第16話

こっちの世界に来てから。なんだか身体が軽いというかなんだか自由。元々こっちの世界で生まれたから?

「りんな……君がこの花の呪文を?」

多槻さまが私が無意識に唱えた呪文について聞いてきた。

「はい」

お花は大量にそして艶やかに咲き誇っていた。多槻さまは花を1本切って手に取って驚いてた。

「あの……何となく気づいたら口から出てきて……。ごめんなさい。変な魔法でした?」

「変……だと言えば変だよ。まだ教えてない呪文の応用だから」

多槻さまは花をくまなく眺めながら考え込んでいた。

「らかくさま」

多槻さまは空中に向かって誰かを呼んだ。誰もいない空中に。でも突然現れた。教科書で見たような着物のような中国風のような不思議な着物を着て特殊な髪型をしてた。日本で見たら何のコスプレ?って思っただろう。でも。この世界で空中からふわっと現れたら。やっぱり魔法なんだろうけど驚くしかない。

「どうしたの?ララック」

らかくさまと呼ばれた少女は空を飛んだまま多槻さまに話しかけた。

ララック?多槻じゃないの?

「ああ、僕達は成人したら髪の加護を受ける。その時真名も教えてもらう。僕は多槻でありララックでもある」

私も神の加護を受けて真名を与えられる?厨二心くすぐるじゃない。

「らかくさま。この魔法を見てください」

「あら、綺麗にまとまってるわね。でも少し古い術式ね。ララックがやったの?」

「この子です。次の王の予定のりんなです」

私を手で指し示して多槻さまは少し呆然としていた。らかくさまは少し嬉しそうにくすくす笑った。

「はじめましてこんにちは。あなたがりんななのね。うふふ。楽しみだわ」

「らかくさま、彼女がこの術式を使ったのは……」

「前世の記憶が刻まれてるんでしょう。ただここまでの魔法を使える人物は数少ないわ。うふふ」

らかくさまはくるくる空中をまわりながら楽しんでいた。妖精のような天使のような子供のような人だ。

「彼女に似ていたから前に会った時から……もしかしてと思ってたんです。らかくさま、彼女は……」

多槻さまは物凄く思い詰めていた。でもそんな多槻さまを気にもとめず空をふらふら飛んでいるらかくさま。

私は……?

「どうかしら?この子が15になって真名を与えられたら。分かるかもよ?」

多分答えを知ってるんだ。多槻さまが知りたい事の答えを。でもらかくさまは空高く飛び上がった。

「私はね、人間がどうするのか見たいの。だから何も教えないし答えない。信じたいものを信じるのも疑うのも。好きにして。そしてそれを私にいっぱいみせてね」

そう言って泡のように消えた。彼女も魔法使い?

「多槻さま、あの方は……」

「神の1柱だよ。この世界は君の国みたいに八百万の神がいる。そして姿を我々人間の前に現す。らかくさまは自由気ままな神だよ。でも1番僕に優しくしてくれてると思う」

神様だったのか。まだ幼い少女にしか見えない綺麗な少女。

やっぱり私が暮らしてる世界とは違いすぎる。

「とにかく。夏休みにはこっちで勉強して欲しい。高弘、君もだ。そちらにはこちらとリンクした写身、記憶も全て繋がる分身みたいな物をおく。本当ならずっとそうして勉強して欲しい。でも昭弘に止められてるからね。りんな君が次の王を嫌がったら。その価値が無くなったら向こうの世界で生きるかこっちで生きるか選べないといけないからね」

嫌がったり価値がなくなったら?そんな事があるの?一気に言われて戸惑ってしまった。

「りんなが嫌がったり価値が無くなることあるんですか?」

たーくんが私の代わりに言ってくれた。本当にたーくんは頭がいい。

「もし。りんなちゃんが神になりたい、そう願って真龍帝位の位を得たら。王にはなれないね。嫌がったから王になれないのか歴史的にはないんだけどらかくさまが前に仰ってたんだ」

昭弘さんが声をかける。多槻さまは私の魔法を見てからずっと心の端っこでずっと違う事を考えてて。それがどんどん頭の中を占めてきたみたい。

「とにかく。夏休みにはこちらで勉強してもらう。りんなが生き延びる方法でもあるのだから」

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