第18話:闇落ち
「あっ。ダメ」
星々が輝く夜空に木霊するなまめかしい声。
これ何のエロ漫画?
「アーシャ。俺にもそいつを撫でさせてくれないか?」
「いいけど。このっ子が離れてっくれなくて」
(おい。いい加減舐めてないでこっちに来い)
(なんだ?急に偉そうだな小僧)
(だって俺が
(ガッハッハ!そうだったな)
チワワは言われた通りアーシャから離れて俺の所へ来た。
さて、何から話そうか。いやその前に。
「アーシャ。俺はこれから源泉に浸かる。文句は言わせない」
源泉の貯まっている場所は小さい滝のようになっているので、薬草を育てる為に綺麗な源泉を汲みたいなら、少し上にあるそこから汲めば問題ない。
という訳で俺は入る。
「え!?ちょっと待ちなさいよ!ここで裸になるっていうの?」
「そうだ。俺はヘトヘトで汚れているから今すぐ風呂に入りたいんだ」
と言いつつ俺は服を脱ぎ始める。
「ちょっと!信じらんない!」
赤面しながら向こうを向いたアーシャ。
よし!ゴリ押せた!
「ふぅ~~~」
源泉は丁度良い温度で抜群に気持ちが良い。
五臓六腑に染み渡るとはこの事か。
なんとなく傷も治っているように感じる。
(小僧。デリカシーというものがないな)
お前が言うなよ。てかお前の言語ってそんな言葉あるの?
いや。俺が分かるように勝手に変換されてるだけか。
(そんな事より聞きたい事がある。まずお前の種族は何なんだ?そもそも魔獣なのか?)
(我か?我は・・・はて?なんだったか)
(そんな事も忘れてるのか。魂が同調したら思い出すんじゃなかったのか?)
(それは徐々にという事だ。急に全ての記憶が蘇るとは我も思っておらん)
(なるほど・・・じゃあ名前は?)
(それこそ覚えておらん。小僧が名付けてもいいぞ?)
え?そんな事急に言われても・・・うーん。前世の知識だと、どっからどう見てもフェンリルなんだよなぁ。でも種族忘れたとか言ってるから・・・銀色か。
(シルバでどうだ?)
めちゃくちゃ安直だけど。
(シルバか。うむ。それでいこう)
その後、シルバと色々な話をした。
俺の身の上話や、クトラやアーシャの事、そしてここに来た目的だ。
(身体が徐々に石化する?そんな奇病は知らんが徐々に石化していく症状なら我もかかった事がある)
(え?)
(恐らくそれは病気じゃなく呪いだ)
(呪い?)
(ダークエルフ・・・即ちエルフが闇落ちした者をそう呼ぶことは知っておるか?)
知らん。
ダークサイドに落ちたとか・・・ス〇ーウォーズみたいな感じか?
シルバの話を簡単に説明するとこうだ。
エルフは人間と違って基本的に精霊と契約し魔法を行使する。いわゆる精霊魔法だ。
エルフは基本的に穏やかな種族だが、負の感情が高まると精霊が悪霊になるらしい。
悪霊になった精霊はエルフの身体を乗っ取り、負の原因となったそれを"呪う"らしい。
(悪霊になると何処で知ったんだ?人の世界には関わってなかったんだろ?)
(ふむ・・・それも忘れた。だが我の記憶にある事は間違いない)
本当かよ?
(・・・シルバも呪われた事があったのか?)
(あぁ。呪われた原因は覚えてないが身体が石化していったのは覚えているぞ)
なんで呪われるような事をしたんだよ。と言ってもしょうがないか。
色々事情があったのかもしれないし。
(どうやって治したんだ?)
(そのエルフを殺した)
(・・・殺すしかないのか?)
(それ以外の方法を試した事はないが、悪霊を遠ざければあるいは・・・)
この話が本当ならイグーナの近くに悪霊がいるかもしれないって事か?
