第12話:クリーンヒット

--王立学園 医務室 夕方


「イテテッ」


「ヒドイ火傷ですね」


試合後。俺はソフィア先生に火傷の塗り薬を背中に塗ってもらっていた。

火傷は重いが心は軽い。俺は勝ったのだ。


「ん。クトラがやる」


「あらクトラさん。じゃあお願いしますね」


え?ソフィア先生が良かったのに。


「つっ!いってぇ!」


「ん。我慢しろ」


「それ我慢する必要ある?」


「ん。しっかり塗らないとおんぶ出来ない」


「いやするから!多少痛くてもおんぶするから!優しくして!」


「ん。約束」


おんぶメインかよ。

多少は労ってくれてるのかと思ったがこいつはホントに。


「それにしても無茶し過ぎですよエラン君」


「すいません」


「試合前に「俺が倒れるまで決闘を止めないでください」なんて」


「でも倒れなかったでしょ?」


「そうですがこんなに大怪我するまで・・・よっぽどクトラさんをおんぶしたいんですね」


「え?いや」


「ん。三男でかした」


いや。そうじゃないんだけどな。


「じゃあ次のテストの準備しないといけないのでクトラさんお願いしますね」


「ん。任された」


そう言ってソフィア先生は出て行った。俺のオアシスが。


そんなやり取りをしていると医務室のドアが開いた。

アーシャだ。ものすごい剣幕で近寄ってくる。


「アルハート!さっきのはどうやったの!?」


「主語がないんだよお前は。そしてなんでそんなに偉そうなんだよ」


「私の最大の攻撃魔法をどうやって防いだかって聞いてるの!」


俺の言葉は完全に無視かよ。眩しくて見えなかったみたいだな。


「それは教えられないな」


「なんですって!?」


教えてくれるのが当然のように思ってるなこいつは。


「企業秘密だ」


「なんなのよそれ!」


「てかわざわざ俺の所に来なくても、試合を見てた友達にでも聞いたら良いだろ?たぶんそれで分かる」


「いないわ」


「は?」


「友達なんていないって言ってるの!」


こいつもボッチ族だったか。

まぁこんな自分勝手で傲慢な奴はボッチになっても仕方ないか。

人の事は言えないが。


「三男。変なうろこ着てた」


「あっ!ちょ!」


クトラ・・・からかおうと思ったのに台無しじゃないか。


「うろこ?」


「・・・そうだ。鱗。リザードマンのね」


「リザードマンの鱗?・・・貴方そんなの着てなかったじゃない」


「あぁ。最初はな」


「最初は?・・・途中からむしろ裸だったわよね?」


「まだ分からないのか?お前が魔法を放つ瞬間に着たんだよ」


「そんなの何処に隠し持って・・・・・・まさか。大盾の後ろ?」


「正解。後は大体分かるだろ?」


「だから大盾を使わずに地面に突き立てたのね。ファイアアローの衝撃を和らげる為だと思わせて」


「その通り。剣で打ち合う時、大盾の裏を見られないように前に出たのもその為だ」



俺のアーシャ対策はこうだ。

1.クトラに稽古をしてもらう(防御に徹する) 頑張った。

2.神器の部分的な発光(自分が眩しくないようにする)光線が出るみたいに出来るようになった。

3.事前にアーシャの戦いを見ていた俺は炎対策としてクトラの父 大商人ゴーウェルに火耐性を持つ大盾を発注した。火耐性といっても魔道具ではない。ファイヤアローを何発か耐えてくれればそれでよかった。数発防ぐだけで決して安くはないが、これがないと作戦が成り立たないのでしょうがない。

次に火耐性があるリザードマンの鱗も頼んでおいた。これを全身を覆うローブに縫い付けて大盾の裏に隠せば準備は完了だ。後は悟られないように防御に徹し、挑発してアーシャに大技を打たせたら俺のターンって訳だ。まさか俺が突っ込んでくるとは思うまい。

大盾めっちゃ重かったし、プリンの売り上げ全部使ったし、何ともコスパの悪い決闘だった。

剣戟の時に剣を光らせれば良かったんじゃないか?だって?

確かに!!でも部分的に剣を光らせるの結構難しいから集中しないといけないんだよな。



「お前のファイヤストームは範囲は広いが持続が短い。それも勝因のひとつだな」


「・・・卑怯だわ!そんなの隠し持ってるなんて!」


言うと思った。


「卑怯?何処が?防具を盾に隠してはいけないなどというルールはない。俺はルールに乗っ取ってやったつもりだ。真剣勝負の決闘で、格下相手だと油断してそれに気づけなかったのはお前のミスだ。そうだな・・・例えばこれが対人じゃなく魔獣相手だったとしても卑怯だと武家の娘は罵るのか?」


「クッ!」


顔を真っ赤にして言葉を失ったアーシャ。

でもこいつにはお灸を据えてやらないとな。


「あの光ったのは・・・何でもないわ」


言葉を詰まらせたアーシャ。ちょっと言い過ぎたか?


