第6話

「多槻さま」

お義兄さんはそう言ってお辞儀をしたみたい。お姉ちゃんも慌ててお辞儀をしたように思えた。座り込んでるのでよく分からなかったけれど。

たーくんは多槻さまと呼ばれた男の子を凝視していた。

私も落ち着いて多槻さまなる少年を見てみた。

高校生くらいだろうか。様をつけられるほど偉い人か分からなかった。でも扉と少年の間に見える龍が。これが非現実だと認識させた。

「こんなに早くに来るとは思わなかったよ。びっくりした」

多槻さまは私に向かってにっこりと笑った。その時私は何かを確かに感じた。この非現実と現実は同じものなのだろうか。

「お父さんがここに何かを隠してるとは思ってた。でもこんな……」

たーくんはたーくんなりに驚いていたようだ。

「説明するんだね。じゃあ白龍ありがとう。また後でお願いします」

少年は龍に向かってそう言って扉を閉めた。扉を背に多槻さまは目を閉じてゆっくりと目を開いて私を見た。

「こんにちは。僕の名前は多槻だよ。君が生まれた世界がこの扉の向こうだよ」

私もたーくんも混乱しすぎて逆に落ち着いていた。お義兄さんに促されて再び家の中に入った。

今の新築の家では珍しい応接室にお姉ちゃん以外が入った。お姉ちゃんは紅茶を入れるからと。

魔法がとか言われたさっき。ホログラムだったら。多槻さまはここに居るわけがない。自分の中で納得出来ずに言い聞かせていた。

「私が捨てられた訳では無い、助けるためってどうしてですか?」

まずはこの疑問に答えが欲しかった。

多槻さまはにっこりと私に微笑んだ。ものすごく柔らかい微笑み方で。私はどきっとしてしまった。そして真顔になって。

「凜菜、君はね。次の王に選ばれたんだ」

おうにえらばえる。頭の中で混乱した文字がふわふわ浮かぶ。王に選ばれるとはなんだろう?王様なんてこの国には居ない。いない王に何を選ばれるのか?

「僕が育った国トティランカの次の王に選ばれた。だから命を狙われたんだ」

次の王に選ばれた?だから命をねらわれる?私が捨てられた理由がそれ?

王に選ばれる。それが捨てられる理由になる?混乱しかない。

「えっと……?私は王になるんですか?」

「君が次の王になるべきだと神様に選ばれた。だから僕を次の王にしたい父は……君を殺そうとしたんだ」

多槻さまはゆっくり言葉を重ねていく。私が少しずつ理解するようにだろう。神様に選ばれた。次の王になるかもしれない多槻さま?

「あの……多槻さま?のお父様はそんなに偉い人なんですか?そして産まれたての私が王に選ばれるとか……?適性があるかどうか分からないのに」

「僕の父は今の王様だよ。ただトティランカは世襲ではないんだ。次の王は神が選んでくださる」

つまり。多槻様は王位継承権のない王子様。世襲じゃない王族ってどういう意味なんだろう?

「トティランカは神の国と繋がってる国なんだ。あの世界では唯一なんだ。だからそこの王は力が無いとなれない……いいやなってはいけないんだ」

お義兄さんが久しぶりに口を開いた。頭をぶんぶん横に振って何かを忘れたい様だった。

「えっと……私王にならないといけないんですか?」

素朴な疑問だった。私に選ぶ権利はないのだろうか。

「まず魔法の勉強をして欲しい」

多槻さまはまっすぐ私の顔をみて言った。断れない雰囲気。

そして同時期に魔法という言葉には惹かれた。魔法使えるなんて楽しそう。

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