ダークエルフなんてこの世界に来て初めて聞いた。
アーシャにも詳しく話を聞いてみないといけないな。
「アーシャ―!ちょっと聞きたい事があるんだけどー?」
「そんなに大声出さなくても近くにいるわ。話をする前に服を着なさい」
「ん?三男?温泉入ってる?」
「あぁ。クトラ起きたのか。俺はそろそろ上がるから入るか?」
「ん。入る」
「え!?ちょっと!!」
湯気でよく見えないがアーシャが焦っている様子が手に取るように分かる。
俺は2人がいる反対側から温泉を出た。
「貴方は羞恥心ってものがないの?」
「ん?三男は覗いたりしない」
「だとしてもそんな簡単に・・・」
「アーシャも一緒に入ろ?」
「・・・私はいいわ」
「ん。残念」
しょぼんとしたクトラの声が聞こえた。何だか可哀そうだ。
てか今名前で呼んだな。俺も呼ばれた事ないのに。
「クトラにここまで言われて入らないのかー?友達だろー?それにお前汚いぞー」
「・・・・・・・あ~~~もうっ!分かったわよ!入ればいいんでしょ!?入れば!アルハート!覗いたらぶっ飛ばすから!」
「はいはい」
覗くも何も湯気が立ち込めて相当近くに行かないと見えないぞこれ。
風が吹いたら別だが。
(何やら雌が風呂に入ったみたいだな。どれ。我ももうひとっ風呂浴びようぞ)
(待て)
俺は2人の中に行こうとしているシルバの首根っこを掴んだ。
(何をする?)
(お前が行くとまともに話が出来ないんだよ。大人しく俺の上に座ってろ)
(我の・・・我の乳がぁ)
(お前の乳じゃねぇだろ!)
俺は服を着ると、シルバを連れてアーシャの声が届く所まで移動した。
「アルハート。聞こえる?」
「あぁ。聞こえるよ」
「こっち見てないでしょうね?」
「見てないよ。ほら、そのでかい岩の後ろだ」
「そう?ならいいわ・・・聞きたい事って?」
「あぁ。お姉さんの事について考えてたんだけど・・・俺の質問に何も考えずに正直に答えてもらっていいか?」
「なによそれ?別にいいけど」
「ありがとう・・・ダークエルフって聞いた事あるか?」
「ダークエルフ?何それ?聞いたことないわ」
やはり知らないか。
アーシャはエルフについてあまり詳しくはなさそうだ。
もともと交流の少ない種族だし、そもそも数が少ない。留学生でエルフを見かけた事もないしな。
「ならいいんだ。"友好の蔵"っていつぐらいに出来たんだ?」
「えっと。お姉様が生まれた時に建てられたそうよ」
「それまでエルフとは交流はあまりなかったのか?」
「うん。敵対していた訳じゃないけど、父と義母が恋に落ちた事がきっかけで交流が深まったみたいよ。義母が亡くなってから疎遠になってしまったけど」
「そうなのか?」
「ええ。一部のエルフは人間と子を成したから死んだと思ってるみたいよ」
なるほど。少し見えて来たな。その一部のエルフの負の感情が高まって呪いを引き起こしているのかもしれない。義母の家族か知り合いの可能性が高いな。アーシャがダークエルフについて知らないという事はブリジット家の人も呪いについて、たぶん知らないんだろう。しかし1つ引っかかる。父が呪われるなら分かるが、その娘が呪われているという点だ。
(どうした?小僧。難しい顔をして)
(さっきの話、俺は可能性に掛けてみたいんだが1つ問題があるんだよ)
(なんだ?)
(お前だよ。さっきの話をしたとしてどうやって信じて貰えばいい?お前の正体も何て説明したらいいか分からん)
(正直言えば良かろう?偉大な我を
(いや。それはマズイ。お前に知性があると知ったらアーシャはお前を焼き殺すかもしれない)
(何故だ?)
(お前が乳をペロペロペロペロしてたからだよ!)
(ガッハッハ!さすがにそこまでは・・・・・・・するのか?)
(マジでやりかねないぞあいつは)
「アルハート。もう話は終わり?」
「ん?あぁ。とりあえずは大丈夫だ」
「ふーん?変なの」
これ以上変な事を聞いたら怪しまれるので今日のところはやめておこう。
今日は色々あり過ぎて疲れたしな。
(シルバ。俺はもう眠い。このまま野営の準備をして寝る。見張りを頼めるか?)
