12-1「皮肉」(1P)











 幾度となく見せつけられる地獄がある。

 幾度となく思い知らされる罪がある。



 許しを乞おうなどとは思っていない。

 忘れたいとも思っていない。


 

 しかし、脳は見せるのだ。

 

 己の罪を、何度も 何度も。

















 舞踏会を終えて、エルヴィスは帰ってきた。


 がらりと広い自室。ため息交じりに部屋を突っ切り、足が目指すのは革張りのソファーだ。首元のタイをぐいぐいと緩めながら、どっかりと腰を沈め──息をいた。





 ──────疲れていた。



 

 思い返せばここ数週間、ミリアと出会ったあの日から、なんだかんだとここまで休息らしい休息を取っていない。




 いくら若いとはいえ26。

 10代の頃のようにはいかない。


 

 身体の奥底に澱むようなを感じながら、裸になった手のひらを見つめた。

 黒の手袋はとうに外してポケットの中だ。

 ソファーから不意に目を投げた先、こちこちと小さな音を立てる時計を一瞥いちべつし────天井を仰ぐ。





 限りなく黒に近い青の瞳が、ぼんやりと見つめるのは

 見慣れた天井ではなく受けた報告とスラムの様子だ。



 彼は『襤褸布の坩堝アルトヴィンガ』を訪れたことはないが、周りの貴族連中や執事のヴァルター、または使用人たちの話から、その様子をうかがい知ることは出来た。




 屑の集まる場所。

 畜生の好む場所。

 人の形をしていながらも、人ではないやつらが住まう場所────


 

 そんな場所の想像と、聞いた情報が

 ぼうっと見つめる天井を、羊皮紙キャンパス代わりに駆け巡る。



 


(──……”薄気味悪い”……、”暴漢”……)

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