第三章 再来する憎悪

1.颯真の糸

 颯真はベッドの上で目をさました。

 見慣れた天井。ゆっくりと顔を横に向けると、テーブル、テレビ、壁に掛かったカレンダー。目に映るのはいつもと同じ自分の部屋だった。

 颯真は大きく目を開け勢いよく起き上がった。

 夢? いやそんなはずはない。

 頭を抱えて記憶をたどった。亜月との朝の会話、教習所での出来事、SOH’s、カラオケ、敦裕と咲世……全部憶えている。炎と煙、その中から現れた異様に細い男。そして――

 颯真は慌ただしくテーブルの上にあるスマホを取り、亜月に電話した。

 ワンコールで電話は繋がった。

「おはよう。ちゃんと起きられたね」

「えっ?」

「え、じゃなくて」亜月の声が軽快に弾んだ。「大丈夫? 寝ぼけてる?」

「あの……」颯真は混乱した頭で言葉を探した。「昨夜のことだけど……」

「昨夜? 昨日なんかあったの?」

「なんかあったのって……あったよな?」

 亜月の笑い声が電話から聞こえてきた。「そう言われてもねえ……昨日は会ってないし。お互い仕事だったでしょ?」

 昨日は仕事? 颯真はスマホを耳から離し画面を見た。時計は土曜の朝を示していた。敦裕たちとカラオケに行く、その当日の朝だ。

「颯真? 聞いてる?」

「う、うん、聞いてる」颯真はスマホを耳に戻した。

「どうしたの? 飲みすぎた?」

「うん。いや違う、金曜は飲んでない」

「変なの」

 口を尖らせた亜月の顔が目に浮かぶようだった。

「午前中は教習所でしょ?」

「うん、教習……所」

「私、先に『SOH’s』に行ってるね。お昼にオムライス食べるんだ」亜月が嬉しそうな声で言った。

「あ、うん、そうだ、そうだったね」

「大丈夫? 具合悪いの?」

「いや、全然」

「そっか。じゃあ後でね。路上教習、気を付けてね」

「なあ」電話を切ろうとした亜月を颯真が呼び止めた。「亜月は大丈夫なんだよな?」

「ん? 今夜のこと? 私は大丈夫だよ。それより咲世ちゃんが心配。今日も出勤だよね」

「いやそうじゃなくて……」

 颯真は自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。今、何の話をしてるんだっけ。「いや、いいんだ。向こうは大丈夫だと思う」

 電話を切った颯真はスマホをテーブルに置くと、頭の整理がつかないまま洗面台の前に立った。そして鏡に映った自分の姿を見て思わず顔を近づけた。額に乾いた血の跡、そしてその周りが薄い紫のあざになっている。よく見れば服装も上から下まで教習所に出掛けた時と同じだった。

 額の怪我も着てる服も、どちらも昨夜の記憶につながっている。

「なんだこれ、どういうこと?」

 その時、ジーンズの後ろポケットに何かが入っていることに気づいた。颯真はポケットに手を入れてそっと引き抜いた。その手にはスマホが握られていた。

 颯真は弾かれたように部屋に走り、テーブルの上にあるスマホを手に取って二台を見比べた。左はついさっき亜月と会話したスマホ。右はジーンズのポケットに入っていたもの。同じ機種に同じカバー。颯真は左手のスマホをテーブルに戻すと、恐る恐る右手にあるスマホに触れた。画面が光り、下から上へフリックした。顔認証が走りロックが解除された。

