4-1「……うそ……でしょ……?」





「──うそ……でしょ……?」

「…………」



 服飾工房・ビスティー店内。

 ずん……と落ちる重い空気。


 問屋が述べた事実に、カウンターの内側で頭を抱えるのは『ミリア・リリ・マキシマム』。この店の着付け師であり、カウンセラーだ。

 焦点の合わぬハニーブランの瞳で見つめるは『仕入れの帳簿』。変わらぬ数字

カクカクふるふる震えだす。


 そんな彼女の向かい側。

 カウンターに頬杖を付き綺麗な顔を険しく砥ぐのは、スパイ『エリック・マーティン』。この街の盟主でありスパイの男だ。彼もまた、そこで黙り込み険しさを研いでいた。



 ふたりが布の問屋に出かけたのが約1時間ほど前。

(ふふー♡ 荷物持ちもいるし、安く買えるし、スペシャルラッキー♪)と意気揚々と店を訪れたミリアに、衝撃が走った。




 問屋のおばさんは言う。

 『────ごめんねえ。先月からシルクと綿もあがったのよ~』


 ミリアは動揺した。

 『なんでっ!? えっ、シルク……は、わからなくもないけど! なんで綿までっ?』


 エリックは問う。

 『…………それ。いきなりですか? それともじわじわと?』



 困る常連のミリアと見慣れぬ付き添いに、おばさんは答えた。



 『んン~……シルクはまあ~大体この時期にハネるからねえ。でも、綿のほうはいきなりでねぇ』

『先々週まで普通だったのに、発注かけたら『在庫不足』って言われちゃってねぇ。こっちも困ってるのよ~。夕飯一品減らさないとだわぁ』

『……ごめんねぇミリアちゃん。メーターあたり15メイル増しね? こっちも生活があるの。悪いわね?』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る