第6話 イケメンと出会った

 エリッサ姫との決闘……未遂は結果的に誰にも見られていなかったらしい。何故そんなことが言えるのかって話なんだけど……あれから数日が経過しているからだ。入学してから1週間ぐらいって感じだけど、学園全体がまだそわそわした雰囲気に包まれている。ただ、新入生による序列を上げるための決闘は既に数多く行われているらしい。野蛮すぎないかなーと俺は思う。

 そんな誰と誰が決闘してどっちが勝ったらしいぜみたいな話が流れてくる中、この国の姫様であり新入生の序列11位である彼女が決闘して負けたなんて話が聞こえてこない筈がない。つまり、誰にもバレてないってことだ。

 あれからエリッサ姫が何回か俺に接触して来ようとしていることは把握していたが、俺が逃げることで未だに一度の会話も成立させていない。成立させた瞬間に、決闘して貴方が勝ったんだから序列を上げなさいって言われるだろうことは目に見えている。


「はぁ……私、もう駄目です」


 学生生活が始まったのに、エリッサ姫から逃げながらひたすらに古書館に引き籠っている訳だが……俺の隣に座ってこの世の終わりみたいな顔をしているのは、エリクシラ・ビフランスである。


「……そんなに落ち込まなくてもいいと思うぞ、序列983位のエリクシラさん」

「うわぁぁぁぁぁぁ!? サボった人の一個上だぁぁぁぁぁぁ!?」


 ドンマイ。

 あれだけ自分には投げ出すことはできないなんて言ってたのに、序列最下位の一個上ってどういうことなの? そもそも俺が984位にいるのは試験を受けてないからであって、実質的に最下位ってことだよね?

 いやぁ……普通に実力者なのかなーとか思ってたのに、なんで最下位なんですかね。


「これから仲良くやろう。最下位仲間じゃないか」

「わ、私を貴方と一緒にしないでくださいっ!」


 いや、一緒だから、どう頑張ったって俺と同じく序列滅茶苦茶に低い雑魚って判定だから。これに関しては俺の嫌がらせとかじゃなくて、普通に試験受けてそんな序列になる君が悪いんだからね?


「ところで、普通に試験受けてその序列って……授業とかついていけてるの? この後、入学してから初めての魔法騎士の訓練あるけど、大丈夫?」

「……ダメなんです」

「え?」

「どうしても武器の扱いが下手くそでダメダメなんです!」


 え? いや……武器の扱いが下手くそって、魔法騎士として完全に終わってないか?


「だから家でも落ちこぼれって言われ続けて……魔法騎士なんて私には無理ですぅっ!」

「いや、知らんが。それでも授業はでないと駄目でしょ……だって俺たち底辺だし」

「うわぁぁぁぁぁぁん!?」


 底辺が授業までサボったら流石にねぇ……多分、即座に退学にさせられるわ。魔法騎士に興味が無い俺でも退学にさせられるのは、古書館が使えなくなるから困るし、流石に両親があれだけ期待してくれているのに入学1週間で退学したら、ちょっと親不孝かなって。



 滅茶苦茶広い運動場に着替えて呼び出されたので向かったら、魔法騎士科の4分の1ぐらいの生徒が集まっていた。大体250人ぐらい?


「これから魔法騎士科の授業を行う。今日は武器の扱い、その基礎だ」

「あ、エリクシラ終わったな」


 ものすごく失礼なことと理解しながらも、彼女が武器の扱いが駄目であると叫んでいたのを思い出して心の中で手を合わせておいた。


「まずは男女別々に2人1組を作って型の確認だ。今日は無難に片手直剣だ」


 あ、一応色々な種類の武器に合わせて授業してくれるんだ。まぁ、武器を選り好みしていた戦えませんでしたなんて、国を守護する騎士として言い訳すらできない失態になっちゃうからな。

 それにしても……2人1組を作れ、か……ボッチにはもっとも辛い言葉の一つだよな。実際、俺には一緒にやってくれそうな仲のいい奴なんていないし……まぁ、俺が試験サボったから悪いんだけど。


「ちょっといいかな?」

「ん?」

「テオドール君、だよね?」


 後ろから肩を叩かれて呼ばれたので振り向いたら、顔面偏差値の暴力が襲い掛かってきた。太陽の光を反射するように煌めく金髪に、優し気な光を宿しながらもこちらの奥底まで見抜いてきそうな深い金色の瞳。身長も俺より一回り高くて、滅茶苦茶整った顔立ちに、モデルのようにスラっと伸びた細い脚。

 一瞬で俺の中のなにかが切り替わり、この男が俺にとって敵であることを認識させた。イケメンは敵って決まってるから。


「僕はエレミヤ。エレミヤ・フリスベルグ……君には一度も挨拶してなかったなと思って」

「ど、どうも……テオドール・アンセムです」

「あはは、そんなに固くならなくていいよ。同級生だろ?」


 爽やかな笑みを浮かべるな。俺の背後の女子がキャーキャー言ってるだろうが。動物園のパンダかお前は。


「君は初日の試験にも出ていなかったし、その後も授業が終わったらすぐ何処かに行ってしまうから……こうして話せる機会を待っていたんだ」

「……え? もしかして同級生全員にやってるのこれ?」

「勿論」


 なんだこいつ完璧超人か?

 しかも、こいつあれじゃん……俺が右から左に聞き流してた新入生代表挨拶してた奴じゃん。てことは、学園側から最も優れた人間であると認識されていたってことだろ?

 マジかよ……絶対に貴族で、実力もあって、顔もいい。天は二物を与えずとか嘘っぱちじゃねーか。


「よかったら一緒に組まないかな? 君と交流を深めたいからさ」

「あ、いいよ。俺、相手になってくれるような奴いなかったし」

「それは……どうかと思うけど」


 は? これだから友達が沢山いるリア充イケメン野郎は。

 けど、2人1組を作ってください地獄から逃れられるのならば俺はイケメンリア充の足も舐めよう。


「じゃあよろしく」

「おう……ところでエレミヤ、お前の序列幾つ」


 聞かなくても大体わかるけど。


「急に呼び捨てだし……なんというか君の性格がわかってきたよ、テオドール」

「そりゃあよかった」


 俺はあんまり堅苦しいのは嫌いなんだ。


「序列ね……僕の序列、この基礎動作の確認で試してみたら?」

「どうせ1位だろ」


 そんなん基礎動作が云々とか見なくてもわかる。気配、とでも言えばいいか……強者の匂いがする。立ち振る舞いからも実力者出ることが滲み出ている。そしてその強者の雰囲気は……俺がやったエリッサ姫を凌駕している。


「……正解。そういう君の序列は984位だ」

「欠席したからな」

「うん……でも、君は強い。君が僕の立ち振る舞いを見ただけで1位であると見抜いたように、僕からも君に異質とも呼ぶべき強さは見えているよ」


 ただの、ぼんくら貴族のイケメン坊ちゃんではなさそうだ。

 全く……もう一回言うけど、天は二物を与えずなんて嘘じゃないか。

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