 両方とも自分の端末だ。

 なぜ同じものが二台ある? このスマホは何だ。

 着信履歴を表示すると亜月の名前が連なっている。どれも覚えのある履歴だった。

 颯真は一番上にある亜月の名前を押した。

 コールが二回、三回と続く。四回、五回――

「そ、颯真?」

「亜月か?」

 電話から亜月の嗚咽が聞こえてきた。

「亜月だよな」颯真は思わず大きな声をあげた。

「うん」

「無事なんだよな」

「うん」

「昨夜…いや今夜、俺たちは……」

 うまく言葉がつなげない。言いたいことが正しい順番に並ばない。颯真は泣きじゃくる亜月をなだめながら、混乱する頭をどうにか言葉と噛み合わせようとした。

 亜月は困惑したまま少しずつ話し始めた。

 自分の部屋で目がさめた亜月は、颯真と同じくカラオケでの出来事、それまでに起こったの出来事を全て覚えていた。亜月はデスクに置いてあるいつものスマホですぐに電話をかけた。電話に出た颯真は昨日までと何一つ変わらなかった。昨晩のことなどまるでなかったかのように、少し寝ぼけた声で今日のことを話した。電話を切ったあとも事態が飲み込めず、しばらくはその場に茫然としていた。するとどこかで電話が鳴った。手に持っているスマホではない。もう一台、別のスマホがどこかで鳴っていた。

「俺も亜月もスマホが二台あって、それぞれが違う俺たちに繋がった」

「ねえ。どういうこと?」亜月は泣きながら笑った。

「分からない」颯真はそう答えるのが精一杯だった。

「さっきのが違う人だなんて、絶対そんなことない。さっきの颯真だって颯真だった。私、わかるもん。絶対に颯真だった」

 それは颯真も同じだった。偽物などではない。あれは亜月だ。高校三年のあの日から、ずっと一緒にいる亜月だった。

「私、どうすればいいの」亜月が言った。

「よく分からない。とにかく、いまからそっちに行く。亜月は部屋から動くなよ」

 亜月が分かったと応えると颯真は電話を切って部屋を飛び出した。


2.亜月の糸

 亜月は電話を切ると、力なくその場に座り込んだ。

 脳裏にはあの炎と、包丁を持った男の異様な影がはっきり焼き付いていた。敦裕の首を切り裂いた大きな包丁。そしてそれは咲世の体にも執拗に振り下ろされた。

 亜月はベッドに横たわり膝を抱えた。そしてデスクの上にある一台目のスマホを見た。


 今朝目覚めると同時にとび起きた亜月は、迷わずデスクの上に手を伸ばし颯真に電話をした。しばらくして電話に出た颯真は、いつもの調子でおはようと言った。そして午前中は教習所だが、終わったらすぐに『SOH’s』に行くからと。

 いつもと同じ、毎日私の心を穏やかにしてくれる颯真の声。

 電話を切った後、あれは夢だったのだと言い聞かせようとした。自分はこれからシャワーを浴び、着替え、早めに家を出て本屋を物色する。それから颯真との待ち合わせ場所に向かうんだ。肌に残る炎の熱さ、鼻をつくガソリンの臭い、真っ赤な血の色。それらの生々しい記憶を封じ込めようと、何度も呪文のように唱えた。あれは夢なんだ。そう、ただの悪い夢。

 聞き慣れた着信音が聞こえてきた。

 慌てて手に持っているスマホを見た。これではない。何が鳴っているのか。スマホをデスクに戻し周囲を探った。すると自分がポーチを肩からかけたままであることに気づいた。スマホを入れておくための小さな肩掛けのポーチ、その中で音と振動は繰り返していた。亜月が表面をなぞると指先が黒く汚れた。

