第19話:田舎ギルドに期待するな

「見えたぞ。村だ」


「魔獣は一匹も出なかったわね」


「ここら辺の魔獣は昨日倒し尽くしたのかもしれないな」


「ん。殲滅」



帰りは特に何事もなく昼前までには村に着いた。

村に着くとゴーウェル商会の行商隊の馬車が見えた。


「ん。父さんの馬車」


クトラが指さしたのはひと際大きな馬車だった。

豪華な宝飾が施されており、そこら辺の貴族より立派な馬車だ。


「ゴーウェルさんの?どうしたんだろ?」


馬車の近くまで行くとこちらに気づいたゴーウェルが駆け寄って来た。


「あぁ。エラン様。クトラ。探しましたよ・・・貴方はアーシャ様ですか?」


「初めまして。アーシャ・ブリジットです」


アーシャはスカート掴みながら淑女のような振る舞いで挨拶を交わした。

相手が平民だからといって、傲慢にならずに礼儀はわきまえている。

てかむしろ俺の時より礼儀正しくしてない?まぁいいか。


「初めまして。クトラの父ゴーウェルです。クトラがお世話になっております」


「お久しぶりです。ゴーウェルさん。そんなに焦ってどうしたんですか?ご一緒するのは明日って話でしたよね?」


「それが、急がないといけなくなってしまったんです」


ゴーウェルの話をまとめるとこうだ。

ゴーウェル商会を贔屓にしているアームド侯爵家。そこの息子が急にクトラに会いたいと言って来たらしい。何でもクトラとアーシャの決闘を見ていたらしくクトラの事を気に入ったようだ。侯爵家なので息子は学園ではAクラス。Aクラスは完全に分離しているので話す機会もないらしく、1度クトラとゆっくり話をしてみたいらしい。


「なるほど。それで急がないといけない理由は?」


「次の大きな取引の契約日に是非にと。それが3日後なのです」


ここでクトラを連れて行かないとなったら契約に支障が出るかも知れないという事か。商会も大変だな。


「ん。行きたくない」


「クトラ。会ってお話しをするだけでいいんだ。いや。ご挨拶をして座っているだけでいい。父さんの頼みを聞いてくれないか?」


「ん。やだ」


「クトラ・・・」


狼狽するゴーウェル。何だか可愛そうになってきたな。

クトラには強く出れないんだろう。色んな意味で。

ここは俺が助け船を出してやるか。


「クトラ。俺達の旅の主な目的は終わった。あとはアーシャの実家に薬草を届けるだけだし、付いて行ってあげだらどうだ?」


「ん。無理」


「・・・でも付いていってあげないと、ゴーウェルさんの商会が傾くかもしれない。そうしたら学園に通う事も出来るなくなるかもしれないぞ?」


クトラは少し考えこむと


「アーシャの家。クトラも行きたい」


「私は全然構わないけど・・・いや。ダメね。家族は大切にしなきゃ。ある日突然、私のお姉様みたいに奇病にかかるかもしれない。ある日突然、賊に襲われて殺されるかもしれない。そうしたらもう二度とお父様に会えなくなるかもしれない。そうなれば必ず後悔するわ。だから家族が困っている時は助け合わなきゃ・・・ね?」


