第104話

シチューを作りながら。りんなは悩みをみことに相談してもいいのか考えていた。みことは神の国で苦しんでいる。自分の悩みなんてちっぽけだから。煮込みながらうーん、どうしようと呟いていた。

「おはよ、何悩んでるんだ?」

「おはよう。よく眠れた?」

「ありがとう。家よりぐっすり寝れた」

みことは笑っていた。あんなに苦しそうだったのに家よりよく眠れたなんて。りんなは心を痛めた。

「んで、悩みは?オレでは悩み解決出来ない?」

「うーん、聞いてくれる?」

鍋は弱火で置いておくことにした。うんと弱火だから大丈夫だろう。

「私ね、神へ捧げる踊りを教えてるの。もうそろそろ本番でしょ?」

あーそうだな。思い出してみことは頷いた。

「むかしはりんなも踊ってたよな。あれだけ踊れるのはりんなだけだったよな」

「私が……踊ったら駄目なのかな?」

みことは驚いてりんなの顔をじっと見た。

「神への捧げる踊りを神自身であるりんなが?踊り子がいないのか?」

踊りは数年に1度踊りまくる。だから体力もものすごく必要だ。だから選ばれし者しか無理なのだ。そして祭りの最大のイベント。

「踊り子のね、1人が骨折しちゃったの。骨折っていっても手なんだけど、あれだけの踊りを踊るには無理だから……」

「今までそんな事があったらどうしていたんだ?」

「曲を短くして誤魔化してきたんだって。神への捧げる踊りといえど神が直接見に来る訳じゃないから……でも今回は」

みことが見に来る。そしてりんなも神だ。神が見に来るのに踊りそのものがないのは……。

「でも、りんなが踊るなんて」

「踊りの種類では仮面を被るのがあるの。それは私も覚えてるし踊れる。ただ、みことに捧げる踊りだから」

みことはソファに座り込んで悩んだ。その姿を見てりんなはキッチンの鍋を見に行く。火を止めてルゥを入れてかき混ぜる。

ダメだよね……でも……。

シチューを用意してパンもそえる。ご飯かパンかどちらが良かったか分からないので、とりあえずパンをおく。

「とりあえずご飯食べない?みことのために作ったんだよ?」

みことは悩んでいたがその言葉でテンションをあげた。

「ありがとう。嬉しいよ。頂きます」

ゆっくり食べ始めた。美味しいとみことは呟く。

「温かくて美味しいな。ありがとう。元気が出るよ」

りんなはほっとした。すこしでも元気が出たらいいなと思った。

「踊りのことだけど。りんなが仮面着けて踊れば?今回は大きな祭りになるんだろ?流石にてを骨折してる子に踊らす訳にはいかないから。髪の毛も色変えて。なんとか誤魔化しきれば。それに結果的に神である俺が満足すればいいんだろ?」

神が神へ捧げる踊りを踊る。あまりにも変なことだけど、秘密にしてやりきろうとみことは笑った。

「ねぇ、みこと無理してるでしょ?寝てる時うなされてたよ」

びくっとみことはした。ぐっすり寝たと思っていたのに、うなされていた?りんなに心配をかけたくなかったのに。

「そっか……。心配かけてごめんな。でもさ、この間まで人間だったオレが第一神になったんだよ。そりゃ不満も出るよ」

「私も神の国に行こうか?」

りんなは悩み抜いてそう言った。みことはすぐにいいんだと断った。

「やるべき者がやることをやる。それだけだよ。今は踊りとまりあに集中しよう」

本当はりんなに来て欲しかった。雅臣しか味方がいない神の国で心が疲弊しきっていたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る