第二章 推し様と思いがけない急接近!?①
レイシェルト様との出逢いから二年後。
私は、ヴェールとフードをかぶって顔を隠し、マルゲのお兄さんのヒルデンさんが経営する王都の町人街にあるレストランで、相談
推し様を見つけたあと、何とか推し活のための資金を
公爵令嬢といえど、家族に
とはいえ、身分と
私が聖女の力を持っていることは、マルゲにさえ話していない。けれど私と話していると心が
聖女の力をお金稼ぎに使うのは、知られたら怒られるかもしれないけれど……。邪悪の娘である私が聖女かもしれないと疑う人なんているはずがない。
何より、推し活のためだもん! 使える力は何であろうと使わないともったいないっ!
というわけで、毎週末、邪悪の娘とわからぬようにフード付きのマントとヴェールで
エリとしてテーブルについた私の目の前には、今夜の相談者が座っている。奥さんと
「ご事情はわかりました。では、目を閉じてください」
と、いかにもご
「気持ちを落ち着けて……。大切な人のことを心に思い描いてください」
目を閉じたおじさんの
「あなたとあなたの大切な人達に幸せが来ますように」
「目を開けてくださって
おずおずとまぶたを開けたおじさんが、「おお……っ」と
「何だかわからねぇが、心が軽い……っ! いや、身体まで軽くなったみたいだ!」
さっきまで黒い靄がついていた肩を回す。
「
「いいえ。心が晴れたようでよかったです」
ほっとしながら、にこりと
だから、お客さんには大事なもののことを考えてもらって、その気持ちで隙間を埋めるようにしてもらっているんだけど……。よかった。うまくいったみたいだ。
これが
「家に帰ったらかみさんに
「きっと大丈夫ですよ。あ、心配ならお
というか、私がマルゲと
リリシスの花というのは、青い花弁に、中央部分はぼかしのように黄色が入っている
レイシェルト様が好んで
もちろん、作っているのはクッキーだけじゃない。リリシスの花を
「リリシスの花があらわすレイシェルト
ここぞとばかりにオススメする。推し様のグッズを作って幸せになって、その売り上げでもっと推し活ができて、もっとレイシェルト様を推せるなんて……っ!
何この至高の
ヒルデンさんによると、グッズの売り上げはなかなか好調らしい。レストランに来る女性のお客さんが増えたと喜んでくれている。
「おお!
代金の銅貨五枚を置いたおじさんが立つ。心はすっかり奥さんへ向かっているようだ。
「こちらこそ、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて銅貨を腰に下げた
最初はうまくいくかどきどきだったけれど、幸いにも正体がバレることもなく、今や週に一度のまじない師のエリになる日は、私の楽しみになっている。
まじない師のエリをしている間だけは、私は邪悪の娘でもなんでもない、その辺にいるただの女の子だ。最初は反対していたマルゲも、私が楽しそうに過ごしているのを見て、今では一緒にクッキーを焼いてくれるほどになった。
っていうか、念願の推し活に励めてるんだもの! 毎日が
とはいえ、そろそろ帰らないとマルゲを心配させるだろう。王都は、主に貴族街と町人街に分かれている。町人街も警備隊が
ベルがついている
りんっ、とベルが鳴ったかと思うと、外側から勢いよくドアが押し開けられる。
「わっ!?」
とっさに反応できず、下がろうとした足がもつれる。体勢を
「す、すまないっ!」
耳元で聞こえた美声に、びくりと
で、でも今の声……っ!
『きみは何も悪いことなどしていないよ』
二年前、初めて聞いたレイシェルト様の美声が
って、落ち着け私っ! 王太子でいらっしゃるレイシェルト様が、町人街の店を
「こ、こちらこそ申し訳ありませんでした……っ!」
あわてて詫びて、青年から身を
うわっ、口元を見ただけでもわかる。絶対イケメンだわ、この人……っ!
服装だって、地味だけど仕立てのよいものだ。もしかしたら、お
「この店に、何でも
「へっ?」
私がそのまじない師ですけど? っていうか、なんか知らないうちに、すごい
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