第109話
「あなたは……過去にこの国に来た方ですね」
「凄いですね。そうです。聞きたいことがありまして再び来ました」
多槻はまりあの生まれた国の術を解き、足を踏み込んだ。この国の人間は行き来が簡単だが外部からやってきた者は簡単には入れない。昔神の供え物を助けるために術を使ったが、それより大きな術を使わないと入れなくなっていた。
「お久しぶりです。私が貴方に会うのはこれで2度目です」
迎えに来たひとは笑って多槻にそういった。多槻は戸惑った。この世界は時間の流れも違うのか?と。
「この国は神が逃げた国です。そしてその神と共に生きることを望んだ人間の国でもあります」
もう会うことはないと思っていました。私は神の息子ですが、母親は人間でした。母親はあっという間に歳を取り亡くなったと。だが父親が神だったので、長生きしていた。神の国の神とは相容れないので地上に逃げた力の強い人間と共に何人かの神が住んだ。そしてその神達は神を否定したのだ。
「なるほど。己が神だから神を否定したのですね」
「はい。ただ我が国の長が会いたいと」
多槻は少し安心した。いくら神の1人とはいえ、力はそこまでつけてない。だからこの国で神だからと囲まれたら帰られないと思ったからだ。
昔は何も怖くなかったからこの国に入れた。今は、ゆねみが生まれ変わったから。希望があるから。生きていたい。
「どうぞ」
部屋に通された。何も無い部屋だった。ただ長は少し遠くに座っている。多槻も座布団の置かれてるところに正座して座った。
「お会いしてくださってありがとうございます。僕は」
「前にいらっしゃったたつねでしょ?覚えてるわ。最近だったような気もするし大昔だった気もするわ」
ここの長は女性の様だった。神の中で女性も男性もないかと多槻は考えていた。
「ここは閉ざされた国。あなた達とは相容れない暮らしだから。でも、神に絶望した者はここに辿り着けるの。そう出来てるの。だから新しい人が来るのよ。出ていく人もいるけどね」
全て知っているんだ。多槻はゴクリと唾液を飲み込む。どう言えばいいのか。それだけを考えていた。
「私はね、弱い人間と暮らさない神に反旗を奮った。負けたからここに居るだけ。神であるから死なない。不老不死。神殺しの剣も罪を犯さないと力を奪えない。私は随分生きた。貴方は神として生きて……後悔してないの?」
そう言われて多槻は頭を下げて言った。
「僕は望んで神になりました。後悔してないと言えば嘘になりますが、神になった事は喜びです。会いたかった人に会えたから」
「その者が先に死んでも?」
「待てますから」
じっと長は多槻を見つめていた。どれだけの能力がある神なのかは分からない。ただ、勝てないと本能的に分かっていた。第一神とは違うが強力な力。それは願いが形になったものなのだろうか。
「この国から生まれた者が僕の住む国に居ます。その子は神になりたがっています。ただ魂の器が弱くて。だけど能力となろうとする思いは強いです。何とかしたいと思い、ここに来ました」
「魂の器を新しくするのは私達にも無理よ。それが簡単ならあなた達にも出来るものね?」
ずっと頭を下げていたが思い切って頭を上げて長をみつめて言った。
「本当の龍使いになれば龍とほぼ同化すると聞きました。彼女が本当の龍使いになれば……器の強化が出来るかと思いまして来ました」
長はゆっくりお茶を飲み、まりあの事ねと呟いた。
「あの子は龍使いとしても優秀だったわ。でもこの国を否定した。魔法に憧れて去っていった。龍使いになれば多分魂の器は龍と共用になる。だからね、この世界で龍使いになるのは神と同等なの。でもあの子は龍を大切にしていたから同化出来なかった。あの子の心が変わらない限り同化はできない」
まりあが拒否している?絶望じゃないか。多槻は少し力が抜けた。まりあが真龍帝位になるのは無理なのか。
「神の位が真龍帝位。その意味が分かればあの子も神になれるかもね。教えられるのはここまでだと思うの」
あの子の事よろしくと言って去っていった。多槻はありがとうございましたと言って国を去るしか出来なかった。
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