第7話 見惚れちゃった
基礎動作の授業……なんて言ってるけど、戦闘スタイルなんて人によるんだから基礎動作なんて意味あるか? 一応、初代魔法騎士団団長、アルフレッド・ビフランスが考案した剣術があるらしく、それを愛用する者が魔法騎士団には多いのだとか。単純に『王国流片手魔法剣術』と呼ばれているそれは、魔法との併用を前提として作られた剣術だから、基本的に片手を空けて剣を振るうらしい。
「こうか?」
「……独学かい?」
「下手くそならそうやって言ってくれ」
変に気を遣われる方が傷つくって知ってた?
「まぁ……正直に言うと下手、かな。でも剣の握り方はあっているし、基盤にある動きは王国流片手魔法剣術で違いないはずなんだけど……」
「あー……父さんが魔法騎士で、型は教えて貰ってないけどひたすら組手してたから」
「なるほど、だから魔法剣術が基礎にありながら独学なんだね」
ていうか、この学園に来てからだよ……そんな剣術の型があるなんて知ったのは。そういうのを最初に教えてくれればいいのに……父さんめ。
「これはあくまで王国流片手剣術を学ぶ授業だから、あんまり大きな声では言えないんだけど……僕は君の独学の剣はそのまま磨くべきだと思う。変に矯正するラインはもう超えていて、とっくに君に最適化された独自の剣術に昇華されている」
「……そう、かな」
なんかペラペラと色々と喋ってくれたけど、要約すると君の剣の振り方もいいね! ってことだろ? やっぱりイケメンは心に余裕があっていいな。
その後も色々と動きを見てもらったが、やはり俺のは完全な独学の剣術になっているらしい。
「いやぁ、面白いものを見せて貰ったよ」
「そうか? まぁ……ならよかったけど」
あんまり人に晒すような者でもないと思ったけど、笑顔で拍手までしてもらったらちょっと調子に乗っちゃう。豚も煽てりゃ木に登るって言うしな。
「じゃあ次は僕だね」
「エレミヤは王国流片手魔法剣術なのか?」
「そうだよ。小さい頃からずっと同じ型で練習してきたから、自信があるんだ」
嬉しそうに笑いながらそう言うので、ちらりと周囲の生徒たちの型を見る。基本的には左手を空けながら剣を振るうのだが、必ず斬撃と斬撃の間に一瞬の間が存在する。恐らく、その間に挟み込む形で魔法を放つのが本来の型なんだろう。
それを意識しながらエレミヤの動きを見て……言葉が出なかった。
まるで流麗なダンスを眺めているような……動きに一切の無駄が無く、剣がまるでエレミヤの肉体の一部になったかのように、極自然に流れていく。それでいて、注意して見ると斬撃と斬撃の間に、一瞬だが短縮魔法を挟み込めそうなぐらいの間が存在した。恐らく、あの間の時間がエレミヤ出せる短縮魔法の限界速度。いや、速いよ。
「どうかな?」
「あ、あぁ……ちょっと見惚れてた」
今回ばかりは、外野でキャーキャー言ってる女子の反応にも納得してしまった。まるでフィギュアスケートの演目を見ているような、そんな感覚にすら囚われてしまう流麗な剣の舞。流石にちょっと……憧れるな。
「そうかい、それはよかった。剣には自信があるんだけど……どうしても緊張してしまってね」
嘘つけ。お前さっきまで滅茶苦茶楽しそうに剣振って踊ってただろうが。
いや、実際には踊っていた訳じゃなくて、型をそのまま繋げていただけなんだろうけど……他の生徒たちとは比べもにならない完成度。流石に序列1位は格が違うな。
「本当は君とこのまま決闘でもしたい気分だけど……」
「嫌だよ」
「まぁ、そう言うと思った」
はっきり言ってしまうとなんだけど……俺が本気を出したら間違いなくエレミヤに勝つことは可能だと思う。でも、それは俺にリスクのある行為だし……なにより、エレミヤとの勝負がそんな簡単についたら面白くないと思う。やるならもっと大々的な舞台でやりたいし、無粋な観客なんていない場所がいい。
「君が序列を上げてくるのを待っているよ」
「それも嫌だな」
「あはは……序列が上位になれば、生徒会の立場が確約されるよ?」
「いらねぇ」
生徒会って学校の先生の言うことを聞くだけのあれだろ? 存在するだけであんまり価値はないあれになりたい人って、内申点が欲しいだけじゃないの? まぁ、クロノス魔法騎士学園に内申点なんてないけど。
「どこ行くんですか?」
「いや、古書館に」
「序列の下位は居残りですよ?」
授業も終わったのでさっさと古書館にでも行こうと思ったら、エリクシラに捕まった。偉そうに言ってるけどお前も序列最下位に近いんだからな?
「あー、集められたお前達は序列が下から30だ」
筋肉ムキムキで明らかに強いですって感じのおっさん教官が、ちょっと呆れ気味に30人を見渡して言った。まぁ、実力主義の魔法騎士団員からすれば、序列が下から30までってなんで魔法騎士科に所属しているのかわからないレベルだろうな。
「まぁ……色々言いたいことはあるが、お前らに魔法騎士は無理だ。転科を薦める」
「そらそうだ」
「なんで同意してるんですか」
「いや、実際無理だろ」
おっさん教官の言い方は確かにちょっとキツイが、彼は事実を言っている。だって卒業後にちゃんと魔法騎士の称号を名乗れるのは序列が100位までの奴なんだぞ? 普通に考えて、入学してすぐの試験で序列が900位になっている奴が将来的に魔法騎士になれますかって話よ。俺はなれないと思うね。
「その中でも最も酷いのが、984位のお前──」
「ほら、言われてるじゃないですか」
「──と983位のビフランス家の三女、お前だ」
「……え?」
そらそうよ。
「984位、テオドール・アンセム……お前は前代未聞の馬鹿だ。そもそも才能がどうとか論ずるに値しない。序列を決める試験すっぽかした人間なんて、クロノス魔法騎士学園の歴史が長くてもお前が初めてだぞ」
「すいません」
「そしてビフランス家の三女、エリクシラ・ビフランス」
「……私ですか!?」
「そうだよ。お前、剣がまともに振れないって……なんで魔法騎士科に入ったんだ?」
流石に笑った。やっぱりこのおっさんは面白い人だな。
「教官の名前を聞いても?」
「お前、聞いてなかっただろ。普通に初めに名乗ったからな? グロリオス・ガスタだ……魔法騎士団では第3師団に所属している」
へー……これ言ったら絶対に怒られるからなんにも言わないけど、魔法騎士団って師団単位がどれくらいあるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます