第13話:温泉まんじゅう

--次の日--


王立学園 医務室 昼


昨日の決闘でまだ火傷が治っていない俺は医務室に泊まっていた。

アーシャに決闘で勝ったので、医務室に人が押し寄せて俺がモテモテになるなんて事はなかった。やっぱり勝ち方が不味かったか?でもアレぐらいしないと勝てなかったしな。そして折角勝ったのにまだ問題が解決していない。夢の中にチビロリ女神が出てきてイグーナの奇病の治し方を教えてくれるのかと期待していたがそんな事もなかった。肝心な時にあのチビロリめ。出て来いよ。


そんな事を考えてると医務室の扉に人影が視えた。


「エーラーンくーん。あーそーぼー」


「いーやーよー。かーえーれー」


ガラッ!っと扉が開くとバリスとジレッドが中に入って来た。


「何でですかー?人が折角お見舞いにきたというのに」


「フッ!バリス。彼は照れてるだけだ」


「照れてねぇよ。俺は安静にしときたいんだよ」


色々考えないといけないし。


「そんな事言っていいんですかー?折角お昼ご飯持ってきてあげたのに」


よく見るとバリスの手には食堂のランチセットが乗っていた。


「あ。いや。すいません。ありがとうございます」


「フッ。始めから素直になりたまえ。一緒にランチといこうじゃないか」


そう言うと、バリスとジレッドは何処から持って来たのか机と椅子を用意して昼食の準備を始めた。


「やけに準備がいいな」


「そりゃ下剋上を果たした英雄様に色々聞かないといけませんからねー」


「昨日はそのまま医務室に行ったから、僕は心配して夜しか眠れなかったよ」


「それ寝れとるやないかい!・・・まぁソフィア先生のお陰で明日には治る予定だ」


「それは良かったです。では準備が出来たので食べましょう!」


「「「いただきます!」」」


この国にいただきます!の文化はないが、俺がこの2人に教えた時から3人でいただきますの儀式をやっている。この2人は何故かこの儀式を気に入ってくれているようだ。


「それにしてもやりましたね!エラン君。まさかあのアーシャ嬢に勝つなんて」


「フッ!僕は君なら勝つと思ってたよ」


「嘘つけ。絶対負けると思ってただろ」


「ハハハ。それは僕だけじゃない。皆そう思ってたハズさ・・・勝ち方はアレだったけどね」


「ハハッ。ですね」


「うるさい!勝ったらいいんだよ!勝ったら!」


「そんなにムキにならなくても。冗談ですよ。・・・ところでエラン君。アーシャ嬢にはどんなエッチなお願いをしたんですか?」


「その下衆な笑みをやめろ。なんでエッチな事限定にしてんだよ」


「それ以外エラン君が頼む事なんてないじゃないですか?ねぇジレットさん?」


「フッ。さすがのエランもそこまでの勇気はないだろう。お金だよ。お金を要求したのさ」


「なんでだよ。そりゃ確かに欲しいけどさ」


「じゃあ何をお願いしたんですか?」


俺が転生した事や神器の事。

この2人に話してもいいが、ややこしくなるので噓をつかない程度に昨日の話をした。


「風の噂でアーシャの実家にその魔道具があるらしくてな」


「なるほど。確かに無属性のエラン君にはその魔道具は有用ですね」


「だね。エランにとってはお金より価値がある物かもしれないね」


「だけどそれを要求するには問題があるんだ」


「問題?」


「あぁ。身体が石化していく病気って聞いたことあるか?」


「ないですね」


「ないね」


「だよな」


「「「・・・・・・」」」



「そう言えばバリス。君のテルマー領は温泉で有名な村がなかったかい?」


「よくご存じですね。春季休みにポンラちゃんを招待しようと思ってます。温泉まんじゅうポンラちゃん喜ぶだろうなー。その後はしっぽり・・・グヘヘへ」


この学園は春、夏、秋、冬と季節の代わり目に1カ月ぐらいの休みがある。

生徒がほぼ貴族なので各種パーティーや、家の用事を済ますために長いらしい。

もうすぐ春季休み。温泉かぁ。いいなぁ。この世界に来てからシャワーしかなかったからなぁ。てか温泉まんじゅうとかあるのか。中身は小豆か?美味そうだな。


「そうじゃない。その温泉の効能だよ。何か病気効くとかそういうのはないのかい?」


「あー。どうですかねー?冒険者や傭兵が怪我した時に湯治しに来るとかはありますけど」


ちょっと期待して聞いていたが、こんなので治ったらもう治ってるよな。


「あっ!でも山の頂上にある源泉で育てた薬草は万病に効くって言い伝えがありますね」


「へぇ。でもその薬草が流通してないって事は言い伝えは眉唾って事か?」


「それもありますが、その山はある場所を境に急に瘴気が濃くなって魔獣が強くなるんで危険なんですよ。冒険者も滅多に近寄りません。それに行けたとしても源泉で薬草を育てるなんて現実的じゃありませんからね」


「確かに」


バンッ!


「その話本当なの!?」


急に扉が開いてビックリした3人は大声へ視線を送る。アーシャだ。

いつからいたんだ?

アーシャはもの凄い剣幕でバリスに近寄ると胸ぐらをつかんだ。


「その話は本当なのか!?って聞いてるのよ!このハゲ!!」


簡単に持ち上げられたハゲ。じゃなかったバリスはグワングワンされながら嬉しそう。なんでだよ。


「た、試した事はないので分かりませんが言い伝えは本当です」


「そう・・・アルハート。春季休みの予定は?」


「ん?特にないけど?」


実家には帰りたくないしな。


「なら行くわよ!ハゲのテルマー領に!」


「は!?まさかお前あの話を信じてるのか?たぶん嘘だぞ?」


「嘘でも何でも少しでも可能性があるならいいの!」


「そりゃそうかもしれないけど・・・何で俺まで?」


「お姉様の病気が治らないと貴方の望みも叶わないでしょ?」


「まぁそうだけどさ」


「危険な所に私1人で行かせるつもり?それに貴方が来るって言ったら眠り姫も来ると思うわ」


「いや。そんな事はないと思うけどな」


「ん。温泉まんじゅう食べたい」


気づくとクトラが扉の前にいた。


お前もいつの間に!?


「決まりね!」


えー!?

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