第3話 いつの間にか後ろに居た
しかし俺はそれどころじゃなかった。ファーストキスがこんな小さい子に奪われた……その事で頭がいっぱいになってしまったのだ。
い、いや違う! ファーストキスじゃないだろ!!
だから待て俺! こんな小学生相手に何を意識してるんだ? ただ頬にキスされただけで何をうろたえてるんだ!?
いやでも女子とこんなことしたことないし……。
(俺が生きてきた中でこんな事されるなんて事なかったし)
「いや~そんな顔真っ赤にして、かぁい~わぁ! でもその歳なら彼女にされた事くらいあるやろ? 大げさやで兄ちゃん」
俺が勝手に慌てふためいてると、その様子を面白がる女の子。
俺だって大げさなくらい分かってる。でも……。
「ちょ、ちょっと経験が無かっただけだから。そんなに笑う事も無いだろ?」
「ははは、いやほんますまんなぁ。……ん? 経験が無いって兄ちゃん、もしかして彼女出来た事あらへんの?」
うっ!?
「も、もしかしても何も……俺は恋人なんて出来たことないし」
「はぁ、兄ちゃんって女の子にモテた事無いんやなぁ」
(グサ!)
その言葉に俺の心が深く傷ついた。
ああそうだよ! 生まれてから十七年一度も彼女なんて出来た事無いよ!! もうヤケだ、言ってやる!!
「こ、この歳にもなって彼女どころか女友達だっていないよ。おかげで何やっても空回りばかりするし……」
「何もそんな落ち込む事も無いやん。ウチは兄ちゃんの事、ええ男や思うで?」
「え?」
「だって、ウチの事ようわからん変態から助けてくれたやんか? ここまでやって情けない男の子な訳あらへんやろ」
「っ! 励ましならよしてくれ!」
「もう意固地になって。でもそういう男ん子らしいめんこい隙が、ウチの心くすぐるんよ。ふふ」
そう言って悪戯っぽく笑う女の子。
その笑顔は子供なのに艶っぽく見えて、思わずドキッとしてしまう。
って小学生に何を思ってるんだ俺は! しっかりしろ俺!! 俺が自問自答していると、女の子が俺の手を掴んできた。
「じゃあ兄ちゃん、ウチに何かして欲しい事無いん?」
「え? だって礼はもう終わったはずじゃ」
「ああ、あんなん挨拶代わりに決まってるやん。誘拐されてたかも知れんのにほっぺにキスだけで済ましたらウチの女が廃る! 兄ちゃんが何か困ってるならウチが解決したるで。これこそ義理人情の付き合いやな」
そんな古風な。この女の子、俺より若いのに結構しっかりした価値観だな。
でもさ、そんな風に請け負おうとするのもトラブルの元じゃないか? 適当な事言ってここは撒くか。
「こ、困り事ね。……ああ、じゃあ君の名前が知りたい。俺は純次暮春」
「ふぅん、暮春ちゃんゆうんか」
「ちゃん!?」
「そんな細かい事気にしたらアカンで。ウチの名前は明芽! 紗良明芽ゆうんや、よろしゅうな」
はっきりとわかったが、やっぱりこの子陽キャだ。
小学生らしい忖度無い感じに底抜けに明るい性格がプラスしている。俺の人生にまるで関わり合いの無かったタイプだ。
まあいい、これで名前を聞くという礼は貰ったんだ。帰らせて貰おう。
「そう、教えてくれてありがとう。じゃあ俺急いでるから、君も気を付けて帰るんだぞ」
「あっ暮春ちゃん!?」
背後からの声を無視して足早に家路に着く。幸いここからなら家まで遠く無いし、とっとと引き籠らせて貰おう。
◇◇◇
ちょっと息を切らしながら家へとたどり着く。
奇妙な出来事から再び日常へと戻ってきた俺。
小学生の女の子に関わるなんて事が俺の人生に発生するなんて思わなかったけど、それともこれでおそらばだ。
玄関の門を潜る。
「ふぅ……ただいま。って誰も居ないんだけど」
なんて独り言も零した。……のだが。
「へ~ここが暮春ちゃんのお家なんか。一人暮らしなん?」
ありえないはずの幼い声が背後から。
「な、なんで此処に?!!」
「アカンで暮春ちゃん、ウチの名前を礼代わりにとっとと終わらそぉなんて。そんなん子供だましやんな、今時の小学生をナメ過ぎちゃう?」
振り返った先には、またしても悪戯が成功したような笑顔を浮かべる紗良ちゃんがいた。
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