第14話:境界線
--数日後--
王都 街道 朝
アーシャに強引に押し切られて俺は今馬車に揺られている。
クトラとアーシャは制服を脱ぎ捨てお出かけモード。
クトラはいわゆるゴスロリ系の服。黒を基調としたワンピースで何というかイメージ通り。アーシャは白を基調とした服の上下にスカート。落ち着いたお姉さん感を出しているのがちょっと腹立つ。似合ってるけど。
てか君たち危険な所に行くんだから鎧とか着ないの?動き辛くはなるけどさ。
まぁそれを女の子にツッコむのも野暮ってもんなのか。
「アルハート。学校の行事じゃないのに制服で行くの?」
「俺はこれしか持ってないんだよ。でも誰かさんに1回燃やされたから新品だぞ?」
制服を買い直したら本当にすっからかんになってしまった。
「そうよね。貧乏貴族だった事を忘れてたわ」
「お前な」
嫌味なのかピュアなだけなのかこいつはホントに。
「ん。喧嘩ダメ」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「ん」
「俺も余計な事を言ったな。すまない」
「ん。仲直り」
この中で1番コミュ症であろうクトラに仲裁をされてしまった。
俺も大人になろう。てか精神年齢考えたら俺が1番大人だしな。
「それにしても眠り姫のお陰でテルマー領までの馬車を簡単に手配出来たわ。ありがとう」
「ん。感謝しろ」
この馬車はクトラの父・ゴーウェルの行商隊で、今回の話をしたらテルマー領の温泉の村まで連れて行ってくれる事になった。行商隊も学生と言えど貴族(魔力持ち)が乗ってくれるなら山賊対策で助かるらしい。平民だけの行商隊なら通常護衛を雇う所だが、貴族がいるってだけでそこらの護衛より安心なんだろう。今回ゴーウェルはいないが帰りは合流する予定だ。ちなみにバリスとポンラは別の馬車だ。
「
「行商隊の人の話では順調に行けば明日の夕方には着くらしい」
「今日は野宿ね」
「あぁ。一応見張り番の事とか考えとかないとな」
「三男。膝枕」
「眠くなったのか?」
「ん」
「どうぞクトラ姫」
俺がポンポンと膝を叩くと、クトラはちょこんと膝の上に頭を乗せた。ゴツゴツしてて寝心地悪いだろうに・・・目を瞑ったクトラを正面からしっかり見るのは初めてかもしれない。やっぱり綺麗な顔をしているな。
「ねぇ。貴方たち付き合ってるの?」
「いやいや。どちらかと言うと俺は保護者みたいなもんだよ。言ってみればお兄ちゃんって感じ?」
「ふーん」
学園の外という事もあってかさすがに、風紀委員として見逃せないわ!とは言われなかった。
「クトラ。これから危険な所に行くからアーシャに体質の事を話しておいていいか?情報は共有しておきたい」
「ん。任せる」
馬車に揺られながらアーシャにクトラの事や俺の事を話した。
アーシャは俺達の事を話していくうちに表情が穏やかになっていっている気がした。
夜になり馬車は恙なく中継の野宿ポイントに着いた。
今回、俺達は護衛も兼ねているので見張りの話をするために学生だけで夕食を取る事になった。
「さぁ!皆さんお待ちかねのポンラちゃんの手料理ですよー!」
バリスとポンラが持って来た大鍋は20人前はあるスープだった。
こんなに誰が食べれるんだよ。
「クトラさんには焼きお菓子を用意しましたよ」
「ん。スープ食べる」
お?珍しいな。クトラもお出かけでテンション上がってるのか?
