第17話:ペロス
激しい雄たけびを上げると5ⅿはあるその銀色の化け物は、青い目を光らせてこちらを睨んでいた。
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
心臓がドクドクと鳴っているのが分かる。
アイツはヤバイ!逃げろ!と脳が直感的に言っている。
「あ・・・あっ」
アーシャはペタリと尻もちを着いて後ずさりをしていた。
アーシャも直感的にヤバイと感じているのだろう。
何でこんな所に魔獣が?瘴気はないのに!クソッ!油断した!
こっちはさっきの戦いで消耗していてもう戦えない。
クトラは疲れ切って寝ているし、もうお菓子もない。
絶対絶命だ。こうなったら・・・
「アーシャ。クトラを連れて逃げろ」
「は?何言ってるの?」
「俺はまだ剣を光らせる魔力はギリギリ残っている。アイツには目がある。襲い掛かってきたら不意を突くことは出来るハズだ」
「そ、そんな事出来るわけないなじゃない」
「いいから早くしろ!このままだと全滅だ!」
「クッ!」
アーシャは俺からクトラを受け取ると後ずさりしながら洞窟に入って行った。
「眠り姫を洞窟の外に出したら戻ってくるわ。それまで無事でいて!」
アーシャの声が洞窟から聞こえた。
戻ってくるなよ。と言いたかったがそれどころではない。
しかし幸いにも獣はこちらを見ているだけで動く様子はない。
こいつは何なんだ?魔獣図鑑でも見た事がない。
「我の咆哮を聞いて先に雌を逃がすとはな。見上げた奴だ」
喋った!?こいつ喋れるのか?
「ハハ。ありがとうございます。ここは貴方様の縄張りでしたか?すぐに帰るんで見逃して貰えないでしょうか?」
「・・・む?小僧。我の言葉が分かるのか?」
「え?」
この化け物が何を言っているかすぐには理解できなかった。
しかし俺は化け物の聞いた事もない言葉を理解し喋っている。
これはこの世界に来た時の感覚と同じだ。知らないのに知っている。不思議な感覚。
「どうした?分かるんじゃないのか?」
やべっ。意識飛んでた。
「はい。分かります。すいません」
「何をそんなに怯えている?心配せずとも取って食ったりはせぬ。先程の咆哮も驚かせて逃がす為だ」
「そうですよね。私みたいな下賤な者を食べたりしないですよね」
「なんだと!?」
さっきまで穏やかな表情だった化け物は俺の言葉に怒りを表した。
え?怒る要素あった?
「我の言葉が分かる者が下賤な者だというのか!?」
そっちかー!
そんなつもりじゃなかったんです。はい。
「あー。これには色々と訳がありまして・・・話が長くなるんですがいいですか?」
「ほう?申してみよ」
下手な事を言ったら食い殺されそうだったので、転生したことや
「転生か・・・面白いな」
「信じて貰えますか?」
「うむ。小僧が我の言葉を理解するに至った経緯としては納得出来る。人間如きが我と意思疎通が出来ようハズもないからな」
「良かったです」
「それに小僧が持っておるその剣。何か不思議な物を感じる」
「
「知らぬ」
知らんのかーい。
「いや。知らんというのは間違いかもしれんな。我は長い年月を生きてきたせいか、最近記憶がところどころ欠落しておるのだ」
「そうだったんですか」
「うむ。ここに来たのもこの湯で記憶の欠落が治ると思うて湯治しに来たのだ。全く治らんかったがな。ガッハッハ」
「ハ。ハハ」
笑いの壷が分からん。とりあえず愛想笑いしとこ。
「ふむ・・・小僧。我と契約してみるつもりはないか?」
「え?」
俺にペットになれと?これ断ったら殺される?
「・・・契約とはどんな契約ですか?」
「なに。そんなに身構える事はない。単純な主従契約だ。我の力も与えてやる。寿命が少し減るかもしれんがな」
「というと?」
「先ほど我の記憶が欠落しておると話しただろう?契約する事で小僧の魂と同調し、我の魂を若返らせるのだ。そうすれば我の記憶が蘇るかもしれん」
俺の魂が少し摩耗するって事か?
それって寿命と関係あるのか。
「どうして俺と?」
「我の言葉が分かる者はそうそうおらんからな。それに転生者で女神の使途というのも面白い。人の世界にも興味が湧いてきた」
こいつ着いてくるつもりか?このデカさで?
まぁこの手の奴は小さくなれたりするもんだけど。
「寿命ってどれくらい減る可能性があるんですか?」
「なに。減ったとしても5年ぐらいだ」
5年か。微妙なところだが断って怒りを買っても怖いしな。
それに契約したら力をくれるとか言ってたし・・・これはやるしかないでしょう!
