8-12「チュートリアル」





 ──それは、青空の下始まった。




「まず基礎エレメントの説明ね? ウォルタファイアウィンドライト、そんで、ノーム。これが、基本の五つ。生活に溢れてるものだから、イメージ湧きやすいと思う」

「……これは? ”頭”?」




 ノースブルク諸侯同盟・オリオン領・西の端.

 ウエストエッジ郊外の岩の上。


 短い芝生が青々と風に揺られ、かさかさと小さな音を立てる中『カードの準備ができるまで』と説明するミリアの隣で、エリックは拾い上げたカードをチラ見し問いかけた。


 それに答えるのは、ミリアだ。

 口調は軽いが熱心に、カードを手に取りながら口を開く。



「それは、混乱コンフィだね。ちょっと難しいやつ。目に働きかけて、少しのあいだ幻覚を見せるの」



 と、目を指す。



「目に効くんだけど、わかりやすく”頭”が描かれてる。危ないから慣れないうちは使わないほうがいいよ。からだの中から効いてくるやつは、また少し違うのよ〜」



 言いながら、小さく首を振る彼女の言葉を理解しながら、エリックはざーっとカードを見渡した。


 ウォルタ・ファイア・ウィンド・ライト・ノーム。

 コンフィに、草・腕・薄い膜の絵。

 目の前に広がる『新しいもの』に、自然と湧き出るのは『疑問』である。



「……なあ。『自然に溢れているもの』が『基礎』のようだけど、『雷』は基本の五つじゃないんだな?」

「あれはね〜、構築式の掛け合わせで出るやつなの〜」


「────”構築式”? ”掛け合わせ”?」

「そう、構築式。複数の要素を合わせて出すのね?ウォルタウォルタと、ウィンドと……あと、なんだっけ。……うううん、忘れちゃっタ」




 問われ、眉を寄せ首を捻るミリアは、言いながら残ったカードの束からざーっとそれを探し出し、一枚軽く引き抜くと、



「でも、それもカードで体感できるよ、ほら。サンダラって。実際に扱う時は自分で立てなきゃいけないけど、これは体験できるから」


 

 言って、彼の目の前に出すのは『雷』のカード。


 簡単に出されたそれは、紙に描かれている絵のはずなのに、きらりと光沢を放ち、今にも雷が飛び出してきそうなオーラを放っていて────エリックはごくりと息をのんだ。



(……触れても平気なのか?)



 と、一瞬ためらう。

 が、平然と差し出すミリアの手前、受け取らないわけにもいかない。

 エリックはその抵抗を隠しつつ、カードを受け取りしげしげと眺めながら、



「…………本当だ。じゃあ、これは? 竜巻?」

ウィンドの強いやつ。実際、カードなしで使うとしたら、みっつぐらいのエレメントと構築式を掛け合わせないと出ないやつ」


「……ふうん…………?」

(……エレメントの掛け合わせ……シンプルに見えて意外と複雑なのか……?)



 聞いて、ざっと考えを巡らせる。

 ミリアの言うことはおおよそ理解できた。

 込められた力を呼び出し、使っていくというシンプルな話なのだろう。


 そもそもマジェラでは子ども向けのものなのだ。

 簡単に扱えるよう作っているはずである。


 しかし。


 ……おおよそイメージはできたが、どうも『魔具でなく、直接魔法を扱う』のが想像できない。



 『訝し気、半信半疑』。

 しかし真面目に聞く彼に、ミリアはさらに言葉を続ける。



「でも、サンダラと一緒で、カードが構築式を組み立てて教えてくれるから、出した時の感覚を掴むことはでき………、…………………………………………」

「…………ミリア?」



 テンポ良く流れていた彼女の言葉が途切れ、エリックさっと顔をあげた。

 彼の暗く青いまなざしの先、ミリアは、まるで絵の中に入り込んだようにぴたりと動きを止め考え込んでいる。


 そんな『停止』してしまった彼女に、エリックが口を開こうとした時。


 はぁぁぁああああぁぁぁ〜……

 ミリアの口からこぼれたのは、感嘆の息だった。

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