺は?」
「お前は試験すっぽかしたんだからなにができなくてなにができるのか全く知らないんだよ。だから俺と1対1で指導だ」
「へーい」
「舐めてんのかクソガキ」
グロリオス教官に言われるまま木刀を持ち、しばらく待っていたら教官と共に他の人も一緒に来た。
「喜べテオドール、お前みたいな不良生徒にはもったいない教官が来てくれたぞ」
「やぁ」
「あ、入学試験の」
名前は知らないけど美人だったから覚えてた。この人もこの学園の教官なのかな。
「どうも……えーっと、教官さん」
「自己紹介が必要そうだね」
「おまっ!? この人のことも知らないのに魔法騎士科受けてるのかよ!?」
おぉ、どうやら有名人らしい。でも、はっきり言って子供の頃から魔法騎士には興味がなかったから全く知らないんだ。新聞だって読んでないし、俺が知っているのは書物に書かれている古の英雄たちぐらいだ。
それに、美人さんは苦笑いしながら言ってるんだから許してくれよ。
「入学試験で君の相手をしたね。私の名前はリエスター・ノーブル……一応、クーリア王国魔法騎士団の第3師団長を任されているよ」
「あ、師団長さんだったんですね……それは失礼しました」
「マジで知らないのかよ……」
「グロリオスさん、別にいいんですよ。魔法騎士団に必要なのは知名度ではなく、揺るがない実力だけですから」
「まぁ……そうですけど……」
ふむ……どうやら師団長というだけあってグロリオス教官よりもリエスター師団長の方が立場が上らしい。年齢を考慮してなのか、リエスターさんはグロリオス教官をさん付けで呼んでいるけど、グロリオス教官はリエスターさんに敬意を持っているって感じだ。
ちょっと納得いかないって感じの顔でグロリオス教官が俺以外の生徒の所へと戻っていった。
「さて、君の実力を見て欲しいって話だけど……君、エレミヤ君より強いよね」
「それはやってみないとわからないですけど」
「うーん……私はそうは思わないよ。だって、今年の入学試験で私が直に剣を受けたいと思ったのは3人だけで、その中で君だけが私に対して恐怖の感情を突き付けて来たんだから」
恐怖……それはどういう意味だろうか。あの時の俺は確か……一撃目で相手の木刀を破壊することを目標としてそれを成し、誰も止めなかったからそのまま攻撃しようとしたら……木刀を素手で粉砕されたんだ。
「あの時は素手で木刀を粉砕されたから、なんの試験だったのかもわからなかったんですけど」
「……そう、君には見えていたんだね。私の手刀が」
「そりゃあ、まぁ」
粉砕されましたから。
「それ以外には?」
「それ以外?」
「あの時、私がどうやって手刀だけで木刀を破壊したのか、見えなかったのかなって」
「見えてましたよ。あの雷」
「やっぱり」
やっぱり?
「あれは私のグリモアの力だよ」
「え」
普通の魔法じゃないの!?
てっきりあれは俺の目には映らないぐらいの速度で発動された超短縮魔法かなんかだと思ってたのに……まさかグリモアだとは。道理でどれだけ魔法陣の本を読んでもそれっぽいものが見つからない訳だ。
「それにしても、グリモアって限られた天才しか使えないってものじゃないんですか? いや、師団長になっているんだから限られた天才なのかもしれないですけど」
「そう? でも魔法騎士の中にはグリモアを使う人はそう珍しくないけど」
「やっぱり魔法騎士団っておっかない組織ですね」
「そうかな? 訓練は厳しいけど、休日も多いし給料も多いけど」
「そういうことじゃないです」
そして貴女の給料が多いのは、魔法騎士団の師団長になれるぐらいの実力があるからだと思います。
「それで、グリモアだって聞いた反応からして君もグリモアが使えるみたいだけど」「……見せないですよ?」
「うん、それは大丈夫。ただ……戦闘に使えるものなのかだけを教えて欲しい。この質問の答えだけで指導方法が変わるから」
師団長なのに指導してくれるのか。
「……第3師団は魔法騎士団の中で人が一番多くて、このクロノス魔法騎士学園の近くにある要塞を拠点にしてるから、ここで教官をしているしている人が多いんだよ。ちなみに、私は結構忙しいから毎日いる訳じゃないけど……それなりの頻度で来てるから聞きたいことがあったら見かけた時に聞いてね」
しれっと頭の中を読まれなかった?
まぁいいや……でも、聞きたいことなら幾つか存在しているから今のうちに聞いてしまうか。
「リエスターさんは貴族の出身なんですか?」
「ん? なんで?」
「いえ、その若さで魔法騎士団の師団長になるなんて、貴族生まれだからなのかなって……」
「え? なんで貴族生まれだと師団長になれるの?」
あ、魔法騎士団に所属している人ってマジで実力主義以外の物差しを知らないのね。それでもこのクーリア王国で貴族がそれなりに力を持っているのは、魔法騎士団が基本的には王都しか警備しないからなのかな。地方の有力貴族は自分たちで優秀な騎士を抱えているって話だし。
「じゃあ、リエスターさんはグリモアが使えるようになったのはいつですか?」
「……ごめん、わかんない。気が付いたら使えるようになってた……でも、学生の頃はもう使えてたかな」
ふむ……まだ古書館ではグリモアに関する本について詳しく読んだ訳じゃないからわからないが、一般的にはグリモアは魂の発露であるとされている。つまり、グリモアを持つ者は自らの魂を知覚しているということだ。
ここで一つの疑問なんだが、人間は普通に生きていて自らの魂を知覚できるだろうか。答えは否、だ。
グリモアを持つ者はそれ即ち実力者であり、魔法騎士であれば持っている人気も珍しくないというリエスターさんの言葉だが……そのグリモアを手にした詳しい経緯を誰も知らない。これは妙な話じゃないか? そんなサンタクロースが置いていったプレゼントじゃないんだから、なにかしらの原因が存在しているはずなのだ。そうでなければ、グリモアが扱えるのは実力者ではなく、ただの運がいいやつになってしまう。
「逆に君はグリモアがいつから使えるの?」
「生まれた時から」
「あはは、面白い冗談……じゃないの?」
「こんな良く解らない話題で冗談を言うほどふざけた性格はしていないつもりですが」
俺は生まれた時からグリモアが使える。これは本当のことだ……まぁ、俺の場合かなり特殊な事例だが。
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