第6話 圧される男

 ここはガツンと注意しないと流石にだめだ。


「あ、あのさ。さすがにそれはまずいよ。年上の男の家にお邪魔してるなんてバレたら身内の人がびっくりして倒れるんじゃ」


「あん? いやだからお母ちゃんにはそうゆうてるから大丈夫や、ウチを助けてくれた男の人の世話をして来ます〜ゆうてな」


「はあ!? そ、それで許可降りたの?!」


「モチロンやんか。迷惑掛けへんように〜なんて。ま、ウチが暮春ちゃんに迷惑掛ける訳ないから安心してや」


 何なんだこの子の行動力は! それで許すお母さんもなんかズレてるぞ。どういう親子なんだ?


 悩む俺を他所に冷蔵庫から野菜やらを取り出してキッチンで調理を始める明芽。料理しなれてるのか動きに迷いが無い。本気で作るつもりなんだ。

 いや、でも飯なら戸棚に……。


「あ、そうや暮春ちゃん?」


「な、何?」


「なんぼインスタントが美味いからゆうてそればっかり食べてたらアカンよ? インスタントはどこまで行ったかてその場の栄養補給や。健康に過ごして行くんならもっと長ぉ目でバランスっちゅうもんを考えて食べてイカンと、どっかで無理がくるで?」


「あ……わか、ってるんだけども……」


「面倒なんやな? もう心配なるわ」


 まさか小学生に食生活のダメ出しをされる日が来るとは思わなかった。これは意外と精神的なダメージがデカイぞ。

 っていうか戸棚の中みたのかよ。いつの間に部屋の中を把握されたんだ?


「いやウチもなインスタントがてんでダメゆうてるんやないんよ? ウチも偶に食べるし、なんやったら好きなもんもあるくらいや。でもな、何事も偏ったらアカン。……ただ、人には向き不向きゆうもんがあるし無理に覚えぇゆうつもりもない。これからはウチが作ったるさかい今まで以上に元気に過ごせるで、期待してんか」


「あ、ありがとう。……え、これから?」


 何やら不穏な言葉が聞こえてきた気がしたが気の所為だろうか? きっとそうだろう。この子の礼とやらが今日の料理で、今度からは道端で挨拶する程度の仲になるはずなんだ。


 そ、そりゃあ偶には遊びに来ても構わないけども。少なくとも毎日顔を合わせるような仲になるはずは無い。だって俺は男子高校生で明芽は女子小学生。本来なら何の接点も無いんだから。


 それはともかく、あんまり行きたく無いが近所に住んでいるという明芽のお母さんに挨拶に行かないと。

 初めて会う人のところか、行きたく無いなぁ。


「出来たで! さあテーブルの上に並べてんか」


「え、もう? ……ああわかった」


 もう出来たらしい。って冷蔵庫にはロクな食材が無いんだから不思議でも無いか。


 二人分の野菜炒めとお茶碗に入ったご飯をテーブルの上に置いて、二人して向かい合わせに座る。


「いっただっきまーす!」


「い、いただきます。……美味しい」


「せやろせやろ? まぁ野菜炒めを不味く作る方が難しいんやけどな」


 確かに、でも俺がその分類なんだよな。やっぱり少しは自炊を覚えるか。



 それからは明芽の小学校での様子だとか、こっちに引っ越してきての近況だとかを一方的に聞かされながらご飯を食べ終えた。


 本当によくしゃべる子だ。俺が口をはさむ隙が見当たらない。はさんだところで話題も無いんだけどもさ。


「じゃあ食器洗うから、いい加減家に帰って」


「お皿はウチが洗うとくから、先にお風呂に入り~」


「いや少しは俺の話もさ……風呂? まだ沸かして無かったはずじゃ」


「ご飯作る前に沸かしといたで。安心しぃ、ちゃ~んとお風呂キレイにしてからお湯入れといたさかい」


「嘘だろ? いつそんな時間があったんだよ」


「そないな細かい事、ウチは気にせえへんよ。ほらさっさと入り!」


「わ、わかったよ! じゃあ先にお風呂頂くから! ……ウチは気にしなくても俺は気にするんだよ」


 押し切られてしまった……。何だろうこの手のひらの上で踊らされている感じ?

 ああもういい! とにかく今は風呂に入って頭の中もサッパリしよう。


 雑念を振り払いつつ、脱衣所で服を脱ぎ捨てて風呂に入る事にしたのだ。

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