 急いでポーチから二台目のスマホを取り出すと、両手で包むようにして耳に当てた。

 デスクの上にあった一台目の先には、昨日までの颯真がいた。

 二台目――煤で汚れたポーチの中にあったスマホ――その先には昨夜の記憶を持つもう一人の颯真がいた。

 この世に颯真が二人いるはずがない。けれどどちらも間違いなく颯真だ。その確信に揺るぎはない。

 違うのは、一日分の記憶だけ。


 どれくらいそうしていたか分からない。少し眠っていたのかもしれない。不意に電話が鳴った。鳴っているのは二台目――あの記憶を共有するスマホだった。

「颯真!」

「亜月、どこにいる」

「え?」亜月は顔を上げた。「部屋にいるよ」

 電話は沈黙した。

「颯真?」

「俺は」颯真の声が小さく聞こえた。「亜月の部屋の前にいる」

「ちょっと待って」

 亜月は立ち上がり玄関に走った。震える手でロックとチェーンを外しドアを大きく開け放った。だがそこには誰もいなかった。

 亜月は部屋に駆け戻りスマホを耳に当てた。

「颯真、どこ?」

「……」

「颯真ってば」

「部屋の前にいる。何度もチャイムを鳴らしたけど返事がない。ドアには鍵が掛かっている」

「なに言ってるの?」

「きっと、亜月はもう出掛けてしまったんだ」

「私は」声が小刻みに震えた。「私はここにいるよ。なんで颯真はいないの」

 よくできたマジックを見せられているようだった。あるはずのコインが消えていたり、箱の中に入った人が遠くから現れたり。けれどこれは誰かが作り出した幻影ではない。頭で受け止められなくても本能がそれを理解した。胸の中に鉛のように重く、無慈悲な感覚が湧き上がってきた。

「あの時、最後になにか大きな爆発があった」颯真が言った。

「私は……よくわからない。だけど、すごく眩して、すごく熱かった」

 あのとき、目の前の全てを追い払うように目を閉じていた亜月は、爆発の瞬間を記憶していなかった。

「それが、俺たちが一緒にいた最後の記憶」

「最後って、そんなのおかしいよ。今こうして話してるのに」

「俺は二人の亜月と話した。亜月だってそうだろ」

「二人じゃない! 私にとって颯真は一人でしょ」

「それは、そうだけど……」

「颯真は違うの?」

「違わないよ! 違うわけないじゃんか」


 亜月は奥歯を噛んだ。私だけじゃない、颯真だって混乱している。昨日と今日――記憶が混ざり合い濁っている。自分の頭が信用できなくなっている。

「時計を見たろ」颯真が言った。「今朝も土曜日だ。もう一度同じ日が始まったんだ」

 何を言っているのと怒鳴ってやりたかった。変な本でも読んだのって軽く笑い飛ばしてやりたかった。冗談はやめてと今すぐ抱きつき、いつものように二人で笑い合いたい。でもその颯真がここにいない。

「俺だって信じられないよ。目が覚めたら同じ日だったなんて。だけど、おでこの傷もあるんだ」

 私は血が出ている颯真の額にハンカチを当てた。ちゃんと覚えている。

「亜月、俺はおかしくなってる?」

 亜月は唾を飲み込んだ。「ううん」

 もう一度画面を確かめた。デジタル表示は冷徹に今が土曜の朝だと告げている。

「爆発が起きて、それで何かがおかしくなったのかも」

「あれがきっかけで時間が戻ったの?」

「分からない。だけどおでこに傷があって、着ている服は昨日のままで、しかも黒く汚れている」

 亜月は同じように黒んずんている自分の服を見た。

「あのカラオケでの出来事、あれは確かに起こったんだ」しかし颯真はすぐに言い直した。「あれは、

「じゃあやり直せるんだよね」亜月は声を上げた。「全部なかったことになったんだよね。だったらカラオケになんか行かなければいいんだよ。そうすれば敦裕くんと咲世ちゃんは死なずに済む。私たち二人はまた会える」

 そうだよと言ってほしかった。当たり前だろと笑ってほしかった。だが答えは返ってこなかった。颯真が答えない理由は分かっている。いま話している颯真は私の部屋の前にいる。だけど二人は同じ場所にいない。今朝、最初に話した颯真は今ごろ教習所にいるだろう。そのあと待ち合わせ場所にやってくる。きっと急いで私のところへ来てくれるはずだ。そこで私たちは会う。一緒にコーヒーを飲みながら話をする。手に触れることもできる。

