第一章 私、今世でも推し様を見つけました!
「まあ
「サランレッド公爵が
目立たないよう最後に
だから来たくなかったのに……。と小さく
サランレッド公爵家の長女・エリシアとして転生した私は今年で十五歳になっていた。
アルスデウス王国では貴族の子女は十三歳で国王陛下に拝謁し、社交界デビューすることになっているというのに、私が王城へ謁見に来たのは今日が初めてだ。
何百年も昔、
これ以上
前世と同じで、今世でも私には人の負の感情が黒い靄となって見える。でも、前世と
消えて、と心の中で
どうしてこんなことができるのか自分でもわからないけれど、前世の絵理と違って、エリシアは黒い靄を
歴史の本などで読んだ内容から推測するに、たぶんこれは聖女の力だ。でも……。
「国王陛下のご入場でございます」
王城の
「
いぶかしげな陛下のお言葉に、最前列にいるお父様があわてふためいた声を出す。
「い、いえっ、陛下の
「そのような
陛下の言葉に息を
「は、はいっ。失礼いたします……」
一度さらに深く頭を下げると、顔を伏せたまま、貴族達の間を通って前へ進む。
私の姿を見た貴族達から嫌悪の黒い靄が
陛下のお心遣いはありがたいですけれど……っ! できれば、邪悪の娘である私なんて、放置しておいていただきたかったです……っ!
心の中で嘆くも、陛下のご命令に逆らえるわけがない。
最前列に並ぶのは、お父様とお母様、そして本日の主役である二歳年下の妹・セレイアだ。
くすんだ青色の地味なドレスの私は、お父様達の
私が前に進み始めた時から、お母様達から前が見えなくなりそうなほどの黒い靄があふれ出している。本来、二年前に済ませておくはずの私の成人の謁見が二年も
『邪悪の
と、お母様が
『セレイア嬢には姉がいるだろう。
とのお言葉を
陛下が型どおりの祝いの言葉を述べた後、特別にセレイアへ声をかける。
「セレイア嬢。聖女であるそなたが成人を迎えたことは、
「陛下より直々にお言葉を賜るとは、なんと光栄なことでございましょう……っ! わたくし、王国の
セレイアが
今日、謁見の間に
何百年も昔、勇者とともに
セレイアだけでなく邪悪の娘と呼ばれる私まで、聖女の力を持っていると知っている人は、ひとりもいない。幼い
でも、それでいい。私は聖女になんてなりたくない。
だから、聖女として
たとえ、邪悪の娘と
国王陛下が退出された後、私は大勢の貴族達から囲まれるセレイアやお母様達から
これ以上、人目につく前に
初めて入ったお城は、まるでおとぎ話に出てくるような
「おう、いいぞ。一度出してみてくれ」
庭園に配置された
ざぁぁぁ……っ!
それまで水音ひとつしなかった噴水から、勢いよく水が
「っ!」
私の頭は水音を聞いた
廊下にくずおれ、震える両手で耳をふさごうとした瞬間。
「きみ……っ!
耳に
──その瞬間、世界が止まった。
待って。え? ちょっと待って。
私を覗き込んでいるのは、光神アルスデウス様が手ずからお作りになったかのような端整な
「顔が真っ青だ。……すまないが、失礼するよ」
「ひゃっ!?」
次の瞬間、引き
「空いている部屋で休むといい。きみの侍女はどこにいるんだい? 使いをやろう」
「いえっ、あの……っ。わ、私はひとりで……っ」
私の返答に青年が
「きみは……。サランレッド公爵家のエリシア嬢だね?」
名乗らずとも青年にはわかったのだろう。黒髪黒目の貴族の娘が、
「は、い……」
驚きに息を呑んだ瞬間、今の自分の
「も、もう大丈夫ですのでっ! どうか下ろしてくださいませ……っ!」
邪悪の娘が王太子殿下に抱き上げられているところなんて見られたら、いったいどんな
「エリシア嬢、落ち着いて」
「申し訳ございませんでした……っ! 王太子殿下に多大なるご
震えながら必死に
「どうして謝るんだい?」
片膝をついたレイシェルト殿下のあたたかな手に、左手を包み込まれる。
「きみは何も悪いことなどしていないよ。体調を
きっと邪悪の娘である私に貴族達がどんな反応をしたのか、お見通しなのだろう。
──きみは何も悪いことなんてしていない。
頭の中で
「あ……」
レイシェルト殿下の光り
碧い目を瞠ったレイシェルト殿下が口を開くより早く。
「し、失礼いたします……っ!」
あたたかな手から指先を引き
そうでもしないと、胸の奥から
神様
私……っ! この世界でも、推し様を見つけました……っ!
どうやって馬車に乗って
「お嬢様!? いったいどうなさったのですか!? 王城で口さがない貴族達に失礼
「マルゲぇ~っ! 私、推し様を見つけたの……っ! どうしようどうしましょう~っ! 推し様が尊すぎて、尊さが限界
ドレスのまま
「おし? ばくはつ……? お嬢様、何があったのですか?」
聞いてくれるのねっ、マルゲ! 語っていいのねっ!?
「あのねっ、レイシェルト殿下に初めてお
「はあ……?」
マルゲが「意味がわかりかねます」と顔にでかでかと書いて、あいまいに
「まさか、もう一度推し様ができるなんて……っ! ねぇマルゲ! レイシェルト殿下ってどんな方なの!?」
離れにほぼ引きこもりの私と違い、有能なマルゲは情報通だ。勢い込んで
「そうですね……。御年は十八歳。文武両道の
「待って! ちょっと待って! 推し様情報の供給過多で酸欠になっちゃう……っ!」
「お嬢様っ!?」
「でもくださいっ! もっと推し様の情報を……っ!」
「どうなさったんですか!? おとなしいお嬢様がこんなに興奮なさるなんて……っ! お願いですから少し落ち着いてくださいませ。さあ、深呼吸をなさって……っ!」
マルゲに背中を
「先ほどから、『おし』なる
「マルゲも推し活に興味あるっ!? 推し様っていうのはね! 尊くて
「あ、いえ。結構です。不用意に聞いてはいけないものだと理解いたしました」
ぐいぐいと
ちぇー。せっかく前世のみっちゃんみたいな推し仲間ができるかと思ったのに、残念。
確かに、ふだんの私を知っているマルゲにしてみれば、私の急変は信じられないに違いない。前世の記憶を持って生まれた私は、小さい
でも、レイシェルト殿下……っ! ううんっ、不敬だとわかっていても、レイシェルト様とお呼びさせてください……っ! 推し様に出逢った私は生まれ変わったのっ!
絵理からエリシアに生まれ変わって十五年。これまでの日々は、邪悪の
だけど、推し様に出逢えた今の私は違う! 心は春の青空のように晴れ
「とにかく! 推し様を見つけたからには、全力で推させていただきたいのっ!」
し、しまった。やっちゃった……。前世でも親友のみっちゃんに『推し様について語っている時の絵理はテンションが上がりすぎて周りが見えなくなってる時がある』って言われてたっけ……。ごめん、マルゲ。でも今はどうしても気持ちが
だって、レイシェルト様という
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