第二章 推し様と思いがけない急接近!?②
「人づてに噂を聞いてね。何とかして会ってみたいと思って、来たんだが……」
テーブルについている人々の中に、まじない師らしい人物はいないと気づいたのだろう。レイシェルト様似の美声が
あぁ……っ! 推し様のお声に似たイケメンを
「あの……。お探しのまじない師でしたら、たぶん私のことだと思うんですが……?」
「きみが?」
「その、店じまいして帰ろうかと思っていたんですが……。せっかく来てくださったんです。お話をうかがいますよ?」
私は扉の近くの二人
こんなお客さんはたまにいる。ほとんどが男の人で、たとえまじない師が相手でも、自分の心の弱いところや情けないところを出すことができない性格の人だ。
いつもだったら、相手が話し出すまで根気よく待つけれど、今日はあんまりのんびりしていられない。だって、マルゲが怒ったらほんとに
「あのぅ、ごめんなさい。今夜はあんまり時間がないんですけれど……」
おずおずと告げると、「すまない!」と、青年が
「その、いざ目の前にすると、何をどう話せばいいかわからなくなってしまってね……」
うわ──っ! やっぱりこの声、レイシェルト様のお声に
いや、
っていうか私は、遠くからレイシェルト様のお姿を拝見させていただければ、それだけでもう十分ですからっ! 推し様に
うっかりトリップしてしまいそうになった私はあわてて自制する。今の私はまじない師のエリなんだから。ちゃんと目の前のお客さんに向き合わないと失礼だ。
「話したくなければ、無理に話す必要はないんですよ? おまじないをするだけというのも、可能ですから」
無理やり聞き出すことで目の前の青年の心を傷つけたくない。
「自分が、
「自分の責務を放り出したいわけじゃない。誰よりも立派にやり
とすっ、と。青年がこぼした言葉が矢のように胸を
『お兄ちゃんみたいに満点を取って、学年一位になるの』
『いい高校へ行っていい大学へ行って、非の打ちどころのないだんな様と
ずっとかけられていた期待。でも、前世の私は応えられるだけの能力が無くて。
『お兄ちゃんは満点なのに、どうしてあなたはいつもこんな点なの!?』
『お母さんに
小さい
でも、お兄ちゃんみたいに頭がよくなかった私の成績は、私立の中学校に入るとどんどん落ちていった。周りはみんな教科書を一度読んだだけで暗記できるような人ばかりで、
この人も、同じなんだろうか。努力を認めてもらえずに、苦しんでいるんだろうか。
そう考えた
「……望まない役目や期待を、押しつけられているんですか……?」
もしそうなら、言葉を
私の言葉に、青年が弾かれたようにかぶりを
「いやっ!
声と
「
胸をつかれるような声に、私は反射的にテーブルの上で握りしめられた青年の拳に手を伸ばしていた。遠い昔、自分自身がそうしてほしかったように。
「大丈夫ですよ」
口が勝手に言葉を
「大丈夫です。周りの人はお世辞なんか言っていません。あなたはちゃんと、努力できている人です。でなかったら……」
私はそっと、固く握りしめられた拳をほどく。
「こんな風に、
「っ!」
びくり、とマントに包まれた肩が揺れる。
「……信じて、いいのだろうか……?」
道に迷った子どもみたいな
「もちろんです。私は剣術のことなんて全然知りませんけれど、それでも、この手が
きっぱりと断言して、いつものように「目をつむってください」とお願いする。
「目を……?」
「ええ。おまじないです」
私の言葉に、ぎこちなく青年が姿勢を正す。フードで見えないけれど、たぶんちゃんと目をつむってくれているんだろう。
「あなたの大切な人のことを心に思い
告げると、まるで
「あなたとあなたの大切な人達に幸せが来ますように……」
「……どう、ですか……?」
いつも祓った直後は
「……今ならわたしへ向けられた言葉も、素直に受け入れられそうな気がする……」
ぼんやりと寝起きみたいな声で
「すごいなきみは!
「ひゃっ!? あの……っ!?」
そ、そういえば無意識に手を握っちゃってたんだった!
あわてて引き
「なんとお礼を言えばいいんだろうか! あっ、そうか、お代を
これいつもの代金の二十倍なんですけど! こんな高価なお代、もらえるわけがない。
「あの、これ……」
「すまない。足りなかっただろうか?」
何の疑いもなく次の銀貨を取り出そうとする青年を必死で押しとどめる。
「違います! 逆です、逆! いただきすぎです! いつもは銅貨五枚なんですから!」
告げると、青年の声が困り果てたように
「銅貨……。すまない。銅貨は持ち合わせが……」
この人お
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