第16話:大きなお山
洞窟に入ると中は大きな空洞になっており、上を見上げると空が見えた。
それと同時にバサバサと羽をはばたく音が無数に聞こえた。
「イーグルエアよ!」
魔獣図鑑で見た事がある。鷲が魔獣化したモンスターだ。
体長は70~100㎝で体毛は茶色く鋭いかぎ爪が特徴だ。
単体だと大した脅威ではないが群れると危険度が跳ね上がる。
何より飛んでいるので飛び道具がない俺は攻撃が出来ない。
「これ。30羽はいるぞ」
ガァーガァーとイーグルエアの鳴き声が洞窟を木霊する。
「先手必勝!闘志の灯よ。敵を穿て。ファイヤアロー!」
アーシャの炎の矢がイーグルエアに向かって飛んだ。
ドンッ!
しかし飛び回っているイーグルエアを捉えられない。
「ちょこまかとっ!」
アーシャは躍起になってファイヤアローの連射を開始した。
バチッ!
聞きなれたその音が聞こえるとクトラは上空に引っ張られた。
物凄い勢いでイーグルエアまで辿り着くとズサッ!っと切り捨てた。
「キュオー!」
イーグルエアは絶命し、地面に落ちていく。
「ん。次!」
バチッ! シュッ!
クトラは次の獲物に切りかかろうとしたが、イーグルエアはクトラの動きを読んでるかのように身を躱した。
「ん。もう一回!」
バチッ! シュッ!
しかしクトラの斬撃は空を切り、イーグルエアを捉えられない。
本調子ではないとはいえスピードは充分なクトラの攻撃を何度も躱している。
「こいつら。頭がいいぞ」
1度見たこちらの動きを覚えているのかもしれない。
「こっちだ!デカ鳥!」
何も出来る事がない俺はヤケクソ気味に転がっている石を投げた。
バシッ!っとこちらに見向きもしてなかったイーグルエアにクリーンヒット。
我ながら良いコントロールだ。
「ギャッ!?」
激昂したイーグルエアは一直線に俺に向かって来た。
「いいぞ!来い!」
ザクッ!
俺の剣はイーグルエアを真っ二つにした。
さすがの俺も真っ直ぐ向かってくるデカいだけの鳥に負けるつもりはない。
「ハァハァハァ」
クトラの方を見ると大量の汗をかいてしんどそうにしていた。
「クトラ大丈夫か?」
周りにはクトラが飛び続けて狩ったイーグルエアが数匹落ちている。
「ん。平気」
「無理するなよ。お前は奥の手なんだからさ」
「ん。まんじゅうあるから大丈夫」
「ファイヤアロー!」
遠くの方ではアーシャも襲ってくるイーグルエアを魔法と剣で切り伏せながら戦っている。
「アーシャー!大丈夫かー?」
「大丈夫よ!っっこのぐらい!!」
と言いつつもかなりしんどそうだ。
魔力切れを起こさなければいいが。
イーグルエアの数が半分ぐらいになってからだろうか。
ギュオォーー!!とけたたましい鳴き声が聞こえると、そいつは洞窟の奥から出て来た。通常の3倍はあるイーグルエアだ。
「マジかよ」
そいつは天高く舞い上がると翼を大きく羽ばたき始めた。
「マズイわ!早くあいつを仕留めないと!」
なんだ?何をしている?
羽ばたき始めると同時に他のイーグルエア全員がそいつの周りを旋回し始めた。
プシュ!
ん?頬が痛い。手で触ってみると血が出ていた。
「は?」
俺は何が起こったか分からなかった。
そんな事をしていると、3倍のイーグルエアを中心に風が吹き始める。いや。吹いていた。それは瞬く間に竜巻のようになり、身体が強風で吹き飛ばされそうになった。
バチッ!
クトラがそいつを仕留めようと空中に浮かんだ。
が。
「あぁ!」
竜巻に弾かれてクトラは洞窟の外に投げ出されてしまった。
「クトラ―!!」
これはマズイ!
「アーシャ!一旦外に!」
「待って!私に考えがあるわ!」
いつの間にか俺の近くまで来ていたアーシャは剣を鞘に納めて目を閉じていた。
「考えってなんだよ?」
「アルハート。貴方無属性だったわよね?」
「あぁ。それがどうしたんだ?そんなことより」
「私に触れて魔力を流しなさい」
「は?どういう」
「いいから!!」
俺は言われた通り、いつも剣に魔力を流して発光させるイメージをしつつアーシャに触れた。
「ちょっと!あっ。んっ」
「これでいいか?」
強風で目を開けてられない。アーシャは何をしているんだ?