「まぁ次やったら俺が負ける自信がある。そんなに落ち込む事はない」


「当然よ!」


アーシャは腕を組んでドヤ顔だ。

どうやったらこんなに偉そうに出来るんだろうか?


「さて種明かしはそれぐらいにして。俺が勝ったんだから1つ言う事を聞いて貰おうか?」


「あっ!」


忘れてましたみたいな顔をしたアーシャ。

いや。忘れるなよマジで。


「どおしよっかなー?」


アーシャの身体を下から上まで撫でまわすように視姦してみた。


「ちょっと。本気なの?」


恥ずかしそうに胸に手を当てるアーシャ。

うん。良い身体してるな。


ベシッ!


「いて!」


「ダメ。えっちなのは」


クトラに頭を叩かれた。


「そ、そうよ!いくら何でも私の初めてはあげられないわ」


身体でも何でも好きにしろって言ってたのに。


「初めてじゃなければいいと?」


面白いから、からかってやるか。


「そ、そういう問題じゃないわ!私は一応ブリジット家の跡取りなの!そんな事出来る訳ないでしょ!」


「婿を貰った後ならいいと?」


バシッ!


「いってぇ!」


今度は火傷の所にクリーンヒットした。


「ん。最低」


「いやいや冗談ですやん。冗談」


「ん。その口調キモイ」


またキモイって言われた。何気にショック!


「ウォッホン!・・・冗談はさておき俺の頼みだが」


「な、なによ?」


「お前の実家の宝物庫でこのマークを見た事がないか?」


俺は神器の柄の底にあるチビロリ女神ネヴァイアのマークをアーシャに見せた。大層な女神様って感じのマークで初めて見た時イラっとしたのを思い出す。


「見た事ないわ。それに宝物庫なんて・・・」


「宝物庫がないのか?」


「・・・もしかして"友好の蔵"の事かしら?」


なんだそれ。


「呼び名は違うかもしれないがお宝がある場所にこのマークが入った靴があるハズだ。それをくれ」


「何で貴方がそんな事を・・・ううん。どっちにしても私が何とか出来る場所じゃないわ」


「どういう事だ?」


さすがに次女の頼みでも無理ってことか?

でも決闘に負けた訳だし、これを断るとブリジット家の名に傷がつく。


「えっと・・・何から話せばいいのかしら?ブリジット家が女の子しか生まれなかった事は知ってるわよね?」


「ん?あぁ」


知らんけど。


アーシャの話を端的にまとめればこうだ。

"友好の蔵"というのはブリジット家が治めている土地の中にある森に棲んでいるエルフと共に作った宝物庫らしい。ここはお互いに大事な物を保管して共にブリジット領を守ろうといった趣旨で建てられた。しかしこの宝物庫を開けられるのはお互いの友好の証=イグーナ・ブリジット(アーシャの姉)だけらしい。

イグーナ・ブリジットは父が人間。母がエルフ。=ハーフエルフ。つまり友好の証という訳だ。イグーナは特殊な紋章を刻まれて"友好の蔵"を開く事が出来るエルフの儀式をされたようだ。


「エルフの叡智ってやつか。すごいなそれ。でもそれならお前でも開けるんじゃないのか?」


「出来ないの。私は妾の人間の子だから」


「三男。デリカシー」


「あ。いや。ごめん。そんなつもりはなかったんだが」


確かにハーフエルフには見えない。見た事ないけど。


「いいのよ。慣れてるわ。という事でその靴は無理よ」


「ん?お姉様に頼めば開けるんだろ?」


「・・・お姉様は寝たきりなの」


え?そう言えばさっき一応跡取りとか言ってたな。


「病気か?」


「お姉様は身体が徐々に石化していく奇病なの。今も病に伏せているわ」


石化していく奇病?そんなの聞いた事ないな。

でもそんな病気ならもう跡取りは厳しいという事か。


「治らないのか?」


「それが出来れば私が跡取りなんて言う訳がないでしょ!」


アーシャは涙目で激昂した。

恐らくブリジット家と彼女も必死で治す方法を探したんだろう。でも見つからなかった。それならせめて姉の為に必死で跡取りにふさわしい自分であろうと努力した。

風紀委員の仕事もあそこまで躍起になる理由も今分かった気がした。


「三男。デリカシー」


「そうだな。今のも俺が悪かった」


でも困ったぞこれ。どうしよう?"友好の蔵"をぶっ壊す訳にもいかんしな。

チビロリ女神。治す方法教えてくれんかな?

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