第二章 推し様と思いがけない急接近!?⑥
「ティアルト、殿下……?」
レイシェルト様の腹違いの弟であるティアルト様だった。
「ご、ごめんなさいっ!」
ティアルト様があわてふためいて身を起こそうとする。手をついてわたわたと顔を上げ、私の顔を見た
「わ──っ! 邪神の使いだ──っ!」
反射的に手を
令嬢達の陰口なんて比じゃないくらいに、ざっくりと心が裂ける。
そうだよね。小さい子にとったら、
思わず、
「ティアルト!?」
聞き
「うぁあんっ! 兄様~っ! 邪神の使いが……っ!」
え、
よりによってレイシェルト様と大切な弟様にご
「……ティアルト。彼女は邪神の使いなどではないよ。れっきとしたご
優しくなだめる声が、さやかに夜気を
「エリシア嬢。ティアルトが大変な失礼をした。
思いがけなく近くで聞こえた声に、
お兄様にしがみつくティアルト様と、守るようにぎゅっと抱きしめたレイシェルト様とのツーショットは思わず
「だ、だだだだだだいじょうぶですっ!」
ななななっ、なにこれナニコレ!?
「わ、私こそ、ティアルト殿下を驚かせてしまい、大変申し訳ございませんでした!」
「いや、ティアルトが走っていたせいできみにぶつかってしまったのだろう? 非はこちらにある。どうか謝らないでほしい」
「いえっ! 私もよそ見をしていたので悪いのは私です! 本当に申し訳ございません! 怪我などしておりませんので、どうぞ、お気になさらないでくださいませ……っ!」
「エリシア嬢は優しいのだね」
と
レイシェルト様に名前を呼んでいただいていると思うだけで、感激のあまり涙があふれてしまいそうで顔を上げられない。
しかも、私を邪悪の娘と
「だが、兄として非礼を
レイシェルト様が
黒い靄を発しているのは、ぎゅっとレイシェルト様の服を
か、かわいい~っ! この愛らしいお顔を
「レ、レイシェルト
「だが、エリシア嬢は実際に邪神を
「え……っ?」
驚きに、まじまじとレイシェルト様の顔を見る。
そんなことを言ってくれた人なんて、マルゲを除けば今までひとりもいなかった。黒い髪と黒い
「国を導く者として、自分の目で確かめたわけでもない中傷を信じて、人を傷つけていいはずがない。さあ、ティアルト。エリシア嬢に謝罪を」
レイシェルト様が前へ引き出そうとするが、ティアルト様はいやいやと首を横に
私は一歩
「ティアルト殿下は、邪神を
「そ、そうだよ……っ!」
急に話しかけられたティアルト様の
「私は邪悪の娘と呼ばれておりますが……。どうでしょう? 立派な
おずおずと顔を
「う、ううん……。何もついていない……」
「おっしゃる通り、私は髪と目が黒いだけで、あとは
「こ、怖くなんかないよっ!」
あえて
「さすが勇者の血を受け継ぐ王子様でいらっしゃいますね!」
「……本当に、何も怖いことしたりしない……?」
「いたしませんよ。ですが……。ティアルト殿下におまじないをかけることはできます」
優しく
「おまじない……?」
「はい。ティアルト殿下に悪いことが起こらないようにと。勇気がおありでしたら、
そっと右手を差し出すと、
「こ、怖がったりなんてしないよ! 僕はいつか勇者になるんだから!」
ふんすっ、と勢いよく鼻を鳴らしたティアルト様が、小さな手を私の手のひらに重ねた。
「では、少し失礼いたしますね。目を閉じて、大切な方のことを思い浮かべてください」
促されたティアルト様が
「ティアルト殿下と殿下の大切な方々に幸せが来ますように……」
「っ!? きみは……っ!?」
し、しまった! あまりにティアルト様がお
「あ、あの! これは……っ」
うまい言い訳が見つからず、おろおろと視線をさまよわせると、
「わぁっ! 怖いのが飛んでった気がする……っ! あっ! こ、怖くなんかなかったんだからねっ!」
あせあせと首を横に振ったティアルト様が掴んでいた服を放し、ぴょこりとおじぎする。
「その……。ぶつかって、大きな声を出してごめんなさい……」
「とんでもないことです。私もよそ見していたので、お
可愛い……っ! 天使がここにいる……っ! 脳内で天上の
「ちゃんと言えたね、ティアルト。さすが、勇者の血を引く強く正しい子だ。他人の言に
「えへへぇ~」
よしよしとお兄様に撫でられたティアルト様が、とろけるような
と、尊い……っ! 兄弟愛がまぶしすぎて、目が
今にも
「僕、ちゃんとエリシア
ティアルト様の問いかけに、ちらりとレイシェルト様が私を流し見る。
「そうだね。なら、今日のお詫びも
…………はい?
いま何とおっしゃいました……? 信じがたい言葉が聞こえてきたんですが……っ!?
「わあっ、素敵! 僕が
「ああ。個人的な小さなお茶会だからね。ティアルトにとってもよい練習になるだろう」
「やったあ! あのね、僕食べたいお
お二人の笑顔がまばゆすぎて、話してる内容がひとつも耳に入ってこない。
「というわけで、エリシア嬢。きみをお茶会に招待したいんだが……」
「い、いえ、私なんてそんな……っ! どうぞお
お茶会なんて
「エリシア嬢」
失礼のない断りの言葉をなんとかひねり出そうとする私の心を、レイシェルト様の微笑みが
「きみが来てくれたら嬉しいのだけれど、受けてくれるかい?」
「は、はいっ! 喜んで……っ!」
私の意思とは裏腹に、口が勝手に
無理ぃ~っ! レイシェルト様にこんな風に問われて
「では、近日中に招待状を送らせてもらおう。……お茶会を、楽しみにしているよ」
え……? 今のって、夢……?
邪悪の娘である私なんかの名前をレイシェルト様が覚えてくれていただけでも
はっ! きっとあれね。レイシェルト様が
うんうん、と
あまりぐずぐずしていては、また貴族達に
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