第3話:双剣の少女

なんだ?何が起こった?

コボルトの頭が地面に落ちて灰になっていく。

その奥にはクトラが立っていた。

ソフィア先生を見るとポカンと口を開けている。


「す、凄いです!クトラさん!」


ソフィア先生は驚いた様子でクトラに駆け寄った。

今のはクトラがやったのか?何も見えなかったぞ?


「ん。次」


いつの間にか抜いていた小さな双剣を持ちながらクトラはスタスタ奥へ歩いて行った。


「あ。ちょっと待てよ」


俺は慌ててクトラの後を追う。



奥へ進むとコボルトが2匹遠目に視えた。


バチッ!と先ほど聞こえた音がすると同時にクトラの身体は引っ張られるようにコボルトへ。コボルトの頭が飛んだ瞬間クトラが一瞬止まったかと思うともう一匹の後ろへ瞬時に移動。僅かの間に2匹のコボルトは灰になった。


「クトラさん!凄い速さですねー!」


ソフィア先生は手を叩きながら歓喜している。

凄い速さなんてもんじゃない。俺には瞬間移動しているようにしか見えない。

なんだこれは?どんな魔法なんだ?


「ん。次」


「ちょっと待って下さいクトラさん」


「ん」


「この試験では連携も試されるので、次はエラン君の出番も作ってあげて下さい」


「ん」


何者なんだ?この眠り姫。

こんなに強いなら何故今まで誰も知らなかった?

そんな疑問を抱えながら更に奥に進むと今度はコボルトが3匹現れた。


バチッ!っと音がすると瞬く間にコボルトが2匹共灰になった。


「三男。やれ」


「お、おうよ」


残った1匹を倒すようにクトラに促された。

連携もクソもあったもんじゃないがしょうがない。俺もコボルト程度に負ける気はない。


「ギギー!」


コボルトは叫びながら俺に突っ込んできた。

大振りのコボルトの短剣は空を切り、その隙をついた俺は袈裟切りをお見舞いしてやった。


「ギャー!」


倒れたコボルトは断末魔と共に灰になっていった。

クトラに倒されたコボルトは声を発する暇も無く倒れたって事だ。


「やりますね!エラン君!」


「ありがとうございます」


ソフィア先生はパチパチと拍手してくれたが、クトラの後だとちょっと虚しい。



それから幾度となくコボルトに襲われたがクトラがほぼ瞬殺。問題なく奥へと進んだ。



しばらく進むと開けた場所に出た。その中央に大型のモンスターが鎮座している。


「トロルだ」


体調は約3ⅿ。灰色の肌に薄い体毛が生えているのが特徴だ。

動きは遅いが力は強く、持っているこん棒で叩き潰されたら一溜まりもないだろう。


「ブオォォー!」


トロルが立ち上がりながら咆哮を上げる。

転生して初めて見たデカいモンスター。正直怖い。

咆哮に負けじと剣を構えると、バチッ!と音がした瞬間クトラはトロルの足の後方に現れた。

シュッ!っと剣をアキレス腱に切りつけるとトロルは片膝をつく。


「ブォ!?」


クトラの身体はそのまま引っ張られるようにトロルの頭の上に浮かんだ。

そのまま身体を回転させながら双剣でトロルの首をズサズサズサ!と何度も何度も切りつけた。


ドスッ!とトロルの頭が地面に落ちる。

体感10秒ぐらいの出来事だ。


「キャー!クトラさーん!」


ソフィア先生は飛び跳ねながらクトラに駆け寄る。

もはやアイドルを追っかけているファンのようだ。


「・・・強すぎだろ」


と思わず口にしてしまうほどクトラは強かった。

ふとトロルの切り落とされた首を見た・・・焦げている?


「あれ!?どうしたんですか?クトラさん!」


驚いた様子の声の方を見るとクトラが先生に寄りかかっていた。


「眠い」


そう言ってクトラは目を閉じた。


「え?もしかして寝ました?」


「みたいですね」


「先生。この試験は寝てはいけないというルールはなかったですよね?」


「そ、そうですね。試験中に寝る生徒なんていなかったでしょうし」


ですよね。


「でも制限時間はあるのでいつまでもって訳にもいきません」


そりゃそうだよな。


「しばらくしたらクトラさんが起きるかもしれないので、おぶってあげて下さい」


「はい」


「幸いにもトロルを倒した後はボス部屋までモンスターは出て来ないので」


ホッと息をなでおろすと俺はクトラをおんぶした。

彼女の身体は軽い。引き締まってはいるが筋肉質ではない。触れた感じ普通の女の子だ。こんな身体であの戦闘力。平民なのに魔力持ち。一体どうなってるんだ?



ボス部屋の前までクトラをおぶりながらソフィア先生とクトラについて話をした。

話の内容はこうだ。


今まで学園でクトラが戦っているのを誰も見た事がないこと。

甘い物。つまり糖分を魔力に変換しているのではないか?という仮説。

しかし、一般的に魔力を全て失うと人は眠るのではなく気を失うということ。

クトラの場合は気を失うというか寝ている。ここに矛盾が生じる。


「うーん。分かりませんね。今までこんな体質の子は聞いた事がありません」


ソフィア先生は不思議そうに顔を傾けた。


「ですよね。こればかりはクトラ本人に聞かないと分かりそうもないですね」


「そうですね」



「そう言えば先生。この試験に合格した生徒は他にいるんですか?」


「ええ。1組だけ。ランチア家の双子の生徒です」


ランチア家というと槍術で名高い武家だ。当主は槍聖と呼ばれ人々の羨望を集めていた。数年前まで公爵だったが、準男爵まで降爵された家だ。原因は知らない。


「やっぱり強かったですか?」


「クトラさんとまではいきませんが、2人の連携には驚かされました」


やっぱりクトラの強さは規格外って事だよな?ちょっと安心した。


「それに気迫が凄かったです。必ず家の再興をするんだと」


なるほど。準男爵に落ちぶれたまま終わらないぞという事か。

試験に合格したからと言って、再興出来るとは思わないけど。


「名家は大変ですね」


「ええ。でも私個人としては家の再興というより、領民の為を思って学園に通って欲しいですね。この学園の主な目的は教養のある立派な人になって、領民に愛される貴族になる事が目的ですから」


そう言えば入学式の時に学園長がそんな事言ってたな。

そりゃそうだよな。この学園もほとんどの生徒が領民の税で通ってるわけだもんな。

俺は少し違うけど。



「それにしても起きませんね」


正直このままクトラが起きなければ試験は不合格になってしまう。

しかし、ここまで来れたのは間違いなくクトラのお陰だ。バリスと参加したとしてもコボルトはまだしもトロルを倒せるイメージが湧かない。俺にクトラを責める事は出来ない。


「あっ。そうだ!エラン君。この前の授業の薬持ってないですか?」


この前の授業・・・そう言えば前の薬学の授業で気付け薬を作ったな。


「気付け薬ですよね?あります」


「ちょっと飲ませてみましょうか」


俺はカバンから気付け薬を取り出してクトラに近づけた。

口を閉じているため彼女の口を手で開いて流し込む。

んっと小さな声を上げた。なんかエロい。


「・・・にがい」


「起きたか?まだ試験中だぞ?」


「ん。ごめん」


クトラは立ち上がりフラフラとボス部屋の扉へ向かう。


「おい。大丈夫なのか?」


「ん。平気」


本当かよ?と思いつつもソフィア先生が頷いたので俺はクトラを止める事なく扉の中へ入った。

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