甘
時間と共に力が抜ける。
「無駄無駄無駄」の声が心の中に満ちる。
その時、運転席のドアが開いた。
雅代が何か言っているようだ。
。o(もっと押せ?それとも帰って来い?)
全く聞こえない。
わからない。
だけど、これ以上押しても無駄だ。
足は助手席に向かう。
ドアは...ドアの...どこを掴んで開けるんだっけ?
カスッ!カスッ!
上手く開けられず、手がドアを擦る。
ガチャッ!
中から、雅代がドアを少し開けてくれた。
ゆっくり、身体を車内に入れ、席に座る。
手袋を外して、ドアを閉める。
「....」
手の痺れが収まった天身は、携帯電話を手に取った。
電池が切れて、画面が真っ暗だ。
この非常事態を外部に伝える手段は、雅代しか持っていない。
。o(この歳になっても他人に甘えて生かされる身か)
外で死神に甘えるのとどちらが良いかと考えた天身は、「フフッ」と笑った。
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