Ⅰ 甘い話には気を付けやがれでございます、お嬢様①
「そもそも、アルマリエにおける公爵家というものは、各家の祖がアルマリエ皇室に連なる者だということを意味しておる」
アルマリエ
「つまり、現状五家存在する公爵家の人間と国主は、
皇宮の奥深く、ルーシェの居室でのことだった。
ルーシェとカレンだけで囲んだテーブルには極東で
クォードが
──『息災なようで何より』とか『たまには』とか言いますけど、クォードをけしかけて来た日も伯母様と顔を合わせていますよね?
などとそのメモを見たカレンは思ったわけだが、とにかくようやく
「カレン、お前はミッドシェルジェ
立板に水を流すがごとく
「お前の姉と兄はミッドシェルジェの特性が強く出たのか
【伯母様、そんな
「ともかく」
カレンのさりげない忠告をサラリと聞き流したルーシェは、コトリと手の中にあった湯呑をテーブルに
「
【いえ、直訴したいのはそこではなくて!】
『いや、そこもしたいけど!』とカレンは思わず湯呑をテーブルに
【私が
「そちらも却下」
【なぜっ!?】
「知らぬのか? カレン。
【そういう話でもなくっ!!】
今年で
──それ自体は『
カレンは気を取り直すとキッとルーシェを
【これは! 魔法議会で死罪が決定した大罪人なんですよっ!? 何でそんな人間をわざわざ執事にしなきゃいけないんですかっ!?
その圧を意識的に
「他の人間ならば受け入れてやってもいい、とでも言わんばかりの言葉じゃな」
【もちろんお断りですけど、こいつはさらにお断りってことですっ!】
「なぜ?」
【なぜって……!】
「これは仕事ができぬのかえ?」
『なぜってこいつ大罪人ですよっ!?』『いつか絶対に私を裏切って組織に
「メイド長のフォルカからの報告によれば、これは執事として大層役に立っておるそうではないか。報告書には毎度礼の言葉が述べられておるぞ?」
【ぬぐっ!】
「ひと月会わぬ間に、お前の
「当然でございます」
腹心のメイド長が思わぬ形で裏切っていたことにカレンはさらに文字を詰まらせる。
そんなカレンの代わりに口を開いたのはクォードだった。それまで背景に
「対価を得るためには成果が必要です。たとえ相手が引きこもりのクソガ……お嬢様であろうが、我が身の自ゆ……わたくしに
──ちょいちょい本音が
カレンは思わずルーシェに向けていた視線をキッとクォードに
──確かに、仕えてはいるけども! 仕えてはいるけども……!
確かに、この押しかけ執事はカレンが思っていた以上に
常に引きこもって魔法実験に明け暮れているカレンに三度の食事のみならず朝昼夕方三度のお茶まできっちり時間通りに取らせ、そのたびにみっちりテーブルマナーを叩き込む。歩いている姿を見かければ
『国政に関する知識の教授に関してはわたくしの手が届かないところでございますし、それ以前に
──本っ当に! 余計なお世話っ!!
さらにはその他執事の仕事もそつなくこなしているらしく、使用人達は随分と仕事が効率良く回るようになったとクォードに感謝までしているらしい。『あの引きこもりの人
もっとも、これらの声はカレンが直接聞いたわけではなく、メイド長のフォルカが朝の
──確かに、みんなの負担が軽くなるのはいいことだ。うちはただでさえ私のワガママで人を減らしているわけだし……
自分が魔法研究以外てんでダメダメなお嬢様失格の生活を送っていた自覚はカレンにもある。だが
つまりカレンの引きこもり魔法研究ライフは、一応大義がある引きこもり生活なのだ。
日に六度も食事の席に引きずられていくのは魔法研究者としては非効率この上ない。魔法研究を
そもそも、だ。
──あれはどう考えても主に仕える執事の態度じゃないでしょ!
言いたいことだけ言い放った後、スッと再び背景に埋没していったクォードの姿に、カレンは思わずクッションに
──
お茶の席につけば好きな物から食べようとするカレンの手元を魔銃で押さえて『
──確かに、今のところ、
人というものは、
「カレン。いくら個として強大な力を有していようとも、ヒトというものは決して独りでは生きていけぬのだよ」
己の言葉が通らない苛立ちや、
その瞬間、ふとルーシェが身に
「
その言葉に、カレンは改めてルーシェに視線を向けた。
強大な魔力を持つ者は、総じて長命だ。魔力総量が最大となった年齢で体の成長は止まり、内に
歴代最強の国主と名高いルーシェは、
「お前には、お前と同じ時を生きていける仲間と、生活を
ルーシェの
波打っていた内心がそれだけでスッと冷えていく。ルーシェを真っ
【私は、人と
魔力が強い者は
アルマリエ
魔力が強いということは、それだけ直系の子ができにくいということだ。そのためアルマリエでは
ルーシェが言う通り、どれだけ個として
最初から直系の子が産まれることはないと分かっているだけに、
【後継者争いで余計な血を流さないために、とりあえず私の名前で書類の
ルーシェの魔力総量から考えれば、あと百年は
それが『無言姫』と名高い人嫌いの引きこもりであるカレンに『次期国主』という似つかわしくない肩書きが押し付けられた
【私は
確かに、ルーシェの判断は正しいと思う。カレンとルーシェは伯母と
だが残念なことに、カレンはそれらの好条件を
──それを差し引いても、私は人の中にはいない方がいい。
周囲に人がいなければ、
それがカレンの十六年の人生の中で得た最大の学びだ。
【それを伯母様も認めてくださったから、研究
だが国主として日々宮廷の
「確かに、そこに間違いはない。お前の言う通りじゃ。だがこの先、お前以上の適任者が生まれてくる可能性は低いとは思わぬか? ならばいつ何時何が起きてもいいように教育は
【まさか、最初からこの形にハメてゴリ押しするつもりだった、とかないですよね?】
ルーシェが真摯なことを言い始めたから同じだけ真摯に心の内を口にしたというのに、ルーシェが
「まさか。姪の行く末を案じる伯母心よ」
そんな視線さえをも
「言うたであろう? いくら個として強大な力を有していようとも、ヒトというものは決して独りでは生きていけぬ、と」
その合図を見過ごすことなくテーブルに歩み寄ったクォードは、
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