自然

天身は、車を押すのを諦めて、助手席に戻ろうとした。

強い向かい風が行く手を阻む。


ゆっくり、足を上げて進む。

自分の身体なのに、金属を持ち上げるかのような重ったるい感覚だ。

ここに来る時よりも、さらに体の動きは遅くなっている。



。o(横断歩道を渡る老人の方が速かろう)



そんな事を考えた自分に気付いた時、生死の天秤が揺れているのも感じられた。


のろのろと助手席のドアに辿り着いた天身は、ドアを開けて車内に入った。

シートに座ると、身体にへばりついていた雪が、すぐに液化した。



「....」



2人とも、しばらく無言だった。



天身の肉体に、感覚が戻ってきた。

すると、ガクガクと震えが起こった。

それは10秒弱で止まった。



。o(自然...)



風も、雪も、雲も、太陽も、生も、死も、自然だ。

美幌峠のそれに触れ、天身は心の中で神に敬意を捧げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る