第2話 迫る少女
背後から幼い女の子の声が聞こえてきた。
まさか!?
そう思って振り向くと、あのランドセルを背負った美少女が立っていた。
「き、君だれ?」
面識は無いが当然知ってる。しかし、俺だと知られるとマズいかと思って咄嗟にとぼけて見せたのだが。
「そんなとぼけんでもエエって、何も取って食うゆうんちゃうんや。ただ兄ちゃんにな、お礼が言いたくてな?」
「れ、礼? そんな礼なんてされる程の事をした憶えもないし。君も何もされなかったんだしさ、ここは解散でいいんじゃないかな?」
「いやいや兄ちゃん、いくら謙虚は美徳ぅゆうても礼ぐらいはビシっと受け取っとくのがシュっとしたカッコエエ男の条件やで? ウチを助けてくれたヒーローなんやからちっ~こい夢ぐらい見させてぇな」
そう言って、女の子は俺の手を握って来た。その小さくて柔らかい手の感触に、思わずドキッとしてしまった。
「い、いやそんなんじゃないって! ほ、ほんとに偶々で偶然で君が勘違いするようなもんじゃないんだ!」
「偶々でも偶然でもそんなん問題ちゃう。どんなんでも兄ちゃんがウチを助けてくれた、ちゅう事に礼がしたいねん。それとも何か? ウチみたいな女子小学生なんて相手にする価値も無いんか? そやったら流石に傷つくで」
女の子はそう言うと、両手で目をこすり始めてしまった。
ま、マズい!? 俺はこんな小さい女の子を泣かせてしまったのか!
「わ、わかった。俺は確かに君を助けた。あんな風になるなんて思ってもみなかったけど……」
「今ゆうたな? ウチを助けたって」
「ああそういったけど……え?」
女の子は手を離すと、そこには涙なんて一つも浮かべておらず、してやったりと言わんばかりの笑顔があった。
(か、可愛い……)
は!? 俺はこんな小学生相手に何考えてるんだ!
「ならヒーローさんにはお礼を受ける義務があるなぁ。ウチみたいな美少女が感謝しに来たんやからラッキー思うて受け取らな、そら罰当たるぅゆうもんやで兄ちゃん」
「あ……ああ。でも事故起こしかけちゃったし気が引けちゃって」
「気にすることあらへん。悪い事してるのがバレて車のまん前に飛び出したあん男が全部悪いねんから。かわいそうなんは運転手のおっちゃんだけや、仕事中で急いどるところを……。ほんまロクでも無い事に巻き込まれたもんやな」
矢継ぎ早に喋る女の子。
今更気づいたけどこの子関西弁だ。という事は関西から引っ越して来たんだろうか?
落ち着いてその子を見る。美少女を自称するだけあってか、とても容姿が整っていた。
サイドテールの栗毛に、パッチリとした瞳と長いまつ毛。そして顔も小さくて鼻筋もスッと通ってて、全体の顔立ちも高水準に整っていた。
小学生だけあって身長は俺より三十センチ以上低そうだ。
健康的な肢体、とでも言えばいいのか。
子供特有の柔らかさが見てとれる体つきでありながらも、その手足はスラっとしていて、ショートパンツから伸びる足などは日に焼けた小麦色だけあってか細いながらも健康的な輝きを放っていた。
将来は美人になるだろうし、何よりこんな子と親しくなれれば、友達のいない俺の高校生活が楽しくなるかも……。いや何考えてんだ!?
「なんや兄ちゃん、ウチに見惚れてるんか? ふふん、歳頃の男子にしては中々お目が高いやんか」
そんな俺の視線を感じたのか、女の子が俺の顔を下から覗き込んでくる。その悪戯っぽい笑顔がまた可愛い。
「い、いや違うよ!? そんなんじゃ……その……」
口ごもる俺を見て女の子はクスッと笑うと手を差し出してきた。
「はは、なんていうか兄ちゃん可愛らしぃわ。うん! 兄ちゃん気に入ったわ! これは是非飛び切りの礼をせんとアカンくなったな」
「お、お手柔らかにお願い」
「な~に、美少女の助けて貰ったお礼ゆうたらお約束のヤツや。ちぃっとしゃがいでんか?」
言われるがまま腰を落とす俺。何をされるんだろうか?
先の予想が出来なかった俺は――一瞬頬に触れた柔らかい感触に気づくのが遅れてしまった。
「な!? なななな、何をするんだ!」
「何ってお礼やん。も~たかがほっぺにチュウやんか、兄ちゃんいくら何でも慌て過ぎやで」
そう言ってケラケラ笑う女の子。
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