第5話:子ウサギちゃん
--2日後 昼
・・・・・・
・・・・・・
ふと意識を取り戻した俺は目を開けた。
全身が鉛のように重い。
「ここは?イテテ」
辺りを見渡すと、学園の医務室のようだ。
「良かった。目が覚めたのですねエラン君。もう2日も寝ていたんですよ」
声の方を見るとソフィア先生が心配そうな顔をしてこっちを見ている。
「2日も・・・あ!クトラは無事ですか?」
「はい。彼女も1日は寝たきりでしたが無事です」
「そうですか。良かった」
「フフ。クトラさんも目を覚ましたら真っ先にエラン君の事を心配していましたよ。さっきまでずっと看病してたんです」
「クトラが?」
「ええ。さすがにお腹が空いたのかお菓子を食べに行ってますが、すぐに戻ってくると思います」
「そうですか」
あのクトラが?少しは心を開いてくれたんだろうか?
そんな事を考えていると医務室の扉がガチャっと開いた。
バリスとジレッドだ。
「あれ?もう大丈夫なんですか?試験に合格したエラン君」
「何でちょっと残念そうなんだよ。お前はどうだったんだ?」
「自分はポンラちゃんが試験の途中で転んだので棄権しました」
「は?」
「だから転んで擦りむいたので棄権したんですよ。ポンラちゃんドジっ子な所あるから。まぁそこも可愛いんですけどね」
擦りむいたから棄権だと?誰かこのバカップルを退学にして下さい。
「それにしてもよくあの怪我でもう起き上がれますね?骨が何本も折れていたと聞いていたんですが」
「治りが速いのは当然さ。可憐なソフィア先生がエランの為に薬を作っていたからね」
「塗り薬が効いて良かったです。ポーションには遠く及びませんが」
飲めば途端に傷が治ると言われる異世界お馴染みのポーション。
この国では製法が失われた技術とされており、その名前が史書に載っているぐらいだ。それゆえに回復魔法が使える水属性持ちはこの国で優遇される。しかし使い手の数が少ない為か回復魔法は利権が絡んでいる上に、治療費が高いので貧乏貴族及び平民は簡単に利用できない。その事を思ってかソフィア先生は庶民でも傷の治療が出来るようにと薬学の研究をしているらしい。その話を聞いた俺は感銘を受けて薬学を専攻した。決して美人の先生だから薬学を専攻した訳ではない。ホントだよ?
「ポーションより俺には先生の薬が一番効きます」
もぅ。そんな事言っても何もでませんよ。と俺の頭をソフィア先生が小突いた。
トゥンク
「あー!ずるいです!」
「先生!僕にも!僕にもその美しい指先でツンツンして下さい!」
「何言ってんだ。お前ら」
というかバリス。お前B専じゃ?
「あ、あまり大人をからかってはいけません!」
そう言うとソフィア先生は恥ずかしそうに部屋を出て行った。
「ピュアですねー。まぁそこも可愛いんですけど」
「彼女はまだ異性を知らない純白の子ウサギちゃんという事さ」
お前も知らないだろ。
「でもこれで自分たちの短かった相部屋生活も終わりですね」
「そっか。俺はBクラスになるから1人部屋になるのか」
「寂しいのかい?バリス」
「違いますよ。これで部屋が広くなって嬉しいなって思ったんです」
「そんな事言って本当は寂しいんだろう?僕は寂しいよ。でも会えなくな訳じゃない。BクラスはCクラスと校舎は違うが隔離されている訳じゃない。僕達の友情は何も変わらないさ」
ジレッドはたまに小っ恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言う。いや。いつもか。
「だな。いつでも俺の部屋に遊びに来い」
「行きませんよ!寂しくなんてないんですからね!」
デレた。誰得だよ。
そんなやり取りをしていると医務室の扉が開いた。
クトラだ。
「おっと。お邪魔虫は退散するとしよう。僕は人の恋路を邪魔する趣味はないからね」
「は?」
「ですね。ではエラン君。また」
「え?おい」
バリスとジレッドはそそくさと医務室を出て行った。
そんなんじゃないんだけどな。
クトラは俺達のやり取りを気にする事もなく無表情のままベッドの横まで来た。
「・・・・・・」
いや。喋らんのかい。
「クトラ。ソフィア先生から聞いたぞ。俺の事を看病してくれてたんだってな?ありがとな」
あのクトラが俺の事を看病してくれるなんて思ってもみなかったが素直に嬉しい。
「・・・・・」
何も喋らない。表情も変わらないが・・・もしかして照れてる?
「お前の方は大丈夫か?何処か痛い所があるならソフィア先生に・・・」
ん?何か書いてる?
(プリン作って)
「・・・・・・」
ですよね。
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