アーシャが言うと説得力があるな。


「む~」


もう一押しだな。


「クトラ。アームド家に行ったら食べた事のないお菓子が出てくるかもしれないぞ?クトラがお菓子が好きなのは知ってるだろうから、きっと何か用意してると思うぞ?」


「そうよ。私の実家はお菓子なんてないわ」


「む~~~~~。二人とも嫌い!」


クトラはそう言うとゴーウェルの馬車に乗り込んだ。

あんなに怒っているクトラは初めて見た。でも今回は仕方ない。


「・・・エラン様。アーシャ様。ありがとうございます」


ゴーウェルは俺達に深々と頭を下げた。


「いやいや。こちらこそクトラさんを連れ回してすいません」


「いえいえ。それはクトラが行きたいと言った事ですから」


「私も自分の都合でクトラさんを危険な目に合わせてしまって・・・ごめんなさい」


「お二人が謝る事はありません。あの子がやりたいと言ったら何でもやらせてあげたいので・・・しかし今回ばかりはどうしようもなく・・・」


「ですよね」


侯爵家と言ったら大貴族だもんな。

商会がそんな貴族に見放されたらシャレにならんからな。


「早く行かれた方がいいのでは?」


「あぁ。ですね。お二方、今後もクトラの友達でいてやって下さい。では失礼します」


ゴーウェルはまた深々と頭を下げると馬車に乗って出発した。


仕方ないとはいえ、クトラを怒らせてしまった。今度会ったら新しいお菓子を作れるように何か考えないとな。


「・・・行っちゃったわね」


「うん。行っちゃったな」


さてどうしよう?ゴーウェルが急いでいたので言わなかったが帰る足がなくなった。

歩いて王都まで行けると言えば行けるが時間がかかる。


「アルハートは素材を売りに行くんでしょ?私は馬車が出てないかハゲに確認してくるわ。あとで広場で落ち合いましょ」


「あぁ。頼んだ」


既にハゲ呼ばわりのバリス。俺もつられてハゲと言わないように気を付けよう。


俺はアーシャがハゲ。じゃなくてバリスを探しに行っている間に昨日狩ったイーグルエアのかぎ爪を売れる所がないか探した。



「ここが冒険者ギルドか」


冒険者ギルド。ここは様々な人が色々な依頼をギルドに発注して、冒険者と呼ばれる便利屋にその依頼をこなしてもらい、その達成報酬を支払ったりする場所だ。

他にも食堂を営んでいたり、獣の素材を買い取ってくれたり用途は様々だ。


俺は異世界に来て初めて冒険者ギルドに入った。やっぱり異世界に来たら1度はここに来ないとな。王都にもあるが、学園に直行したので行く機会がなかったのだ。この村にギルドがあって良かった。

中は異世界好きな俺の思ってた通りの作りで、食堂のようにテーブルやカウンターがあり、少ないが依頼クエストの張り紙も張ってあった。

ふむふむ・・・見たところ薬草の採取や護衛の依頼、弱い魔獣の討伐依頼が多かった。魔法を使えない平民で出来る範囲といったところだ。強い魔獣が出現した場合は基本的に貴族が狩りに行く。それがこの国のスタンダードだ。

しかし田舎だからなのか冒険者は1人もいない。まぁそんな事はどうでもいいか。俺が求めているのは受付のおしとやかな綺麗なお姉さんだ。いいおっさんが何言ってんだ。って感じだが、そこは見逃して欲しい・・・カウンターには誰もいない。奥にいるのかな?


俺が受付嬢を探しているとシルバがカウンターの上に飛び乗った。


(コラ。そんな所に乗ったら怒られるぞ?)


(何故だ?我は汚れておらんぞ?)


そりゃそうだけどさ。いや。こっちの世界だと別にいいのか?

分からん。まぁいいか。ペロペロは阻止しないといけないが、受付嬢に可愛いー!とか言われて話が弾むかもしれんし。


「すいませーん。素材の買取をお願いしたいんですがー。どなたかいらっしゃいますかー?」


「あぁ~ちょっと待っとくれ」


と奥の方から声が聞こえた。声色で嫌な予感。

少し待っていると、中から出てきたのは恰幅の良いお婆さん。

なんでやねん!俺のドキドキを返せ!


(小僧、老婆に罪はないぞ?)


(お前。俺の心が読めるのか?)


(小僧を見ていたら分かる)


(・・・・・・)


イーグルエアの大きなかぎ爪を見たお婆さんが驚いていたが、ここの話をしても特に面白くもないのでやめておこう。結論から言うと2週間分の旅費ぐらいのお金になったという事だ。



--温泉の村 中央広場


「お待たせ。あっちの馬車がブリジット領方面に行くみたい。ちょうど護衛を探してたみたいよ。でも私が貴族って事疑われたから魔法をぶっ放してやったわ」


ドヤ顔のアーシャ。

確かに自分が貴族だって証明するにはそれが手っ取り早いんだろうけど・・・。

人には打ってないよね?


「そ、そうか・・・タイミング良かったな。バリスには会えたのか?」


「ううん。あのハゲ何処にいるか分からなかったから、私たちが先に出発するって宿屋の人に言付けだけ頼んでおいたわ」


意外と気が利くな。

これで猪突猛進な所がなかったらよく出来た子なんだけどな。


「じゃあ早速行きましょ」


「あぁ」



--馬車 


テルマー領からブリジット領まで途中で街に寄ったり馬車を変えたり、およそ5日間で到着予定だ。街道は基本的に瘴気のない場所に作られているので魔獣に襲われる事は滅多にない。たまに魔獣化してないイノシシやクマが出てくる事があるかもしれないが、大した問題ではない。唯一危険なのは山賊だ。平民だけの山賊なら魔法を使えないので大したことはないが、問題なのは破門になったりして、落ちぶれた貴族が山賊を率いている場合だ。大抵の場合は冒険者になったりしているもんなんだが。


「ブリジット領って初めて行くんだけど・・・その・・・治安はいいのか?」


「失礼ね。常に北の魔獣と戦ってはいるけど、ちゃんと山賊退治もしてるわよ」


「そっか。なら良かった。俺は貴族と言っても魔法が使えないから急に訳分からん魔法使われたら抵抗出来ないからな」


「ふふっ。私に任せなさい・・・・・・というか本当に良かったの?ブリジット領まで付き合わせて」


「ここまで来たら最後まで付き合うよ。それに友好の蔵を開けたらお宝を回収しないといけないからな」


「そう言えばそうだったわね。お姉様・・・治るかしら?」


「・・・治れば良いな」


「うん」


源泉の薬草で治ったら万々歳だが、恐らく無理だろう。

俺はそんな事を考えながらブリジット領に向かった。

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