「契約します!」
「フフ。即断出来るのは良い男の証だ!では目を閉じよ」
俺は化け物の言う通りに目を閉じた。
「大いなる魂の天秤よ。古の盟約により2つの魂をここに結べ。
化け物の詠唱が空に木霊すると、胸の奥から暖かい物を感じた。ポカポカして気持ちいい。
「む?なんだこれは!?」
化け物が驚いている様子だったので俺はゆっくり瞼を開けた。
俺の身体は何も変わった様子はない。
あれ?化け物がいない?
「あの・・・どちらにおられますか?」
「まさかそんな事が・・・いや。ありえるか」
化け物の独り言が聞こえたが姿は見えない。
「あの・・・どちらに?」
「ん?ここだ。ここ。湯の中だ」
源泉の方を見ると小さな銀色の可愛らしい狼?が温泉に浸かっていた。
体長は30cmに満たないぐらいの大きさで、イメージだとチワワぐらい?
よく見るとさっきの化け物が小さくなっているように思える。
「どうしてそんなお姿に?」
「いやなに。小僧が
「・・・はい?」
化け物の話を簡単に説明すると、俺の
「という訳だ。小僧の話が本当だったとも言える。我とした事が迂闊だったな。ガッハッハ!」
「それで小さくなられたと?」
「そうだ。我の力は小僧と比例しておるからな」
「俺と比例している?つまり弱体化されたと?」
「無論だ。主従契約と言っただろう?
なんじゃそりゃ!
「我も最強の自分には飽いていた所だ。鍛え直すのも悪くない」
それってつまり俺TUEEEE!が出来たハズなのに出来なくなったって事だよな?
そしてこの銀色のチワワモドキは俺より弱い?
「・・・マジかよ」
俺はorz←この体勢に自然と体がなっていた。
「そう落ち込むな。力は同等なれど、経験は小僧より豊富だ。ガッハッハ!」
なんでそんなにポジティブなんだよ!
ガッハッハ!じゃねぇよ!
(このチワワめ!)
(ん?チワワとはなんだ?)
(あれ?俺の心の声が聞こえてる?)
(そうだ。我に伝えようと思うと、ある程度の距離まで心で会話出来る。主従契約とはそいうものだ)
(へぇ。凄いですね)
(うむ。ところでチワワとはなんだ?)
やべっ。迂闊な事は言えない。どうしよう。
「アルハート!」
不意に後ろから聞こえたその声はアーシャだ。ナイスタイミング!
戻って来てくれて助かった。
「化け物は何処!?」
「あ~~~。あいつは魔除けの薬撒いたらどっか行ったよ」
魔除けの薬はソフィア先生から習った薬で、魔獣が嫌がる匂いを発生させる。
野営等に重宝する薬だ。
「そんな物で!?もう来ないの?」
「んー。たぶん来ないよ。めっちゃ嫌がってたから。何故かあいつにはかなり有効だったみたい」
「そう。なら良かったわ・・・アルハート。何か元気がないみたいだけど大丈夫?」
「あぁ。化け物と対峙してたからな。気が抜けちゃったのかも」
違うけど。
「あ。クトラは?」
「洞窟の外の草むらの陰に置いてきたわ。まだ眠ってるかも」
「今度はそっちの方が危険だな。迎えに行ってくる。アーシャは疲れているだろうからここにいてくれ」
「分かったわ」
俺は洞窟を駆け下りクトラを探した。
「クトラ!」
草むらに隠れるようにクトラは横になって眠っていた。
「さんなん?」
寝言か?
瞼を閉じたまま言葉を発したクトラはそのまま眠り続けていた。
「無事で良かった」
俺はクトラを担ぐと再び頂上に向かった。
正直今日は色々とあり過ぎて疲れた。俺も眠りたい。
そんな事を考えながら洞窟を抜けた。
「あっ!ダメっ。そんなところ舐めたら」
なまめかしい声の方を見ると、仰向けになっているアーシャのお山の上にチワワが乗っていた。チワワは夢中でお山を貪っている。
「・・・何やってんの?」
「んっ。この子を見つけたら可愛いー!ってなって。あっ。撫でてたらっ懐いちゃって」
チワワが可愛いからって少しは警戒しろよ。あのデカい奴の子供かも知れないだろ。
俺だったらそう考えるね。まったく・・・・直情的というか何というか。
(そして貴方は何やってるんですか?)
(おう。戻ったか。身体が小さくなるのも悪くない。この雌の乳は最高だぞ?)
(・・・それ人間ですよ?)
(乳に種族など関係あるものか!ペロペロペロペロペロス)
「もぅ。あっ。んっ」
・・・・・・・もう敬語やめよ。
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