「お口に合えばいいのですけど」
喋った。マ〇コ・デラックスが。可愛くちっさい声で。体格と声の格差が激しい。
「エラン君。感謝してくださいよ。ポンラちゃんの手料理食べれるなんて王宮の料理を食べるより価値がある事なんですから」
「あ、あぁ。感謝していただきます」
ポンラの料理は野宿で作れるレベルの想像を超えて確かに美味かった。
そしてその大鍋の3分の2を全てポンラが食べた事はツッコまないでおこう。
--次の日--
俺達はそのまま順調に何事もなく目的地まで到着した。
村の大きさは小さいが、温泉の村という事だけあって辺りは観光客らしき人がチラホラ歩いており、煙が立ち上っている。
草津温泉みたいなイメージだ。さすがに浴衣の人はいないけど。
「へぇ。素敵な所ね」
「ん。温泉まんじゅうどこ?」
「はいはい。整列してください。とりあえず宿までご案内しますから」
俺達はバリスに連れられて木造2階建ての宿に着いた。
なんだか日本にありそうな風流な宿だ。
「ではエラン君達はここの201号室です。話は通してあるので・・・じゃそういう事で」
「いや待て!エラン君達ってどういう事だよ?お前は何処行くんだ?」
「自分はポンラちゃんと一緒に違う所に泊まるに決まってるじゃないですか。個室に温泉がある部屋に泊まるんですよ」
「は?」
「タダで泊めてあげるんで感謝して下さいよ?ウチは貧乏なんですから」
そこそこ賑わっているのに本当に貧乏なのか?
税が低いとか?経営が悪いとか?
「ちょっと!そういう問題じゃないわ!女子は女子。男子は男子って決まってるじゃない!」
「決まってませんよ?貴方の常識を自分に押し付けないで貰えますか?」
おぉ。言うねぇ。ポンラの前だと強気だ。
「ちょっと。バリスくん」
「ポンラちゃんは黙っておいて下さい。ゴホン。いいですか?今日は修学旅行じゃないんですよ?プライベートな旅行です。元々ポンラちゃんと2人で来る予定だったのに貴方達が着いてきただけです。部屋を用意してあげただけ感謝して欲しいですね」
確かに。ド正論だ。
「・・・分かったわ。私がお金を出すから違う部屋を用意して」
「貴方の目は節穴ですか?こんなに賑わっているのに違う部屋なんか空いてる訳ないでしょう?」
こんなにって程でもないが、空いてないのは本当なんだろう。
「ん。デカパイ。諦めろ」
「・・・・・・」
「じゃあ帰りは3日後に村の入り口で落ち合いましょう。ではまた。」
「あっ。バリスくん待って」
ドスッドスッドスッと地響きを立てるようにバリスとポンラは去って行った。
「まぁここで立っていてもしょうがない。とりあえずチェックインして明日の準備しよう」
「風紀委員の私が・・・男子と・・・こうなったら野宿でも」
「おいおい。本来の目的を忘れるなよ。明日は山登りだ。ちゃんと寝て体力をつけておかないと」
「・・・それもそうね。お姉様の為だもの」
「頼むよ」
ようやく納得したアーシャを連れてチェックイン。
俺は異性と寝る事なんてどうでもよく、早く温泉に入りたかった。
「ふぅ~~~」
おっさんのようなため息が出る程温泉は最高だった。この世界に来て初めての入浴。
しかも露天風呂。やっぱり日本人は風呂だな。寮にはシャワーしかない。バリスには感謝しなくちゃな。源泉の言い伝えが嘘でもこれだけでここに来た価値はある。
Aクラスは個室の風呂があるらしいから頑張って目指そうかな?
温泉から部屋に帰ると2人はもう戻っていた。久しぶりの入浴で長風呂し過ぎたか?
2人の顔を見ると、風呂上りで艶っぽく、頬が赤く染まっていて何だかイケない気分になりそうだ。何で女の子は風呂から上がると色っぽいのだろうか?
「絶対!ここからこっちに来ないでよね!」
開口一番に聞いたセリフ。
アーシャがこちらを睨みながら布団の間に荷物を置いて境界線を引いていた。
それ言う奴ホントにいるんだな。
「行かないよ。本気出されたら俺はお前達に勝てないしな」
「そんな事言って来たらぶっ飛ばすから!」
「はいはい」
やれやれ。身体は大人でもまだまだ子供だな。
俺はそんな事を考えながら眠りに着いた。
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