「後で覚えて起きなさいよ!神より賜りし爆炎の咆哮。顕現せよ!」
何を言っているのか分からなかったが、詠唱しているアーシャの魔力は決闘で俺と戦った時より強く感じた。
「ファイヤストーム!」
詠唱が終わると瞬く間に炎が巻き上がった。
炎はイーグルエアが引き起こしていた竜巻と重なり更に大きくなって燃え広がった。
「ギュオォォォ!」「ガァー!」
次々と雄叫びを上げながらイーグルエア達が焼かれ、地面に落ちていった。
正に阿鼻叫喚だ。
「ギョオォォ!!」
ひと際デカい雄たけびが聞こえた。3倍のデカい奴だ。生きてはいるが苦しそうにしている。そいつはダメージを追いながらフラフラ飛んで洞窟の外に逃げ出そうとしていた。
その刹那。バチッ!っと聴きなれた音が聞こえると
ズシャ!っとそいつの胴体はⅩの形に4等分された。
「ん。逃がさない!」
デカい奴を切り裂いたクトラは空中を回転しながら見事に着地。
クトラさん。かっけぇ。
「良かった!無事だったか!」
「ん。まんじゅう食べた」
いや。それだけじゃ治らないだろ。
でも無事で良かった。
「やったわね!アルハート!!」
戦いに勝利して興奮しているのかアーシャは叫びながら俺に抱き着いてきた。
「お、おうよ」
大きなお山が当たってますよ。アーシャさん。
「む。三男。鼻の下」
「あっ!」
急に恥ずかしくなったのかアーシャは俺から離れると
「というか貴方!どういうつもりよ!?」
なんだ急に?情緒不安定かこいつ。
「何が?」
「魔力を流す時に私のむ、胸を触ったでしょ!」
「は?」
そう言えば柔らかい物に触れた気がする。
あの時はそれどころじゃなかったけど。
「いや。前がよく見えなかったんだよ。風がすごかっただろ?」
「フンッ!」
ドスッ!っとみぞおちに拳をお見舞いされた。
「これでお相子よ」
「お前な・・・イテテ」
倒れ込む程痛い。そんなに本気で殴るか?普通。
「ん。疲れた」
クトラは魔力の消耗が激しいのか眠そうにしていた。
2つ目の温泉まんじゅうでは効果が薄かったか?
「休憩にしようか」
「上の方。瘴気なかった」
洞窟の上は空が見える。
空洞の端っこに坂道があるので、それを登れば山の頂上に辿りつけそうだ。
瘴気の中にいると気分が良くないし、また魔獣が来るかもしれない。頂上に行った方がいいだろう。
「じゃあとりあえず頂上まで行こうか。そこで休憩しよう」
「ん。おんぶ」
「へいへい」
「でもなんで上には瘴気がないのかしら?」
「確かに・・・源泉のお陰とか?」
「うーん・・・考えても仕方ないわね。取り敢えず行ってみましょ」
俺達は不思議に思いながらら山の頂上に向かって歩き出した。
「そう言えばさっきの魔力を流すってどういう事なんだ?授業でそんなの習った事ないぞ?」
「私もアレは賭けだったわ。無属性の人は唯一魔道具が使えるでしょ?何でだと思う?」
「えっと・・・"無"だから他の属性に干渉しない?」
「そう。他の属性持ちが同じことやると干渉して上手く機能しない。でも無属性は余計なものをなしに魔力を流し込めるの」
「なるほど・・・同じ属性持ちなら魔力を移せるのか?火から火とか」
「それもダメね。同じ属性同士の魔法が相手に当たるのは魔力が同調してないから」
「同調?」
「ええ。私が自分のファイヤストームに巻き込まれないのも魔力が同調してるから大丈夫なの。魔力は各個人それぞれ違うのよ」
「ふむふむ。俺は無属性だから同調出来たって事か」
「それは私も掛けだったけどね。魔道具が使えるならもしかしたらって思ったの」
各個人の魔力は指紋みたいなもんって事か。
ん?てことは俺は同調すれば相手の魔法を無効化出来る?
いや。出来たとしても有効ではないか。集中しながら相手に触れなければならないし、そんなに接近して無効化する暇あるなら剣で倒せって感じだよな。
「あれ?でも魔石とかどうなんだ?あれって火を灯したり飛空艇の浮力になったりしてるじゃないか」
「アレは特殊な装置で魔石の魔力を放出してるから使えるの。だから魔力がない平民でも使えるんじゃない。そんな事も知らないの?」
「・・・ウチは貧乏で魔道具なんてなかったからな。学園でも蝋燭使ってるし」
「そう・・・魔道具も安くはないものね」
ジレットが忘れたとか言って、結局ずっと3人部屋の時も蠟燭だったしな。
「・・・・でもそれだったら魔道具が武器として流通してないのは何でだ?魔石を武器に付ければ強力な武器とか作れそうなのに」
「原理的にはそうね。でも魔石は基本的に消耗品だし、武器に着けれるぐらいの小さな魔石じゃ十分な火力は出ない。特殊な装置も付けないといけないから現実的じゃないわね」
「振り回す武器にそんな装置を着けたらすぐに壊れるかもしれないし・・・コスパが悪いって事か」
コスパは悪いけど大砲みたいな魔道具ならいけそうだな。聞いた事ないけど。
「というか何でアルハートが知らないわけ?貴方のそれ。魔道具なんでしょ?」
あっ。やべ。
「そう言えばその剣。魔石が見当たらないわね?どうやって光らせてるの?」
「これはその・・・アルハート家に代々伝わる魔道具で特殊なんだよ。光る魔石は不要だ」
苦しいか?
「ふーん?まぁいいわ。光るだけだし、大した物じゃないものね」
「まぁ・・・そうだな」
否定出来ない。
そんな事を話しならが歩いていると出口が見えて来た。
外は暗くなっており、すっかり夜になっていた。
「綺麗ね」
外に出たアーシャは夜空を見上げなら星空を眺めていた。
「あぁ。満天の星だな」
山の頂上という事もあって、周りに何もない夜空は星が輝いていて綺麗だった。
この惑星は地球の環境にかなり似ている。知っている果物や生き物、ほぼ一緒だ。
しかし輝いている星々を見てここが地球ではないと再認識させられた。
「あれが源泉かしら?」
アーシャの見ている方を見ると湯気が立ち上っている場所があった。
源泉の周りは花畑に囲まれていて何とも幻想的だ。
「・・・待って!何かいる!」
湯気が風に流されると、そこには銀色の大きな狼のような獣がいた。
「グオオォォーー!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます