第11話:モブの戦い

★アーシャ視点★


私の名前はアーシャ・ブリジット。辺境伯家の次女としてこの世に生を受けた。

ジルベット家は瘴気の多い北の山から魔獣の進行を防ぐ為に擁立された武家。

そんな武家に生まれた私は幼い頃から戦いを叩きこまれた。

ハッキリ言って私に戦いの才能はない。何故そう思うかって?お姉様と比べて私は全然ダメだった。

例えば、お姉様が魔力を感じるようになったのは4歳の時。比べて私は7歳。

お姉様が初めてソロで魔獣を討伐した時は8歳。比べて私は11歳でやっと同じ魔獣を倒せるようになった。そんなダメな私だったけど、お姉様はとても優しくしてくれた。



△△△△


「ヒック。ヒック」


「どうしたの?アーシャ。そんなに泣いて。何かあったの?」


「お姉様。私聞いたの。アーシャお嬢様は何をやってもイグーナお嬢様に劣る。3年遅れの次女だって」


「そんなヒドイ事を誰が・・・アーシャ。よく聞いて。何をやっても私に劣る。そんな事はないわ。アーシャはダンスが上手でしょ?私は全然上手くないわ」


「そんなの。武家の娘には必要ないもの」


「武家の娘だとしても戦いが全てじゃないわ。ダンスも貴族には必要なものよ」


「でも・・・でも・・・」


「・・・貴方は貴方で良いの。もしまたアーシャを悲しませるような事を言ってくる人がいたらお姉様に言いなさい。私がとっちめてやるわ」


「本当?」


「当たり前じゃない・・・私はいつでも貴方の味方よ」


そう言ってお姉様は私を抱きしめてくれた。


「イグーナお姉様。大好き」


△△△△



大好きなお姉様。お姉様は貴方は貴方で良いと言ってくれたけど、私はイグーナ・ブリジットの妹として恥ずかしくないように今日まで血の滲む思いで努力をしてきた・・・でも眠り姫に負けてしまった。

このままだとお姉様が務めていた風紀委員の名に私が傷をつける事になってしまう。

でも大丈夫。今回の相手は昇格試験に合格したとはいえ、眠り姫にくっついてるだけのしょうもない男。


私が負ける訳ないわ。


----


「決闘試合のルールは場外に出る、もしくは私の判断で試合を終了します。当然の事ですが相手を殺めてはなりません。2人共いいですね?」


「「はい!」」


「では試合開始!」


エラン・アルハート。剣の実力は可もなく不可もなく。属性は無属性。言ってみればタダのモブ。

今日は大きな盾を持っているわね。アイツにそんな情報あったかしら?


「まずは両者睨み合い!どっちが先に仕掛けるんだー!?」


あのハゲうるさいわね。実況やめさせれば良かったわ。


「どうしたの?かかってこないの?」


「まずは様子見だ。お前こそお得意な魔法を打って来ないのか?」


まさかあの盾。火耐性の?

まぁいいわ。その挑発に乗ってやろうじゃない。


「闘志の灯よ。敵を穿て。ファイヤアロー!」


「おーっと!アーシャ選手の先制ー!火の矢はエラン選手に向かっていくー!」


ドンッ!


「直撃だー!煙が上がって・・・・・・無傷だー。エラン選手。微動だにしていないー!」


「僕の見立てではあの盾は火耐性の盾みたいだね」


やっぱりそういう事ね。なぜ貧乏貴族がそんなのを持ってるのか知らないけど、そんな盾だけで私に勝とうと思わない事ね!


「どうした?その程度かお前の魔法は?」


「上等!!」


ドンッ!


「ここでアーシャ選手!ファイアアローの連続詠唱!もの凄い炎の矢がエラン選手を襲うー!」


ドンッ!ドンッ!ドドンッ!


「ハァ。ハァ。これならどう?」


噴煙が消える中。焦げならもアイツは立っていた。

盾を地面に突き立てて衝撃を和らげた?考えたわね。


「エラン選手は無事だー!」


ワー!ワー!と歓声が響く。


「無事だがこれはマズイね。盾は少し溶けているし彼もノーダメージって訳じゃない」


「ん。制服燃えた」


「ここでエラン選手。制服を脱ぎ捨てた!燃え写るのを危惧してでしょうかー?」


「通常なら逮捕案件だがこれを利用して裸になるとは。彼は露出癖があるのかもしれないね」


「おいっ!人を変態みたいに扱うな!燃えたんだからしょうがないだろ!それにズボンは履いとるわ!」


「アルハート。実況席とじゃれ合うなんて随分余裕ね?」


「お前こそどうした?今がチャンスだったろ?」


こいつ・・・もしかして魔力切れが狙い?

その手には乗らないわ。


「おっと!アーシャ選手!エラン選手に接近戦を仕掛けたー!」


ガキィン!ガキィン!ガキィン!


「もうあの盾は使わないの?」


ガキィン!


「あんなデカい盾を持ったままお前と打ち合う自信はないからな」


ガキィン!


「フンッ!それでも貴方に剣術で負けるつもりはないわ!」


ガキィン!ガキィン!ガキィン!


「激しい剣戟戦!しかしエラン選手は防戦一方!これは負けるのも時間の問題かー!?」


ガキィン!ガキィン!ガキィン!ガキィン!


クッ!どういう事?防御に徹しているとはいえ私が押し切れない。放課後に眠り姫と特訓していたというのは本当みたいね。ハッ!そうか!防御に徹して私の体力を奪おうって訳ね?そうはさせない。


「おっと?アーシャ選手ここで引いたー!」


「どうした?もう終わりか?」


「ハァハァ。貴方の狙いが分かったわ。でもこれで終わりよ!神より賜りし爆炎の咆哮」


「アーシャ選手後退しながら高速詠唱ー!これはエラン選手間に合わないかー!?」


「彼は追撃するより大盾に身を隠したね。懸命だ」


そんなボロボロの盾で私の最大の攻撃魔法が防げるもんですか!


「顕現せよ!ファイヤストーム!」


炎の渦で黒焦げになりなさい。


「出たー!ファイヤストーム!エラン選手絶対絶命ー!!」



タッタッタッタ!



なに?走る音!?


私は炎の中から寄ってくるその足音に目を凝らした。


キラッ!


突然強烈な光が目を覆った!


眩しい!


瞬間的に目を瞑った途端、私の足は何かの衝撃を受けた。


「きゃあ!」


尻もちをついて目を開けた。

眩しくてよく見えないけど、剣の切っ先を私に突き付けているアイツがいた。


「そこまで!勝者!エラン君!!」


ワー!ワー!

キャー!キャー!


私が負けた?

何?何が起こったの?

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