 それが何を意味しているのか、私たちは気づき始めている。

「会いたい……」亜月の頬に雫が流れた。

「いいか、今は部屋から一歩も出るな」颯真が言った。

「会いたいよ」

「俺もだよ。だけど――」颯真を言葉を飲み込んだ。

「だけど?」

「今日が繰り返されているのなら、

「あの男……くる?」

「俺たちが行かなくてもあの男は火をつける。そしてまた人を殺す。見なかったことにはできない」

「そんな」息が苦しくなり、亜月はあえぐように空気を吸い込んだ。「颯真、何をするの?」

「止めなくちゃ」

「警察に行こうよ。危ないことなんてしないで」

「時間がないんだ。警察を説得する前に殺されてしまう」

「だけど、それは颯真がやることじゃないよ」

「絶対に助けなきゃならない。警察はその後だ」

「どうして颯真じゃなきゃだめなの」

「亜月」颯真がやさしく語りかける。「俺はすぐそばにいる」

「うん」

 亜月はどうにかそれだけ返事した。胸が苦しい。お願い、遠くに行かないで。

「また電話するから、それまでは動くなよ」

 亜月は通話の切れたスマホを抱きしめ、頭を垂れた。


3.颯真の糸

 あの長い男がまたお前を殺しにくる。

 誰もいない部屋の前で颯真は立ち尽くした。

 確証があるわけではない。だがあの時たしかに感じた。背筋を這い上がる恐怖と亜月の死。そして絶望。だから俺はあいつと刺し違える覚悟をした。お前を救うためならどんな代償だって払う。

 颯真はドアにそっと手を当てた。

 いますぐ亜月を抱きしめたい。俺がいるから心配いらないと言ってやりたい。

 亜月は扉の向こうにいる。ただし

 もう一台のスマホを取り出し、最初に電話した亜月にメッセージを送った。

 返信はすぐにきた。

「どうしたの?」

「いや、どうもしないよ」

「何かあったんじゃない? 颯真、なんだか辛そう」

 颯真は声を出さずに何度も頷いた。

「何か苦しんでるの?」メッセージが続いた。

 大きく息を吸い込み、細く静かに吐きながら言った。「後で話すよ。でも大丈夫だから心配しないで」

「そっか」短い返事が来た。

「気をつけて」

「うん。いま本屋さんに行く途中。きょうは絶対オムライス食べるんだ」

「それがいい」

「待ってるね」

 今朝この扉の向こうにいた亜月は、いま本屋に向かっている。一通り本を眺め、買った後は『SOH’s』へ向かい大好物を食べる。そして俺が来るのを待つ。

 ではもう一台のスマホで繋がっている亜月は? 今夜の記憶を共有する亜月は? 彼女はどこにいるんだ?

 颯真はこめかみを押さえた。

 そんなことがあるのか。

 こめかみを押す指に力をこめた。痛みが平静を呼び戻す。

 時間が戻っただけじゃない。時間が裂けたんだ。

 他に理解のしようがあるだろうか? あのとき一緒に死にかけた俺と亜月は、いま同じ時間軸の上を別な世界に生きている。二つの世界は時を同じくしているが、決して交わってはいない。この世界にはこの世界の亜月がいて、向こうには向こうの俺がいる。

 だがそんなこと認めたくない。

 颯真はその場に膝をついた。

 二つに裂けた世界を認めることは、あの亜月にはもう会えないと認めることと同じだ。いや違う、どちらの亜月も同じ亜月なんだ。それはこの耳で確かめた。偽物なんかじゃない。俺が間違えるはずはない。ということはもし二つの世界が再び交差するとしたら、二人の亜月、二人の俺はどうなるのだろう。

