第99話

真っ暗な中無音でいると人は狂う。その中で10日過ごすのは普通でも簡単に人は壊れる。りんなの能力は強い。雅臣はそれを知っている。だから精神面のテストとしてこれを選んだ。

りんなが壊れきらないギリギリを見極めていつでも助けられるように。

雅臣は何もしない創世神の代わりに人々を見てきた。真なる神が人間を守ろうとしていたから。そうじゃなかったら気にも止めない存在。

そこで人は争い、時には笑い暮らしている。神々と違う暮らしを興味深く見守って居た。のんびりと暮らす神々と違い人々は毎日必死で生きていた。

最初の頃は導いたり辞めたりと気の向くまま見守っていた。そして見守る中1人の人間が壊れていくのを見た。ゆっくりとだが確実に精神が壊れ、人々を壊しはじめた。そこで雅臣はその者を断罪し、人の心を垣間見た。

まだ神として残虐性もあったので人々を使って壊れるのを楽しんだ。だがそれも飽きた。だが研究データは取れた。そこに現れた真龍帝位試験を受ける人間。精神面を見たいと思った。じっくりと。だがりんなは耐えた。自分の為だけではない。みことの思い、苦しみがあったから。りんなは歌った。ずっと歌うことにした。そしてみことは10日間耐え抜いたりんなを真龍帝位として認めると。そうりんなに伝えた。

りんなは疲弊して立つことも出来なかったが、ありがとうございますと言って気を失った。

雅臣はりんなが真龍帝位として認められたことをみことに伝えるようにと命令し、りんなを抱き上げた。

今まで見てきた人間なら簡単に壊れるようなこの部屋を乗り切ったりんなに興味を持った。不思議な存在として。

みことがりんなを預かり、ありがとうと伝え神の国にある自室にりんなを連れていく。りんなが落ち着いたら魂の器を新しくする。そうしたら、りんなの為に時を戻すのは終わりになる。だからこそ、気を張っていた。今まで何回も気を緩めて、死んで行ったりんな。必ず生かす。執念だった。

りんなは2週間寝込んで、そして起きた。みことはおめでとう、そして魂の器を新しくしようと急かした。りんなは寝起きのままぼーっとしてる中、真龍帝位として生まれ変わった。それを見届けると、やっと落ち着けると思ったみことはほっとして、ベッドに倒れ込むように寝た。安心して緊張の糸が切れたのだ。りんなはこんなにも疲れてたんだ、ありがとう。そう言ってみことの頭を撫でた。

みことが起きてりんなの試験内容を聞いて怒っていた。いくら見守っていても心を壊すような試験はするべきではないと。雅臣も分かりました。今回はやりすぎましたと詫びた。

結果的にりんなは助かったので今回限りとして、今後こんな類の試験はダメだと告げた。

りんなは地上に降りる前に神の国を眺めたいと言った。みことはいつでも来られるのに?と不思議に思ったがりんなと外に行った。

「ここがゆねみの来たかった神の国なのね。ゆねみ、私は違う形だけど。神の国まで来られたよ。ゆねみが命を無くしてもいいと切に願ってまで来たかった神の国に」

遠くのゆねみに、聞こえるはずがないのに。口にした。ゆねみ、神の国だよ、と。りんなはゆねみの欠片でもあるから、神の国への憧れはやっぱりあった。

「ありがとう、みこと。一緒に居てくれて。そしてありがとう。真龍帝位になれた。多槻さまの娘として永遠に生きる」

りんなは遥遠くを眺めながら言った。決意をしたのだ。

「頑張ったね。オレもこれでひとまず落ち着けるよ。さあ、トティランカに戻ろう」

りんなは笑顔でうんと頷いた。もう永遠に多槻の恋人にはなれない。だけど見守ってくれていたみことの想いがあったから、先に進もうと思った。りんなは新しく生きる。前を見て。

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