第7話:デカパイ

「クトラ。次の授業は移動教室だぞ」


俺は授業の時間中ずっと眠っていたクトラを起こす。


「んー。三男。おんぶ」


「お前絶対歩けるだろ」


「ん。無理」


「しょうがないな」


最近当たり前のように移動教室があるたびにクトラをおんぶしている。

眠気は本人にしか分からないので何とも言えないが、クトラは俺に甘えているように思える。ゴーウェルの代わりに保護者になった気分だ。そんな日常を過ごしていた時だった。


「そこの貴方!待ちなさい!」


「ん?俺?」


振り向くとそこには赤髪ロングの目がキリっとした勝ち気な表情の美少女がいた。

背は俺より少し低く、均整の取れた体付きをしている。端的に言えばモテそうだ。


「そう!貴方よ!」


「これは初めましてレディ。私はエラン・アルハートと申します。女性をおぶりながら挨拶をするご無礼をお許し下さい」


我ながら完璧な挨拶。


「貴方どういうつもり!?」


「え?」


どういうつもりもないんだが。


「何でおんぶしてるのか?って聞いているの!」


「あーこれはですね。この子が眠気に襲われる体質でして」


「そんな事は知っているわ!おんぶをやめなさいって言ってるのよ!」


「え?」


何言ってるんだこいつ。

こいつも会話のキャッチボールが出来ないタイプかよ。


「おんぶしたらダメなんですか?」


「ダメに決まっているでしょう」


「なんでですか?」


「本当に分からないの?男女が公衆の面前で触れ合っているのよ。風紀委員として見逃せないわ。それにおんぶしてたら、む、胸が当たるでしょう?」


顔を真っ赤にしながら赤髪の少女は言った。ピュアか!恥ずかしいなら言わなければいいのに。てか風紀委員なんてこの学園にあったんだ?


「あー。大丈夫です。この子ペッタンコなんでそんな感触は」


全然ないです。と言おうとしたらベシっとクトラに頭を叩かれた。

起きてたのかよ。


「兎に角!やめなさい!」


「・・・でもそうしたらクトラが授業に出席出来ないじゃないですか?それに中庭でイチャイチャしてるカップルはたくさんいますよ?俺達の身分が低いからって注意してません?」


「失礼ね!そんな人がいたら注意してるわ。この学園の生徒である限り王族であろうが身分に関係なく平等よ」


「その割にはクラスが爵位で分かれてるじゃないですか?」


「クラスを親の爵位で分けているのも余計な軋轢を生まない為なのよ。そんな事も知らないの?」


そうなの?確かに色の違う制服着てる生徒が群れているのは見た事ないな。


「じゃあ貴方がクトラを運んでくれるんですか?風紀委員なら生徒の面倒をみるのも仕事ですよね?」


知らんけど。


「・・・いいわ。今度から私がその子を運んであげる」


いいのかよ!

てか俺はクトラと授業がほぼ一緒だから良いけどお前は違うだろ。

何も考えてないな。


「やだ!三男が良い」


「俺の背中が良いそうです」


「クトラさん。よく聞いて。私は風紀委員として注意してるの。貴方たちの仲を引き裂こうって思ってる訳じゃないわ。分かる?」


「ん。分からない。邪魔しないで」


「・・・だそうです」


「邪魔とかじゃなくて、私は風紀委員として見逃す訳にはいかないの。このままだったら先生に報告しなければならなくなるの」


「ん。勝手にすれば?デカパイ」


「デカパイ・・・だそうです」


ちょっと笑いそうになってしまった。

さすがクトラ皇帝。怖い者なしだな。


「デカパイですって!?あ~~もう頭に来たわ!こうなったら決闘よ!」


「は?」


なんでそうなるんだよ。先生に報告すればええやん。

煽ったクトラも悪いけどさ。


「私が勝ったら私が運ぶ。貴方が勝ったら、えっと・・・その男が運ぶ。いいわね!?」


「ん。受けて立つ」


名前覚えてねーなこいつ。


こうしてクトラと猪突猛進女のクトラをおんぶする権利を掛けての決闘が決まった。


なんだこれ。


■■■■


--決闘当日 学園闘技場 夕方


学園の闘技場は何処から聞いたのか、たくさんの生徒で賑わっていた。

多くの歓声が聞こえる中、何故か俺は実況席に座らされている。


「ついにこの日がやってきました!皆さん注目の一戦!実況はわたくし。ポンラちゃんの恋人。バリス・テルマー!解説は金持ち残念イケメン。ジレッド・オセアン!ゲストにド平凡な男。エラン・アルハート!でお送りいたします!」


バリスは楽しそうに拡声器みたいな物を持ちながらイキイキと司会をしている。

それどういう仕組み?魔道具?


「ジレッドさん!今回の決闘の内容はどのようなものでしょうか!?」


「今日は1人のド平凡な男を掛けて美少女同士が戦う何ともジェラシーを感じずにはいられない一戦となっているよ」


全然違う。紆余曲折し過ぎだろ。


「男なら誰もが羨む決闘という事ですね。今日からエラン・アルハートは全男子生徒の恨みを買うことになるでしょう!ざまぁみろ!」


「なんでだよ。俺にもその拡声器をよこせ!」


「それでは対戦者の紹介をお願いします!」


「白髪の小柄な彼女の名前はクトラ。通称眠り姫。平民だが大商人の娘だ。昇格試験に合格した2組の内の1組。実力は折り紙つきだ。しかし彼女が戦っている所を見た者はほとんどいない。今日で本当の事が分かるだろう」


「なるほど。それは楽しみですね!」


「対する赤髪の彼女の名前はアーシャ・ブリジット。ブリジット辺境伯の次女で学園では風紀委員を務めている。彼女はBクラス女子の模擬訓練で1位を取っている実力者だ」


「両者共に実力者という事ですね!では早速試合開始してもらいましょう!ソフィア先生!お願いします!」


審判はソフィア先生。

生徒が怪我をしてはいけないと名乗り出てくれたらしい。


「決闘試合のルールは場外に出る、もしくは私の判断で試合を終了します。当然の事ですが相手を殺めてはなりません。2人共いいですね?」


「はい!」


「ん!」


「では試合開始!」

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