 それはもう自分の想像をはるかに超えている。

 その時、スマホが震えた。左ポケット――のスマホだ。

「今夜、遅れるなよ!」

 そこには敦裕からのメッセージが届いていた。

「今日は中止にしよう」

 颯真はすぐに返信した。反応はすぐに返ってきた。

「まじか! て言うかなんかあった?」

 颯真の目に、友人二人の惨たらしい最期が蘇った。

 とにかく止めなくては。あそこに行ってはいけない。

「すまん、理由は今度話す」

 そう打ち込み送信ボタンを押そうとして、颯真は指を止めた。

 颯真はフードに一瞬見えたあの男の顔を思い出した。

 あの男は俺のことなんて見ていなかった。あいつが見ていたのは確かに亜月だった。あれはただの無差別殺人ではない。本当に亜月が目的なのだとしたら、たとえ今夜あそこに行かなかったとしてもそれは解決にならない。異様なまでに長いあの男は、必ずまた亜月の前に現れる。

 本屋に向かっている亜月と、部屋で怯えている亜月。二人の姿が颯真の脳裏を鮮やかによぎった。

 そうだ、狂った殺人鬼はどちらの世界にもいる。両方の亜月を助けなくてはならない。逃げているだけでは向こうの亜月は救えない。何かしなければ。だが何をすれば? 

 颯真は送りかけたメッセージを消して指を噛んだ。

 なぜ亜月なんだ? 理由はなんだ。それにどうして今夜の居場所を知っているのか? その二点を結ぶ直線上には何があるんだ? それを見つけることができれば、俺はあの男にたどり着き、止めることができるかもしれない。そしてそれができるのは俺だけなんだ。そう、俺には今日の記憶がある。他の誰にもない未来の記憶が。

「なんがあった? 俺に言えないことか?」敦裕から次のメッセージが届いた。

 そのメッセージを見た颯真はあることを思いついた。そして新たに入力し直した。

「今から出てこれるか?」

 すると程なく今度は電話がかかってきた。

「俺だけど。どうした颯真。お前、大丈夫か?」

「大丈夫。急にすまない。出てこれるか?」

「別に休みだからいいけどよ」

「悪いな」そう言って颯真は、以前二人でよく食事がてらに酒を飲んだファミリーレストランを指定した。「じゃあ、三十分後に」

「分かったけど、おまえ本当に大丈夫なんだろうな」

「大丈夫」

 颯真にしてみればそう言うしかなかった。こっちにいる敦裕だって、元の世界と同じ数年来の友人には違いないが、全てを説明することはできない。

「颯真」電話を切る前に敦裕が言った。「心配するな。俺が力貸してやるからよ」

 一度は眼の前で死んでいった友人に礼を言うと、颯真は亜月のアパートを後にした。


4.亜月の糸

 颯真との電話を切ったあと、しばらくは動くこともできなかった。

 あの光景が現実だったこと、記憶の中の過去がこの世界の未来であること。すぐ近くにいるのに触れることのできない颯真と、この世界で自分を迎えに来てくれる颯真。それらの事実が頭のなかで境目のない渦となって回り続けた。

 亜月は自分の意識をどこか遠くに感じながら、ぼんやりとした目で今朝最初に手にしたスマホを引き寄せた。そして体が自然に颯真へのメッセージを送った。

 こちらの世界の颯真からすぐに返事が来た。「どうした。なんかあった?」

「いまどこ?」

「教習所ついたとこ。まだ部屋?」

「うん」

「具合悪いの?」

「大丈夫だよ」

「そっち行こうか?」

 亜月の視界が波打つように揺れた。

「平気。教習がんばってね」

「おう。また後で。終わったらすぐ行く」

 亜月はやりとりの終わった画面をしばらく見つめていた。

 ここに颯真がいる。何時間か後に私は颯真に会えるだろう。そして今夜あのカラオケにさえ行かなければ、私たち四人はきっと今まで通りでいられるはずだ。

 亜月は顔を上げた。

 見なかったことにはできない。向こうにいる颯真は確かにそう言った。私たちだけが持っている今日の記憶。それを警察に説明するのは難しい。だけど何をしようとしているの? 私は言われた通りにここで待つけれど、お願いだから危ないことはしないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る