第15話:友達

--次の日-- 


宿屋 朝


・・・・・・・・・・・

太陽の日差しが窓から注ぎこまれ、瞼を閉じている暗闇の中に眩しさを感じた。

もう朝か・・・昨日はずっと馬車に揺られて疲れたからまだ起きたくないな。

・・・・・・・・・・・

眠気が覚めないまどろみの中、俺は目を開けずに自分と葛藤していた。

・・・・・・・・・・・?

あれ?なんか手の甲に柔らかい物がある。なんだこれ?

手の向きを変えながらその柔らかい物を手の感触だけで確かめてみた。

プニプニしてる?ん?これは触り心地がいいな。

何も疑問に思わずにその感触を楽しんでいると、んっ。と吐息に似た小さな声が聞こえた。

・・・・・・・・・・え?

恐る恐るゆっくり目を開けるとサラサラの白髪が見えた。

この髪・・・・そして俺の手の位置・・・これは・・・マズイ。


「闘志の灯よ。敵を」


「わーー!待て待て待て!!」


俺は聞き覚えのある詠唱を聞いて飛び起きた。


「アルハート。貴方死にたいらしいわね?」


そこには般若のように怒り狂っているアーシャの顔があった。


「いやいや!待て!誤解だ!俺は境界戦を越えてないだろ?クトラが勝手に俺の布団に入ってきたんだよ!」


「だとしても!なにかいやらしい声が聞こえたわ!貴方がナニかしたんでしょ!?」


うーーん。しましたね。

でも寝ぼけてたんだからしょうがなくないか?


「してない!したとしても不可抗力だ!」


「やっぱりしたんじゃない!」


「というかお前。宿ごと燃やすつもりか!?」


「それも仕方ないわね!」


「お前マジでぶっ飛んでるな!」


朝からギャーギャーと言い合っていたら


「ん。うるさい!」


と眠れる龍を起こしてしまった。クトラの大声を初めて聞いた俺とアーシャはビクっとなり黙り込んだ。2人が静かになるとクトラはまた眠りについた。朝の寝起きはかなり機嫌が悪いようだ。


「ほら・・・眠れる龍を怒らせたら怖いぞ?」


「・・・それもそうね。出発の準備をしましょ」


てか・・・おんぶしてる時は全く分からなかったが意外とあったな。



--源泉の山 麓


「さぁ!気を取り直して出発よ!」


「おー」


まだ眠っているクトラを担ぎながら俺達は頂上を目指して出発した。

山の頂上まで俺の見立てでは半日歩けば着きそうだ。何事もなかったらだけど。



「眠り姫には何かお礼をしなくちゃね」


「どうしたんだ?急に?」


「だって、私とアルハートは目的があるから良いけど眠り姫はわざわざこの危険な山を登る理由はないもの」


「それもそうだな。でもクトラも冒険したがってたから良いんじゃないか?友達の為でもあるし」


「ともだち?」


「違ったのか?温泉まんじゅうが食べたいってのはあると思うけど、それだけでわざわざ春季休みにこんな辺境まで来ないだろ?」


「そうなのかしら?」


「そうだよ。その気になれば金持ちなんだからまんじゅうを取り寄せることも出来るだろ?」


「それもそうね・・・でもアルハートがいるからじゃない?」


「それもあるかもしれないけど、少なくともお前の事を嫌ってはいないと思うぞ?昨日も一緒に温泉入ったんだろ?」


「・・・うん」


「春季休みに一緒にお出かけして飯も食って、1晩寝れば友達だろ?俺はお前の事をもう友達だと思ってたけど違うのか?」


「それは目的があるから・・・あ~~~もうっ!知らない!」


そう言うとアーシャ恥ずかしそうに走って行った。


「あっ!おい!待てよ!」


「ん。デカパイ。照れてる」


「起きてたのか」


我ながら、らしくない会話をしてしまった。自分の事はともかく2人には仲良くして欲しいと俺は思っていたらしい。



しばらく進むと瘴気の匂いがした。瘴気の匂いは独特で血の匂い、もしくは鉄の匂いに近い。短期間であれば人体に害はないらしいが気分は悪くなる匂いだ。昨日の温泉で僅かにこの匂いがしたのもこれのせいかもしれない。もうすぐ魔獣と接敵する予感がした。


「いたわ!シェルビンよ!」


アーシャの声の方を見ると大きなアルマジロみたいな魔獣がいた。

体長は1mぐらい。灰色の硬い外角に覆われて丸まりながら突進してくる魔獣だ。


「私に任せなさい!」


「姉御。おねげぇしやす」


「何それ?気持ち悪いわね・・・ともしびよ。暗闇を照らす剣となれ。エンチャントフレイム!」


詠唱が終わるとアーシャの剣に真っ赤な炎が灯った。

こんな魔法も使えたんだな。いいなぁ。カッコイイ。


「キュロー!」


甲高い奇声と共にシェルビンは丸まりながら突進してきた。

アーシャは剣を構えると正面から切り込む体制に移行した。


ザシュ!


「ギュオォ!」


アーシャの見事な一閃でシェルビンは真っ二つ。

2つに分かれた胴体は瞬く間に燃え広がった。


「どんなもんよ!」


アーシャは腕を組みドヤ顔だ。

確かにあの硬そうな外殻を一撃で真っ二つにするのは大したもんだ。


「さすがです姉御!」


「さっきからなんなのよそれ。私は貴方のお姉さんじゃないわ」


凄いのは凄いんだが、この倒し方では魔獣の素材が回収出来ない。

勿体ないけどまた喧嘩する訳にはいかないので黙っておこう。


それから幾度か魔獣に遭遇したが、全てアーシャが処理してくれた。

さすが魔獣と常に戦っている辺境伯家の娘ってところか。

・・・こいつ1人で行けたんじゃね?



「瘴気が濃くなってきたわね」


「あぁ」


頂上付近に辿り着くと瘴気の匂いがキツくなってきた。

空は晴れているが何となく黒色に覆われている感じがした。


「たしかこの先の洞窟に鳥の魔獣の巣があるって言ってたわよね?」


「あぁ。村人が目撃したらしい。何の種類か分からないけどな」


この瘴気の濃度は経験した事がない。魔獣の強さも相当だろう。


「あったわ」


目の前に現れたのは大きな洞窟の入り口。恐らくこの中に魔獣の巣がある。

出来れば避けて通りたいが、洞窟と山の外側は逆三角形になっており、登るのは困難だ。ここから登るしかないだろう。


「クトラ。そろそろ出番だぞ?」


俺はおぶっているクトラを降ろすと温泉まんじゅうを取り出した。


「ん。わはった」


眠気はまだあるようで呂律が回ってない。

大丈夫かな?


「温泉まんじゅう食べた事あるのか?」


「ん。ずっと前に」


食べた事あるのか・・・全力は出せないかもしれないな。


「ん。美味しい」


久しぶりに食べたという事で美味いとは感じてるようだ。


「いけそうか?」


「ん。任せろ」


チャキッ!っと双剣を取り出すとクトラはスタスタと洞窟に歩いて行った。


「あっ。ちょっと待ってよ!」


慌ててアーシャが後を追いかける。

・・・これ。連携出来そうにもないな。

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