6-7「プリンは伸びない(1)」
それは、彼女の工房。
長年連れ添い、過ごしてきた
──────ふ…………
若く騒がしい二人を見送って、オーナーのベレッタは、感慨深げに息をついた。
覗き込むのは窓ガラスの向こう。
前髪を頭の上でまとめ上げた髪型そのまま歩いていったミリアと、ミリアになにやら話しかけている様子の『エリック』と名乗った青年に、自然と口が緩む。
(────…………ふふっ)
見守る視線は穏やかで、まるで、我が子を見るような気持ちだった。
──『感慨深い』。
胸の奥に込みあげる『懐かしさ』。
それを瞼の奥に隠して、ベレッタは”ふっ”と窓から体を浮かせ店内を行く。
踏みしめるのは年季の入った床。
流れ行くのは、いつもの店。
味わうように眺める彼女の目が客用ソファーに向けられた時。
「…………ん?」
布張りのソファーの下。
隙間から飛び出て床に張り付く紙が目に留まり、細く皺のある指を伸ばしていた。
拾い上げたのは『薄桃色のカード』。あの『ミリアー! 頼むから嫁に行ってくれ!』と怨念の込められた、あのカードである。
(…………アラぁ、ふふ。ミリーのお父様かしら。ふふっ「親の心子知らず」とはよく言ったものねぇ)
書かれた言葉に頷きながら、彼女はすたすたとカウンターに戻ると、後ろの、棚の一部。ミリアの私物・裁縫や着付けの指南書や、お手製のカタログが詰まったそこに差し込んだ。
”これ”がのちに大きな大きな騒動の火種になることを、オーナーはもちろん、手紙の存在を忘れたミリアも想像して居なかった。
☆
「〜〜〜〜〜〜っ……! とり! にく! ……さいっこーーーかな……!」
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