(我は見張りなんぞせんでも気配で分かる。安心して寝ろ)
(助かる。おやすみ)
俺は野営の準備をすると2人に寝ると告げる事も忘れて眠ってしまった。
--次の日--
山の頂上 朝
「アルハート!起きて!」
アーシャの嬉しそうな声に促されて俺は重い瞼を開けた。
もう起きてたのか。
「おはよ。どうしたんだ?」
「これ見て!」
アーシャが手に持っていたのは薬草だった。
「そこの源泉の近くに生えてたの!これって薬草よね?」
「あぁ。ソフィア先生の授業でいつも使ってる。間違いなく薬草だ」
「源泉の近くに生えてたって事は源泉で育ったと言ってもいいわよね?」
「んー。どうだろ?少なくとも源泉の成分は多少なりとも吸収しているとは思うけど」
「そう・・・よね。やっぱり苗から育てないと意味ないわよね」
さっきまで明るい表情だったアーシャは悲しそうに薬草を眺めた。
アーシャが落ち込むと、こっちまで調子が狂うな。
「その薬草を土ごと瓶につめて鉢みたいにすればいいんじゃないか?お姉さんの所に届けるまで源泉の水をかけてやれば言い伝えには近くなると思うぞ?」
そもそも薬草を苗から育てる量の水を持って帰るのは困難だしな。
ここに住むって言うなら苗から育てるのも可能だが。
「そうね。そうするわ!」
「あぁ。俺も出来る限り源泉を汲んで帰るよ」
「ふふっ。ありがとう」
笑ったアーシャの顔を見たのは初めてかもしれない。
その笑顔が可愛くて不覚にもドキッとしてしまった。
しかし残念な事にその薬草はたぶん効かない。俺が呪いを何とかしないとな。
源泉の山 中腹
源泉の水を汲んだ俺達は山を下った。
途中に昨日倒したイーグルエアのデカイ奴の死体があったので
俺は少しでも金にしようと使えそうなかぎ爪を剝ぎ取った。
村で換金出来るといいけど。
「ねぇ。その子連れて帰るの?」
アーシャは俺の頭の上に乗っているシルバを見て言った。
「あぁ。何故か懐かれたみたいでな。ほっとけないだろ?可愛いし」
可愛くないけど。
「ふーん」
「なんだ?アーシャが飼いたかったか?」
「・・・遠慮しておくわ。その子怖いもの」
「怖い?」
「だってずっと胸を舐めてくるんだもん。目が血走っているし・・・何だかアルハートみたい」
「なんでだよ!」
「ん。三男みたい」
「クトラ・・・お前まで」
「ふふっ。冗談よ」
「ん。冗談」
俺を何だと思ってるんだよ。
(何やら楽しそうだな。何の話をしているのだ?)
(あれ?人の言葉分からないんだっけ?)
(分からん。学ぼうとした事もない)
(そうか・・・あれ?じゃあ何でエルフに呪われたとか分かるんだよ?言葉が分からなかったらそれ自体分からないだろ?)
(あれはダークエルフが我の寝床の近くに祭壇を立てて何やら怪しげな儀式をしていたからだ。どう見ても怪しかろう?顔もまともな表情ではなかった。だから殺した。そうしたら石化は治ったのだ。呪いで間違いないだろう?)
確かに・・・それが本当なら呪いとみても間違いないか。
(でも悪霊バカすぎないか?そんな事したらシルバに殺されるかもしれないのに)
(さぁな。何やら喋っていたが我は言葉の意味も分からんし、苛立って問答無用で殺したからな)
こいつと会った時、苛立ってなくて良かったな。
下手したら俺は殺されていたかもしれん。
(さっきの話だと呪われている人の近くに祭壇がある可能性が高いって事だよな?)
(恐らくな・・・我の時ほどの大きさではないかもしれんが)
なるほど・・・どこかの家の中に祭壇がある可能性もあるって事か。
「どうしたの?アルハート。難しい顔をして」
「ん?あ~~。学園ってペットOKだったよな?」
「Bクラスは個室だし、その子小さいし、他に飼ってる人も見た事あるから大丈夫よ」
「そっか。なら良かった」
とりあえずシルバを連れて帰るのは大丈夫そうだな。
後は呪いをどうするか。
そんな事を考えながら俺は山を下った。
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