第120話
雅臣はりんなを軽く抱きしめてから、身体を離した。
「ごめんね、抱きついてしまって。思わず抱き締めてしまった。こんな事しちゃいけないのに。取り締まる方なのに……ごめんなさい」
寂しかったのだろうと思った。雅臣に変な下心は感じなかったので子供に抱きつかれたような感じだった。でも雅臣に抱き締められた事実には混乱していた。
「き、気にしないでください。私みたいな身分の低いものが雅臣さまの役に立てたのたら良かったです。ただ、ちょっとびっくりしちゃって」
雅臣は立ち上がってごめんねと呟いて去っていった。あのひとも想い人に愛されなかったんだ。子供としては愛されただろう。でもひとりの男性としては愛されなかった。悲しいなとりんなは思った。
雅臣はいい香りがした。それが凄く心に残った。
りんなはそこで風にあたり、少し落ち着いてから飲み物を飲み干して立ち上がって帰ろうとした。でも地上に戻りにくい。神の国の自分の部屋の近くでうろうろしていた。部屋に入って泊まるか、地上に帰るか。
みことが帰ってくる所だったので、会ってしまった。
「りんな、どうしたんだ?泣いたみたいで……オレやっぱり考えたんだけど軽率だったよな。ごめんな」
押し倒してしまったことをまだ悔やんでいたのだ。りんなは思わずみことに抱きついて泣いた。
「みことの事じゃないの。多槻さまと喧嘩してこっちに来たの。分かってるけど多槻さまが私の事何とも思ってないの辛い」
みことはりんなを抱き締めてそんな事ないからと言った。
「多槻は多槻なりにりんなの事大切だよ。ただどうしたらいいのか分からないんだと思う。大切じゃなかったらりんな生まれ変わって無かったぞ」
子供をあやす様にみことはりんなを撫でた。りんなも親として愛してくれてるとは分かってる。でも女性として愛されたかった。
「うん……ごめんなさい。ありがとう。ただ、多槻さまと喧嘩して……帰りにくい」
「じゃあまりあが授業する練習するとして、先生を少しやってもらおう。少なくともまりあの知識はふんだんにあるし、教えるのも上手かったし」
まりあがクラスメイトに勉強教えてるのも見たことあるらしい。どうやって見てたのか?と悩みながらりんなはほっとしていた。少なくとも多槻に顔を合わせるのは今は辛かったから。
「息抜きしたら?そのかわり」
「そのかわり?」
りんなはゴクリと唾液を飲み込んだ。何……?
「オレに紅茶いれてくれ。そして愚痴聞いて欲しい。もうクタクタなんだよー。りんなー」
みことが珍しく甘えてくるので、りんなはくすりと笑ってしまった。悩んでたけれどみことのいつもの様子を見て落ち着いた。
「お茶ぐらいいつでもいれるよ。お茶の葉こっちに持ってきてるでしょ?」
「持ってきてる。でもさ、りんながいれてくれたほうがおいしい。飲みたい飲みたい」
神の国で精神的にも疲れきってるみことにとって心を許せるりんなが居ることだけでほっとする。そしてお茶をいれてくれる。りんなはみことの部屋でお茶をいれた。部屋を見渡しても何も無い。家具はあるけど生活してる感じがしないのだ。
「本当に寝るだけに帰ってるだけだからな。洗濯もすぐおわるし。ご飯食べる気にもならないから、本当に寝るだけ」
りんなは眠くなったみことに部屋まで送られておやすみといわれた。流石にまたりんなが居る中で寝る訳にはいかないから。
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