第4話 喧嘩を売られた
エリクシラと古書館で出会い、序列が最下位で始まることが確定した俺だが……実を言うとそこまで気にしていなかったり。
古書館に数時間居座った後に、エリクシラとは別れてそのまま教師の元に謝罪に言ったんだけど……あんまり向こうも気にした様子が無かった。まぁ、教師側からしたら俺みたいなやる気もない不良生徒なんて一々構ってられないってことなんだろうな。
「にしても、しまったなぁ……これなら序列を決める試験、受けておけばよかった」
後に悔やむから後悔と書く。序列が低いとなにかしらのデメリットがあるのか、とエリクシラに聞いた時は特に思いついていなかったようだが……序列が低いと学園生活が制限されるらしい。具体的に言うと、校内清掃などの奉仕活動の義務があったり、これはエリクシラも言っていたが居残りの訓練、果ては学園が仲介してくれる依頼もレベルが低いものになるのだとか。
この依頼のレベルが低くなるってのがとにかく面倒で……簡単に言うと、貰える金が減る。と言うのも、クロノス魔法騎士学園は学園であると同時に冒険者ギルドも運営しているらしい。いや、なんでだよって思ったけど、本当にそうなんだからどうしようもない。まぁ……多分だけど、魔法騎士になれなかった人間の受け皿なんだろうな。で、要は序列が低い奴は実力がないんだから危険なことするなって言われるんだ。
依頼のレベルが低くなって金が貰えなくなるぐらいなら別にいいじゃん、と思っていたんだけども……俺の実家は貧乏ではないが滅茶苦茶金持ちって訳でもない。学園生活中にジャブジャブ金を使うことなんて、序列が高くて真面目に稼げるか、実家が貴族なボンボンだけだ。馬車で隣町まで移動するのだってそれなりに金がかかるのに……この依頼のレベルが低いってのは結構困る。
「そこの貴方!」
「どうっすかなぁ……」
「……ちょ、ちょっと貴方よ!」
序列が上げる方法は幾つかあるらしいけど……一番手っ取り早いのは滅茶苦茶野蛮な方法だった。
「貴方だって言っているでしょう!?」
「うぉっ!? 後ろから急に引っ張るな!」
「貴方が無視するからでしょう!?」
「関わりたくなかったんだよ察せ!」
俺は難聴系主人公じゃないんだよ。ちゃんと聞こえたいたけど、明らかに貴族ですって感じの見た目してて関わると面倒そうだから他人の振りして逃げようとしてたんだっての。まぁ、逃げられなさそうだから話は聞いてやるか。
視線を合わせたら、その特徴的な宝石のような碧眼が目に入った。美しく整えられた金髪と合わさって、まるで異世界の御姫様みたいだ。
「なっ……この私の言葉を意図的に無視したと? そう言っているのですね!?」
「そうだよ……で、誰?」
おーおー……この学園だと、金魚みたいにパクパク口を動かすのが流行ってるのか? エリクシラもしてたよな?
「わ、私は……エリッサ・クーリア! 誇り高きクーリア王家の次女! 序列は11位よ!」
本当に異世界のお姫様だったわ。
それにしても……誇り高きクーリア王家の次女、ね。
「あれか『猪突猛進の暴れ姫』って」
「そっ!? それを知っていて私の顔と名前が一致しなかったんですの!? 信じられませんわ!?」
「不敬罪ではないだろ? 一応、学園内ではそういうのは無しって話だもんな」
「ぐぅっ!?」
まぁ、実際にこうやって貴族とか王家に暴言染みた言葉を喋りかけるような奴なんてあんまりいないと思うけど。
「それで、暴れ姫がなんの用件ですか?」
「……叩き折ってやります! そもそもその為に来たんですから!」
「へぇ……誇り高き王家は序列最下位の模範的平民を叩き折るために来たんですか」
「貴方は模範的平民ではありません。なにせ、この伝統あるクロノス魔法騎士学園に入学しておきながら、序列を決める試験に顔すら出さなかったんですから! 前代未聞ですのよ!?」
うーん、それに関しては流石に反論できる言葉が見つからない。だって、実際に俺が悪いからな。どうする……速攻で謝るか? 今から土下座したらワンチャン許してくれないかな?
「ですが、貴方もクロノス魔法騎士学園の生徒であるということを今一度私に示せば、許して差し上げます」
「……それは、ありがたい話です。俺はなにをすれば?」
「私と決闘しなさい!」
「嫌だ」
絶対に、嫌だ。
「なぁっ!?」
「決闘ってあれだろ? 序列を入れ替えるってやつ」
「そ、そうですわ! 生徒がもっとも簡単に序列を上げる方法! そして、魔法騎士にとって決闘とは神聖なるものであって、断ることは恥で──」
「恥で結構、入学早々お姫様と決闘して、ボコボコにしてお姫様の序列を最下位にしましたーなんて俺がどんなことを周りに言われるやら」
そう言った直後に、俺の足元に手袋が投げつけられた。騎士の白い手袋が投げられる場面は……一つしかない。
「本当に私を、倒せるつもりですの?」
ちらりと手袋から視線を上げると、さっきまでキーキーと喚いていたお転婆姫様とは雰囲気が変わっていた。目を惹きつけられてしまいそうになる、人の上に立つ人間が必ず持つ、カリスマ。その碧眼には誇りを穢されたと言わんばかりの怒りが滲み出ていた。
魔法騎士にとって、決闘を断ることは恥。受ければ自分が負けてしまうから、決闘は受けなくないと宣言するようなものだ。
「やめとけ」
それでも、俺はこの決闘を受けない。受けたところで俺のメリットなんて……序列が上がることぐらいだ。しかもその序列が上がるメリットだって、基本的にはちまちまと上げて行けばいい訳で……必ずしもこのお姫様と決闘しなければいけない訳ではない。
「そう、ですか……これでもまだ、私との決闘を断ると言うのなら──」
目を伏せて手袋を自ら拾ったお姫様は、即座に腰に差していた直剣を抜いて向けてきた。
「力づくです」
「こんなこと、していいのかい?」
「王家の誇りを穢されたこと、本来ならばすぐに斬って捨てるところですが……ここが学園の中、決闘という取り決めに従うのが礼儀です。しかし……それすらも貴方は断った」
「だから、平民の喉元に剣を突き付ける、と?」
本当に勘弁してくれよ。こんなことされてまで断ったら、次は問答無用で斬りかかってくる訳だろ? そうなったら俺は……間違いなく剣を抜く。
「手加減が下手なんだ。血が流れる前にやめておいた方がいい」
「それはやはり、私のことを過小評価しているのですね?」
はぁ……しょうがないし、こうなったら腹くくるかな。
これだから、金にもならない誇りなんてものを大事に抱えて死んでいこうとする騎士と貴族は嫌いなんだ。
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