Mission2 愛(偽装)を示して義母に結婚を承諾させよ①
まずったなあ……。
屋敷に
家に帰るなり悠臣は不要品をドラム
ぱちぱちと
「お前の問いにまだ答えていなかったな。俺の仕事はさっき見たとおりだ」
「……スパイって本当にいたんですね」
「
「わたしだってスパイにだけは言われたくなかったですよ」
正直な話、依都はスパイというものが
「スパイは空を飛んだり、生者の皮を
「誰からの知識だそれは。確かにハンググライダーを使ったり人工
「ふーん……」
スパイが行う近代的な
「それでだ」
ドラム缶の中身を枝でつつきながら悠臣がそんな前置きをして。
「お前、俺のために死ねるか」
「はあっ?」
「俺に仕える気はあるのかと
「初めっからそう言ってくださいよ……」
ごほんと一つ
「わたしの主は美緒様ただ一人。
「その主が俺に借金をしたまま
「う」
否定できない……。
「臣下は主のかわりに責めを負うのが道理では?」
「それは、そうかもしれないですけど……」
正論に返す言葉がなくなった。しかしこのまま大人しくスパイに買われるのも
依都はぶすっとふてくされて
それは血のついたシャツだった。おそらく昨夜悠臣が着ていたもの。
「その
赤い
依都の背後を取れる悠臣があの程度の人間に
「あの晩はお前がいた。〝悠臣〟はお
「かわいくない……」
あのときの依都の内心を読んだかのような言い草だった。
「……怪我、痛くないんですか」
「慣れてるからな」
無表情で悠臣が言う。
そんなことに慣れなくてもいいものを。
〝命は有効に使いなさい〟
爺様の言葉が頭をよぎって、シャツから悠臣の横顔へと視線を移した。
あの晩、忍びと知った途端に手のひらを返して
そこに、依都が命を有効に使えるだけの理由はあるのか。
「お金で妻を買うんならもっと別の人がいいんじゃないですか」
疑問に思って
「お前がいい」
端的に言われてびっくりする。
お前でいい、ではなく、お前がいい。そんな風に言われたのは初めてだった。
「
「任務?」
訊ねると、悠臣は美緒を買った理由をつらつらと話した。母親から結婚をせかされて
「とはいえ弱い人間を抱え込むのは荷物になるから乗り気ではなかった。その点、忍びであるお前ならば自衛もできるし好都合だ」
お前がいいってそういう意味か。
「俺と手を組み美緒のふりをしているあいだは本物から目を
「確かに……」
「だが
「そ、そんなのわかってるってば」
「だといいがな。ちなみに逃げたら本物の美緒を連れ
「……」
いちいち一言多いなこの男は。
むかっときて依都は思わず
忍びの時代は終わり、自分はもう役立たずだと思っていた。里のみんなのように命を賭ける機会もなく、このまま終わっていくのだと思っていた。
それはやっぱり、少し
だから最後に、美緒のために命を使いたいと思った。
ならばこれは、もしかすると最後の忍び働きとしてふさわしいのかもしれない。依都がいれば成功率は格段にあがるだろうし、悠臣にとっても有意義なはずだ。
……そのわりに悠臣は何故だかずっと
火にくべていた物がおおよそ燃え、悠臣が次に燃やす物を手に取った。
依都が
「あーっ」
「なんだ、着ていないということはいらないんだろう?」
「それは、そう、ですけど」
答えるとためらいもなく火にくべる。
「仕方ないから三万円で買われてあげる。忍びは
この男に買われるのは美緒のためだ。
別に同情とか、必要とされて
口を
「あの着物の」
「え?」
「
何を言うかと思えば。何故そんなことを
「……
だから依都はこの着物を選んだのだ。身命を
「それともう一つ。
〝死ね〟──と、悠臣は命じたというのに。
そのとき初めて、依都は
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